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英雄騎士の最強魔道  作者: バニラ
帝国編
52/176

王女の危機

 一日目と二日目は特に何も問題は起きなかった。

 強いて言うならば二日目の昼に魔物の襲撃にあったくらいだろう。しかしそれも護衛が無事に駆逐した。

 そして到着予定の三日目に突入した。

「姫様、もうそろそろでございますね」

「そうですわね。………最後まで気を抜いてはいけませんよ」

「はっ!」

 ティーベルは窓から護衛の騎士に声をかける。

 ティーベルは欠伸を噛み殺す。実の所、緊張していてあまり夜も眠れていない。

(もうすぐで帝国に着く、ということはもうこの国ももう最後なのですのね)

 そう思うと懐かしく感じる。この十二年間、この王国で育ってきたのだ。たとえそれが苦く、苦しかったとしてもそれは確かな思い出として刻まれる。それに嫌なことだけではなかった。学校に入学してからというものティーベルは目に見えるほど笑顔が増えていた。それを知るのは家族と一部の使用人のみであるのだが。

 すると突然、馬車が大きく揺れた。

「「きゃあ!」」

 ティーベルと侍女が悲鳴を上げる。

「な、何が起こりましたの!?」

 痛みに顔をしかめつつ状況の把握に努める。

「ま、魔族です!」

「……え?」

「魔族が現れました!」

 それはガーリングのいない今、絶望ともいえる宣告だった。










「姫様は馬車から出ないでください」

 護衛の騎士の一人が言う。

「なんか立派な馬車に護衛、中にいるのはいい御身分の人間ってことか?」

「貴様にこたえる義理はない!魔力よ、体に満ちて恩恵を与えよ!『身体強化オーバーエフェクト』」

 護衛の騎士たちが次々と身体強化の魔術を発動する。

「そんな粗だらけの身体強化で俺に勝てるとでも?」

「黙れ!」

 騎士の一人が疾走する。王族の護衛をしているだけあって速い。だがそれは詠唱魔術による基準だ。

「ぬるい」

 魔族は腕を横なぎに振るうと騎士を体ごと吹き飛ばす。

「ぐあああ!」

 その隙に魔術師たちが魔術を放つ。

「「「「魔力よ、風となりて敵を切り刻め!『風刃』」」」」

「聞くかよ!」

 魔術は魔族の体に当たると霧散してしまう。

「なあ!?」

 いくら初級魔術といえど一度にくらえば中級魔術以上の威力になることさえある。とはいいつつ今の一撃はそこまでの威力はないがそれでもかなりの威力のはずだ。

 つまりこの魔族は強者である。

「とりあえず寝な!『雷槍』」

 魔族は雷の槍を作り出し魔術師たちに浴びせる。

「「「「「わああああああああ!」」」」

 魔術師たちはなすすべなくやられる。戦闘不能に追い込まれいているが死んではいない。

「『豪炎』!」

 炎が魔術師たちを襲う。

「あああああああああ!」

「ぐあああああああ!」

 次々と悲鳴が上がる。だが無情にも魔術師たちは絶命していく。

「あ、あああ、あああああああああ!」

 初めてみる人の死にティーベルは動揺を隠せない。

「そ、そうですわ!」

 ティーベルはペンダントを取り出し魔力を込める。ペンダントが淡く光り、だんだんと明かりが消えていく。

「こ、これでいいのかしら……」

 ドンッ!

「ひぃ!」

 馬車に衝撃が伝わり揺れる。恐る恐る見るとそこには血まみれになって動かない騎士の姿があった。

「っ!ティ、ティーベル様!危ない!」

「きゃあ!」

 侍女に馬車から突き落とされる。

 すると次の瞬間馬車が吹き飛んだ。

「な、な…………」

 さっきまで乗っていた馬車が跡形もなく消し飛んでしまっている。

 馬車に残っていた侍女はどうしたのか、そんなことさえも気にすることができなかった。

「あん?お前、馬車に乗ってたやつか?」

「こ、来ないで!『豪炎』!」

「うおっ!」

 魔族が慌てて回避行動をとる。それが初めての回避行動だった。

「へぇ、顔は上玉。身体もいい。イキがいいのも俺好みだ」

「ひぃ!」

 魔族のなめまわすような目線を向けられ生理的嫌悪をあらわにする。

「ひめ、さ…ま……」

「お前はもういい」

 そう言ってまだかすかに息のあった騎士の胴体に拳で穴をあける。それが致命的になったのか騎士は絶命してしまった。

「い、いやああああああああああ!」

 ティーベルは王族であるがゆえに人の死に対面したことがない。数々の修羅場を経験し、自分の死を覚悟したことがあるとはいえそれで《《死人》》が出たことがなかった。しかしここで初めて見てしまった。肌で感じ取ってしまった。死、そのものを。

「逃げんじゃねぇぞ」

 魔族はそう言うと腕を払って血を払う。ティーベルを掴んで服を引きちぎる。

「や、やあ………」

 ティーベルにできるのはかすかな抵抗のみ。しかしそれさえも魔族を喜ばせる要因になっていた。











 ヒヒーン!

 馬の声が聞こえる。それにたくさんの足音も。

「なんだなんだ?応援か?」

(応援?どこからかしら?王国からなんて来るはずがありません。ということは帝国?)

 ティーベルはわずかに残った思考で考える。

「ティーベル様!お助けに参りました!」

 そう叫ぶのは馬に乗った好青年。周りには武装した騎士たちがいる。

「だ、ダメです、わ……来ては、いけません」

 ティーベルの声は小さすぎて青年に届くことはない。

「我はプロメテア帝国の第二皇子ウェイン・フォン・プロメテアだ!彼女が我の婚約者と知っての狼藉か!」

「ふーん、婚約者ねぇ」

 魔族はおもしろそうに獰猛に笑うとウェインに向けて飛ぶ。

「弓矢!放て!」

 矢が魔族に向かって飛ぶが傷一つつかない。

「効かぬか!ならこれならどうだ!」

 ウェインは馬から跳躍すると空中で魔族と激突する。

「うおおおおおおおおお!」

 魔族と拮抗している、が次第に押し負け地面に叩きつけられてしまう。

「皇子!」

「よそ見をするな!」

 ウェインは指示するが意味がない。無詠唱魔術は発動するのに時間がいらない。

「『風渦』!」

「「「「うわああああああああああああ!」」」」

 隊列を組んでいた軍隊はあっさりと崩壊し、派手に吹き飛ぶ。

「きさま――――ガッ」

 魔族は起き上がったウェインの首を掴む。

「ウェイン、様………」

「はぁ、ほんと人間ってしつこいな『豪炎』」

「あああああああああ!」

 騎士の体が燃え上がる。魔族はウェインの首を掴んだままティーベルの目の前に戻る。

「クッ………ティ、ティーベル、様………」

「ウェ、ウェイン様………」

 魔族の手によって目の前に連れてこられた婚約者を見て恐怖に顔をゆがませる。

「……………カ、、ハ……」

 そしてウェインの口から大量の血が溢れる。

「え?」

 呆然と呟いたティーベルはウェインの腹部を見て顔を引きつらせる。目を逸らそうとしても恐怖で体が言うことを聞かず、瞬きひとつすらできない。

 魔族の手がウェインの腹部を完全に貫通していたのだ。魔族の手はより手に染まっている。ティーベルの顔にウェインの血がかかる。服もウェインの血で汚れてしまった。

「あ、、が……」

「ウェイン様!」

 ウェインの体はもう幾何の猶予もない。目にも光がない。しかしまだ死んではない。

「お楽しみはこれからだぜ」

 そういうと魔族はウェインの首をかき切った。

 ウェインの首はゴトリと地面に落ち、切断部からは血が噴き出している。

「あ、あああ、ああああああああ………」

 ティーベルは目の前で婚約者の首が落ちるのを見て気力をなくしたように力が入っていない。たとえそれが婚約者でなかったとしてもティーベルには刺激が強かっただろう。

「いいねぇ!そういうのがいいんだよ!」

 魔族は愉悦に満ちた表情でティーベルを見る。

 魔族が手を伸ばすも抵抗する様子がない。

「ひひひ。思う存分楽しませてもらうぞ」

(わたくしも、ここで終わりですわね……まさか、こんなことになるなど……最後にガルさんに好意を伝えておけば、よかったのかもしれません)

 ティーベルが魔族に掴まれる瞬間、突然魔族とティーベルの間に氷の壁ができた。

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