皇女襲来
「それにしても完敗だったぞ」
「殿下も強かったですよ」
「世辞はいい。そなた、本気を出しておらんかったろ?」
「っ、なぜそうお思いに?」
「何となくだがそんな気がした」
「……流石ですね、確かに私は本気を出していませんでした。しかしそれは決して殿下を見下していたわけではありません」
「ではどういう意味なのだ?」
「私は単純に殿下と魔剣で勝負したかったからです。私は魔術が扱えますが殿下にはそれを使わず同じ状況下で戦いたかったのです」
「………くくく、はっはっはっはっ!やはりそなたは素晴らしい!」
皇帝は上機嫌に笑うと俺の背中を叩いた。
「痛いですよ、殿下」
「何を言う!そなたのことを気に入った!我のことは今後名前で呼ぶがいい!」
「し、しかし……」
「構わん構わん!我が許可したのだから良いのだ。それに素で喋ってもいいぞ。戦いの最中、素が出ていたしのう」
「聞かれてましたか」
「故に、我に気を使うことはない!」
俺は視線でティーベルに助けを求める。しかしティーベルは面白そうに笑うだけだった。
「………わかった、わかりました!これでいいのか?」
「おう!」
皇帝はその後しばらく笑顔だった。
「それでティーベル王女の身柄についてだったな」
「えぇ。俺が勝ったっていうことで俺の条件は飲んでもらえるのか?」
「そうだな。正式な決闘で負けたのだ。皇帝として受理しよう」
「ありがとう。助かる」
「我とそなたの仲だ。気にする事はない」
「そうだ。俺の事もガルでいいよ」
「そうか。これからよろしく頼むぞ、ガル」
俺とバルザムークは握手を交わす。
これで一件落着と言ったところかな?
「皆の者!このガルと出会えたことに感謝するのだ!」
「………………は?え?」
突然のことに俺は目を丸くする。
「これを機にガルと仲良くなるのもよかろう!」
「ちょ、どういうこと?」
「何、この者たちにガルと話す機会を与えようと思っただけだ」
「どうして!?」
「この者たちにとって力が全てなのだ。そして今まではこの我が頂点であったがそこに突然この我を倒した存在が現れた。それなら興味を持つのは自然の流れであろう?」
「えぇ…………」
そこからは俺と帝国貴族との挨拶交流のというべき時間が始まった。
帝国貴族との挨拶が終わったのは昼近くだった。
「やっと終わった………」
「お疲れ様ですわ」
「ティーベルか」
帝国貴族ということで下手な言動もすることができないから言葉遣いに気をつけていたのだが、そのせいで精神的疲労が溜まってしまっている。
「みな、ガルのことを気に入っておったようだぞ。やるではないか!」
「はいはい。ありがとうございますよ」
俺は投げやり気味に言う。
「そろそろ昼だし王城で食べていくがいい。てか我と共に食べよ」
「えぇ……」
皇帝と帝国の王城で食事をするってなんか嫌だ。
「そんな顔をするでない。そんなに我と食事をするのは嫌か?」
「そういうわけではないが……」
「なら問題あるまい!」
そのまま肩を組まれて連れてかれそうになる。
「ええと、わたくしはどうしたらよいのでしょうか?」
「そなたもガルと共にいたいであろう?来るがよい」
「それではありがたくご同行させていただきます」
そして競技場から出ようとした時、
ガシャンガシャンと鎧が揺れる音が聞こえた。しかもなぜか足音が近くなってきた。騎士が誰かかと思ったら現れたのは赤髪の少女だった。
「父上!先程の炎はなんなのですか!?」
そして俺の存在を無視してバルザムークの肩に掴みかかった。
「「……………父上!?」」
突然に現れた少女に俺とティーベルは驚きを隠せなかったがそれ以上に少女がバルザムークに言った単語の方に意識が向いてしまった。
バルザムークのことを父と呼ぶということはこの少女は皇族であり、皇女ということになる。
「人がいたのか。気付かなかったようで申し訳ない」
俺とティーベルの叫びが耳に入ったのかようやく俺たちのことを認識したようだ。
「とりあえず落ち着け、リーゼ」
「申し訳ありません、父上」
おぉ、とバルザムークがちゃんと父親をしているのに少し感心した。
「顔が見えておる。我のこの様子がそんなにおかしいか?」
「い、いえ……」
この人周り見すぎてませんかね?
「父上、こちらの方々は?見たことないのですが………」
「そうだな。お前にも紹介しておこう。こちらの女性はランバルト王国の第一王女ティーベル・フォン・ランバルト王女だ」
「ご紹介にあずかりました、ティーベル・フォン・ランバルトと申します。以後お見知りおきを」
ティーベルはドレスのはしをつまんで頭を下げる。
立場的に俺ではなくティーベルを紹介するのが先だと言うことは当たり前で超一流の武人というだけでなく皇帝としても優秀のようだ。
「そしてこちらがティーベル王女の護衛でこの国にやってきたガーリング・エルミット殿だ」
続けて俺も頭を下げる。俺の場合は余計な口を挟まない。
「お二人にも娘を紹介しよう。我が娘、リーゼロッテ・フォン・プロメテアだ」
「第一皇女のリーゼロッテ・フォン・プロメテアだ。よろしく頼む」
リーゼロッテ皇女は胸に手を当て、騎士さながらの敬礼をする。
「して父上、先程の炎は何だったのですか?突然現れたと思ったら急に消えてしまったのですが……」
「それは我とガーリングの手合わせの時にな。すべてガーリング殿が引き起こしたのだぞ」
「な!?あれほどの事象を一人で引き起こしたというのですか!?」
「その通りだ。我も彼に完敗したしの」
「な、なあ!?父上が、負けた?」
リーゼロッテ皇女はその事実を受け止めきれないのか、その場にいた帝国貴族たちに目線で問いかける。その目線に気がついた帝国貴族たちは肯定するように頷く。
「そん、な…………」
あまりにも衝撃的だったのか、ふらつきながら後退してしまう。
「……ちょっと、何とかしてくださいな」
「何とかって無理だろ……」
俺とティーベルはこそこそと会話する。
すると突然リーゼロッテ皇女に手を握られた。
「私と手合わせしてくれないか!?」
「…………は?」
予想の斜め上の答えに目が点になってしまった。




