皇帝殿下
皇帝との謁見。それは帝国の王城で行われる。
「ようこそおいで下さいましたな、ティーベル王女」
そう言うのは玉座に座るこの帝国の皇帝バルザムーク・フォン・プロメテア。燃えるような真っ赤な髪に鍛え抜かれたと見てわかるほどの肉体。そしてなんといってもその魔力量。そんじょそこらの人間には持ってないほどの量をもっている。武人という貫禄があり話す一言一言にオーラを感じる。
周りには帝国貴族が立っている。よく観察すると獣人族が多いように感じる。
「この度はお目にかかれて光栄に存じます、バルザムーク皇帝殿下」
ティーベルは恭しく頭を垂れる。
俺はティーベルの後ろで何も言わずに頭を垂れている。俺はあくまでティーベルの護衛としてきていることになっている。時が来るまで黙っておくのが吉だ。
「すでに王国には早馬を遣わした。心配することはない」
「ご配慮、痛み入ります」
そして間を開けて、
「ウェイン皇子のことは誠に申し訳ありませんでした」
ティーベルはさらに頭を低くする。
「気にすることはない。あやつの実力が足りなかったに過ぎんよ」
皇帝は困ったような寂しそうな顔をする。肯定も人の子だ。それなりに思うところもあるだろう。
「しかしティーベル王女が無事で何よりだ。聞いた話によると魔族と遭遇したとか」
「その通りでございます。みな、必死に戦ってくれました」
「ティーベル王女を守るために亡くなったのだ。本望であろう。そなたの護衛の騎士も、我が愚息もな」
ティーベルは無言で再び頭を下げる。
「それで後ろにいるのが此度の英雄殿か?」
「はい。わたくしの仲間であるガーリング・エルミットでございます」
「ふむ」
すると皇帝は値踏みをするように俺の事をじっくりと見る。
「ウェインを殺した魔族を倒したのは偶然ではないようだな。そなたからは隠しきれないほどの強さを感じる」
俺は無言で頭を下げる。
「発言を許す。そなたの口から名を申せ」
「はっ!私はバルフォンス・エルミット男爵が次男、ガーリング・エルミットと申します。皇帝殿下にお目通りかなったこと、恐悦至極にございます」
「よいよい。強きものは大歓迎だ。楽にして構わんぞ」
「私は今、ティーベル王女の護衛としてきていますのでそのようなことは致しかねます」
「そうか」
皇帝の申し出を辞退すると残念そうにしていたがすぐに引き下がった。そこまで意地になることでもないのだろう。となると本題は次か。
「ガーリングといったな。そなたは男爵の次男、つまるところ当主になることはない」
「その通りです」
「我に仕える気はないか?」
「なっ!?」
俺より先にティーベルが反応する。
「……それは、我が国の人材を引き抜く、ということでしょうか?」
「それはおかしなことを言う。別に引き抜くわけではないだろう?ガーリングはランバルト王国に使えているわけでもないだろうに」
「それはそうなのですが……」
「それにもしガーリングが帝国に来るならばそれ相応の歓迎をしよう」
「ですが彼も貴族の端くれ、我が国に属する義務があります」
「だがそれは正当な評価ではあるまい。帝国は王国より高待遇でガーリングを迎え入れよう。どうだ?ガーリングよ」
皇帝が俺に話を振る。たしかに俺がここで帝国につけば王国での待遇よりさらにいいものになるだろう。
だが俺の答えはもう決まっている。
「その申し出は非常にありがたいのですが、お断り致します」
「ほう?」
皇帝は面白くなさそうに頬をつき、周りにいる帝国の貴族たちはピリッとした雰囲気になる。
「それはなぜだ?もしかしてすでに王国に仕えることが決まっているのか?」
「そういうわけではございません」
「ではなぜ?」
「私が近くにいたいと思う人が王国にいるからです」
俺はフィリアを、リリアを、そしてティーベルを思い浮かべながら答える。彼女たちだけではない。父上、母上、兄上、姉上、スティアード、ケルストなどたくさんの人たちと出会った。成人したら旅をするつもりではあるがそれでも彼らと出会ったことは俺にとっての宝物だ。王国にいなければ彼らに出会うことはなかった。だから俺は王国を裏切ることは絶対にしない。
「それは誠に残念だな」
皇帝は今までで一番残念そうにしている。
俺をここまで評価してくれるのはそれだけこの皇帝が優秀だからだろう。
俺は皇帝の評価を数段上げた。
「それで皇帝殿下にはお願いがございます」
「我の頼みを断ったのに今度は我に頼みをするか」
皇帝はめんどくさそうにため息をする。俺に断られたことがよっぽど残念だったのだろう。
「しかしながらこれは王国と帝国の今後に関わるものでございますのでお話を聞いて頂きたく思います」
ティーベルがそう言うと少しは気が向いたのだろう。顔を少し引き締める。
「はい。この度の件でわたくしの婚約者であったウェイン皇子が亡くなりました。そのためわたくしの立場が不安定になってしまいました。これはそのお話でございます」
「ウェインが死んだのなら兄であるギルディアに嫁げば問題あるまい。それで帝国と王国の同盟関係は成立する」
「恐れながら申し上げます。ティーベル王女は此度の件で非常に心を痛めております。すぐに結婚する、というのは賛同しかねます」
俺はすかさずティーベルの援護に回る。
「……それは帝国と王国の同盟の話を白紙に戻すということか?」
「そうは申し上げておりません」
「しかしティーベル王女が帝国に嫁ぐことでこの同盟は成立するのだ」
「いえ、ティーベル様が嫁がなかったとしても皇帝殿下がランバルト王国を信頼してくださるなら同盟は成立します」
「話にならん」
皇帝は俺の話を一蹴する。
しかし皇帝がそう言うのは想定済み。だから俺はとっておきを披露する。
「ならば――――」
「邪魔するぜ」
俺の言葉を遮って何者かが部屋に入ってきた。
「はぁ。なぜ来た?」
「なぜって、俺も皇族なんだから普通だろ、親父?」
皇帝の前に立ったのは皇帝の同じ赤い髪に目付きが悪い青年だった。




