王女のいない学校
課外合宿も終わって秋が近づいてきた。
「今日もティーベルさんは休みですか」
そんなある日、フィリアが寂しように呟く。
「ここ数日まったく来てないもんね。心配だよ」
リリアも寂しそうだが心配の方が強いのか不安そうだ。
「王族とかって学校を休むくらい忙しいのか?」
「ジークロット様は成人してるから忙しいと思うけど、ティーベルはまだ学生だからそんなことはないはずだよ」
「ならなおさら謎だな。病気とかだったら噂されててもおかしくないけどそんな素振り全くないからな」
「お父さんに聞いてみるのもありかもね」
「リリアさんのお父さんは宰相様でしたね」
「それなら何かしらの事情を知っているかもしれないね」
そう話していると先生が教室に入ってきた。
しかし先生の表情がいつもよりやや強張っているような気がする。
「本日はみなさんにお知らせがあります。実はティーベル様がこの学校をやめることとなりました」
「「「…………え?」」」
その知らせはあまりにも急で、驚愕で、想定外だった。
他のクラスメイト達も頭の整理が追い付いていないのか、茫然自失したようすだ。
「………そ、それでは今日の授業を始めますよ!」
先生はクラスの暗い雰囲気をなんとかしようと明るくする待っていたが、その日は終始クラスはいつもより一段と暗かった。
「ティーベルの身に何が起きてるか分かったよ!」
翌日、誰もいなくなった場所でリリアが勢いよく立ち上がる。
「わかったから座れ」
この場にいるのはリリアの他に俺、フィリアの三人。
「それでどうしてなんだ?」
リリアが落ち着いたところで改めて本題に入る。
「ティーベルが結婚するらしい」
「…………え?」
「だからティーベルが結婚するのよ!」
「ええええええええええ!」
「二回言う必要あったか?」
「だって一回じゃフィリアがついていけそうになかったから……」
まあわかるが。今も驚愕で動きが止まっている。
「でも結婚ならわざわざ学校をやめることないんじゃないか?」
「それが王国貴族ならね。でも今回の相手は帝国の皇子なの」
「…つまり典型的な政略結婚ってわけか」
「で、でも早過ぎないですか!?」
ようやく復活したフィリアが異を唱える。
「それに関しては私もそう思うわ。王国での結婚は基本20代前半、早くても成人してからだからね」
「でも実際は起こってしまっている、か」
「別にティーベルの年齢で結婚する前例がないわけじゃない。王族なら決してありえない話でもない。それにティーベルはそこら辺の女性よりはるかに大人っぽいから相手も拒否はしないと思うわ。でもティーベルを手放すことの意味がわかっているのか不安になってくるわ」
「ティーベルさんを手放すことの意味、ですか?」
「えぇ。ティーベルは王国内でも有数の魔術師としての実力を持つ。そんな彼女が帝国に行ってしまえば貴重な人材を失うことになるわ。それに帝国が魔術の扱いに長けてしまうことも考えられる」
「それをあの国王やリューク様が知らないとは思えない。何かしらの理由があるはずだ……いやもしかしたら王国の思惑もあるのかもしれない」
「どういうこと?」
「ティーベルの実力はそれこそ王国でもトップクラスだが、ティーベル自身はまだ駆け出しにすぎない。もしこのままティーベルが成長を続けてしまえば確実に人質としても王国から出すことが出来なくなる。だからまだ早熟のうちに王国の外に出すなら出したいんじゃないか?」
「なるほど。確かにそれなら王国がティーベルの結婚に踏切ったことに説明がつく。完全にやられたわね」
リリアが悔しそうに歯ぎしりをする。
「それで、ティーベルが結婚するに至った経緯はわかるのか?」
「それもちゃんとお父さんに問いただしてきたわ」
情報源はリューク様なら信用度が高そうだな。
「実は最近の王国内で魔物の動きが活発化しているらしいの」
「その魔物たちに対処できなくなったから帝国に助けを頼んだというわけか。ティーベルを人質として」
「そんな……」
人質と聞いてフィリアが悲しそうな顔をする。
「そうね。話によるとガルくんに頼むかというのも出たらしいけど学生の身分って理由で却下されたらしいし」
「まぁ当然だな。功績があるといっても俺は学生に過ぎない。そんな俺を頻繁に使うと国としても裂けたいだろうからな」
「あとはこの問題が多発的だからね。いくら強大な力を持っているといっても一個人よりも組織力に優れている国の方が問題解決に繋がるわ」
「な、なんか私はもうついていけません…」
フィリアは元々使用人だったわけだからこういった政治的な事情には疎いのかもしれない。
俺は前世でいろんな国と関わってきたからある程度慣れているから問題はない。
「ちなみにティーベルの結婚相手は?やっぱり第一皇子か?」
「いえ、第二皇子らしいの」
「はあ!?それはありなのか!?」
それにはたまらず俺も驚愕してしまう。
普通、他国の王族に自国の王族が嫁ぐ場合、王位継承権の高いものと結婚させる。そうでなくては自国が他国に対して下に見られる恐れがあるからだ。
「驚くのも無理ないけど今回は例外よ」
「……どういうことだ?」
「帝国は完全な実力主義の国なの。だから皇帝の座も実力によって決められる。さすがに血の制限はあると思うけど実力によっては第一皇子より第二皇子の方が皇位継承権が高くなることがあるの」
「つまり今回がそれに当てはまるというわけか」
「その通りよ。まぁお父さんが言うには理性的で紳士的な人らしいわよ。第一皇子と違って」
「そこで第一皇子が出てくるのかよ」
「第一皇子は相当悪評があるわよ。自分が皇族であることをいい事に女をとっかえひっかえしたり態度も横柄だとか。それよりは第二皇子が相手なのはよかったかもしれないのが唯一の救いね」
リリアはそう言うと一息つくようにため息をする。
「結婚は一週間後、多分二、三日のうちには王国を出るはず。その間に挨拶出来ればいいけど……」
「お前らはいいとしても俺は無理だろうな」
「でしょうね」
「ど、どうしてですか!?」
納得できないというようにフィリアが声を上げる。
「簡単な話、これから嫁に出すのに他の男と会わせられるわけがない」
「うっ……」
さすがにそのくらいはわかるようで言葉に詰まっている。
俺は外を見る。空は曇りでなんとも言えない気持ちになった。




