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英雄騎士の最強魔道  作者: バニラ
帝国編
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王女の出立

 ガーリングが緊急事態に気付く数日前のこと。

 王城の正門では家族の別れの挨拶がされていた。

「本当にいいのか?我慢する必要はないんだぞ?」

「心配しすぎですわ、お兄様。これはわたくしが選んだ道ですもの。後悔していませんわ」

「すまぬの、このようなことをさせて」

「お顔を上げてください。わたくしの祝いの門出に辛気臭い顔は似合いませんわよ」

「貴方は貴方らしく生きるのですよ」

「はい、お母様」

「……お姉様、行ってしまうのですか?」

「クリス……」

 ティーベルの前に立っている子はティーベルの妹、クリスティーナだ。

 ティーベルは膝を曲げてクリスティーナを抱きしめる。

「いい子にしているのよ」

「……また、会える?」

「っ……」

 ティーベルは返答に詰まってしまう。他国へ嫁いでしまうと元の国へ戻ることはほとんどできない。もしかしたら妹とは会えなくなってしまうかもしれない。

「……会えるわ、きっと」

 しかしクリスティーナにそんなことを言えるだけの勇気はティーベルになかった。だから希望的観測を口にするしかなかった。

「それでは行ってまいります」

 ティーベルはクリスティーナを放すと家族に向かって毅然と言う。

 そして馬車に乗り込む。

(振り返ってはいけません。振り返ってしまえば決意が鈍ってしまうかもしれませんから)










 王城を出て王都内を通る。王都はティーベルの結婚でお祭り騒ぎだ。

 ティーベルは馬車から顔をのぞかせる。

「ティーベル様だ!」

「ご結婚おめでとうございます!」

「ティーベル様万歳!ティーベル様万歳!」

 国民たちの呼び掛けに手を振ることで応える。笑顔になることも忘れてはならない。

「オオオオオオオオオ!」

 すると国民たちはさらに盛り上がる。その姿は楽しそうで今を全力で生きているように見える。

 元々人類同士で争ってきたのに今の時代は魔物や魔族といった人類に敵対する勢力も現れている。動乱の時代ともいえる。いつ死ぬかも分からない、だからこそ今を全力で生きようと努力している。

 ティーベルはその姿を見て決意を固める。

(この人たちを見殺しにすることはできませんわ。わたくしが、わたくしがやらなければ)









 王都を出ると街道に入る。ここから先は森も存在し、魔物と遭遇する危険がある。

 警戒しながら王都から帝国まで大体三日くらいだ。休憩として一日置いて結婚式となる。

 結婚式は基本的に親族は出席しなければならないが、今はそんなことをしている場合ではないのだ。唯一出席できる親族はクリスティーナくらいだが、クリスティーナは現在九歳だ。行きはティーベルが一緒だからまだいいが、帰りは一人となる。そんなもの論外だ。つまり結婚式でのランバルト王国側の出席はティーベルと護衛、侍女だけだろう。完全アウェー状態となる。

(あまり気乗りしませんわ…)

 ティーベルは心の中でため息をつく。しかしこのような感情は決して見せてはいけない。

「……ティーベル様、お加減が優れませんか?」

「え?どうしてかしら?」

「顔色が悪いようにお見受けしましたので……」

「そうでしょうか?いつも通りだと思いますわよ」

 慌てて笑顔で取り繕う。

 侍女は主人をよく観察し、最善を尽くさなければならない。だから少しの変化でも気づかれてしまう。

(やりにくいですわね)

 いつもならこのようなことは思わないだろう。

 馬車にいるのはティーベルと一人のメイドのみ。護衛の騎士や魔術師は外で見張りを行っていて他の侍女は別の馬車で待機している。何よりこれから結婚する女性と同じ馬車に男性を入れるなど論外である。








 もしここにリリアがいたら、たくさんおしゃべりして楽しませてくれるかもしれない。

 もしここにフィリアがいたら、たくさんからかって可愛がれるかもしれない。

 もしここにガーリングがいたら、それだけで満足してしまうかもしれない。

 そんなもしもをどうしても考えてしまう。

(わたくしはそれを自ら捨てたというのに……情けないですわね)

 ティーベルは自嘲する。自分から捨てたといってもまだ割り切ることができていない。まあ約一週間前までは一緒に過ごしていたので当然と言えば当然なのかもしれない。

 ティーベルはそっと懐に手を当てる。そこにはガーリングからもらったペンダントの入った箱がある。

 結婚する以上、他の男性からの贈り物は処分しなければならない。それはこのペンダントも例外ではない。

(わたくしは…ガルさんのことが好きなのだったのかもしれませんわね。気づいたとしても今更ですわね)

 ティーベルはようやく自分の感情と向き合う。何かと理由をつけて逃げていたがもう会うことがないと思い吹っ切れたのだ。

(せめて……せめてもう少しだけ)

 ティーベルは想い人のことを考えながら懐の手に力を込めた。

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