王女の覚悟
ある都市で――――
「ま、魔物の大群が発見されたみたいだ!」
「守りを固めろ!」
「領主様に報告を!」
次々と飛ばされる命令。やがて標的である魔物が姿を現した。
「な、なんだあの数……」
「数百はいるぞ……そんなの見た事ない」
魔物の大群が自分たちが遭遇したことがないほどの規模であることに呆然としている。
「グオオオオオオ!」
やがて魔物の大群の中でも序列が高そうな魔物の咆哮と共に魔物たちが進軍を始めた。
それを見て呆然としていた兵士たちは気を引き締めた。
「ま、魔物たちが進軍してきたぞ!弓矢隊!構え!………放て!」
ピュンピュンと音を立てて矢が発せられる。
魔物が多すぎてどこに射ても矢が当たるが、数が多すぎて話にならない。ほぼ焼け石に水状態だ。
「街には絶対入れさせるな!」
「オオオオオオオオオ!」
指揮官と思しき兵士の声に他の兵士たちも雄叫びを上げて自信を奮い立たせる。
矢で確実に仕留めているが魔物が尽きる前に矢が尽きるだろう。下級の魔物といえど数によっては一流の騎士であっても後れを取る可能性がある。
「くっ……領主様に応援を!」
「すでにしています!」
「つまり援軍が間に合うかどうか……」
もし援軍が間に合わなければ街にいる者たちは皆殺しにあうだろう。それはここを守るものとして許されることではない。
「非戦闘員の避難状況は?」
「順調に進んでいます」
「伝令!伝令!」
「どうした!?」
指揮官は突然の知らせに嫌な予感を覚える。
「はっ!それが、非戦闘員の避難道に魔物が数体いることが発見されました!」
「なに!?」
「魔物の征討は完了しましたがこの先にも魔物の襲撃がある可能性があります!」
「くっ……」
指揮官はどうするべきか考える。顔には大きなシワができている。
(非戦闘員を見殺しにすることは出来んが、かといって応援を出せばこの街の防衛が……)
「……10人連れて行け」
「た、隊長!」
「わかっている!今の街を防衛するには人数を割くことは出来んことくらい!」
「ではなぜ?」
「我々の役目は街の防衛であると同時に街の人間を守ることだ。ならばその役目も果たさねばなるまい……」
「……わかりました!」
伝令を伝えに来た兵士は悲痛な顔をしながら去っていった。そしてその場には指揮官とその補佐と思われる兵士だけが残る。
「……恐らくここが我々の死に場所となろう。お前もついてきてくれるな?」
「っ……もちろんです!この命、隊長とこの街に住む人に捧げましょう!」
「…では行くぞ。最期の戦場へ」
「最近、魔物の動きが活発になっております。そのせいで壊滅する街もあるとのことです」
王城の会議室は重苦しい空気で満たされていた。
「忌々しい魔物どもめ!」
そう荒々しく叫んで机を叩く者もいれば、
「早急に対応策を考える必要がありますな」
冷静に判断する者もいる。
「……あのガーリング・テルミットを動かすことは出来ないのか?」
「彼はまだ学生の身分だ。そう簡単に国の事情で危険に晒すわけにいかない」
「しかし今は急を要するのだ!そんなことを言ってられまい!」
議論は次第に白熱していき怒号が飛び交うまで発展する。
「みな静まれ。陛下の御前である」
その一言でうるさかった会議室が静かになる。
「……ティーベルよ、彼の力は借りられそうかのう?」
「それはお父様もよくわかっていらっしゃいますよね?」
「ううむ……」
国王が黙ってしまったため他のものたちが発言することなく静寂がその場を支配する。
やや間を置いて国王が口を開く。
「やはり、帝国の力を借りるしかあるまい……」
「あの、帝国ですか?」
「しかし同盟を結ぶとなるとどうすれば?」
「ティーベルを嫁に出す」
「「「「っ!?」」」」
その場にいたほとんどのもの達に電撃が走ったような衝撃を受ける。
「本気ですか、陛下!?」
「彼女が我が国を出ていくことの意味を分かっているのですか!」
「無論、分かっておる。しかしのう、こうすることが最善なのじゃ」
「私は反対です!ティーベルを嫁に出すなど早すぎる!私だってシャルロットと結婚するのは20代になってからだというのに!明らかに人質ではないか!?それにティーベルの嫁入りで帝国が同盟を結ぶのかどうかも怪しい!」
「実は一度ティーベルを嫁入りさせて同盟を組もうという話は前にもあったのじゃ」
「な!?」
「その時は断ったのじゃが帝国はティーベルを欲しているのは確かだと言っていい。断られることはないじゃろう」
「し、しかしティーベルの意志も――――」
「お兄様、わたくしは大切な人を守るためならなんでも致しますわ」
「っ!ティーベルはそれで満足なのか!?」
「はい。大切な人を自分が守ることができる。それはわたくしにとっての幸せですわ」
ティーベルはそう笑う。その笑顔を見てジークロットは何も言えなくなってしまった。




