圧倒的な実力差
次の日、砂浜に集まった生徒たちは身体強化の魔術の特訓をしていた。服装も水着ではなく動きやすい服装である。
「どうして海にまで来て魔術の練習しなきゃいけないんだよー」
「課外合宿なのですから当然ですわ。遊びに来たのではありませんわ」
生徒たちからは不平不満の声が上がる。
普段ならこんなことを言わないが海にいるという非日常感がそうさせているのだろう。
「なにか楽しさというか刺激がほしいです!」
「楽しいことがあったら頑張れる気がする!」
そしてその波は一気に広がった。
「た、楽しさと言っても何もないですよ…」
ミーナ先生が困ったように言う。
「だったらこういうのはどうですか?」
そして俺はボールを取りだした。
「ルールは簡単、パーティ対抗戦で相手コート内あるいは相手パーティの触ったボールが自陣のコート以外に落ちたら自分たちの得点になる。魔術は身体強化のみ有り。先に15点取った方の勝ちってのはどう?」
「おもしろそう!」
「それなら楽しめそうね!」
クラスメイトはやる気のようだ。
「でもガルたちのパーティが入ったら勝てなくね?」
スティアードはそう質問する。
「た、確かに…」
「そもそもフィリアさん一人に勝てる気がしない…」
「今回は俺たちは参加しないから安心しろ」
「よし!」
「それなら私たちでも勝てそう!」
各々がやる気になったところでもう一つ。
「ちなみに優勝パーティにはエキシビションマッチとして俺たちとの対戦がついてくるから楽しみにしててね」
そう笑顔で言い放つと先ほどまでの元気はどこへやら。急激に静かになってしまった。
「し、死にたくない……」
誰かが呟いた声にみんなが頷く。
「おいお前ら、俺らを何だと思ってるんだよ…」
「行っくぞ!」
「いいよ!」
「はぁっ!」
木陰で涼みながら試合を見る。今試合をしているのはスティアードやケルストがいるパーティと伯爵家の家で集まったパーティだ。
スティアードのサーブが勢いよく相手コートに叩きつけられる。
「よっしゃ!」
「スティアード、やるね」
「珍しくかっこいいよ」
「いけいけ〜」
パーティメンバーとの仲は良好のようで何よりだ。
「あのパーティ、かなり上達してるよね」
「そうだな」
隣にはリリアがいる。
ティーベルとフィリアは審判や雑用で動き回っている。
「私はてっきり伯爵家や侯爵家の人たちの方が早く上達すると思ってたけど逆なのよね」
リリアが言ったように無詠唱魔術の上達は上の爵位より下の爵位の人の方が上達が早い傾向にある。
「多分癖が抜けないんじゃないか?」
「癖?」
「上級貴族とかになると小さい頃から詠唱魔術を習ってきたはず。そのせいで無詠唱魔術に対して無意識に抵抗を感じてたりするかもな」
「逆に下級貴族はその練度が低いから無詠唱魔術を習得しやすい、ね。でも一番詠唱魔術をやってきたのはティーベルじゃない?」
「あれはもう才能だよ」
俺は肩をすくめる。
ティーベルは本当に天才だ。あれだけの実力があれば近接戦闘ができなくとも無双できるようになるだろう。果たしてその先に彼女はどうなっているのやら。
「ていうかリリアは手伝わなくてもいいのか?」
「ティーベルとフィリアがいるから大丈夫よ。特にフィリアなんて数人分の働きをするんだから」
今度はリリアが肩をすくめた。
そして優勝したパーティはスティアードとケルンのパーティだった。
「ガルー!早くやろうぜ!」
「休憩はいいのか?」
「昼も挟んだしな!」
スティアードたちのパーティが優勝した時点で昼になっていたから昼食をとってから試合をすることになっていたのだ。
「僕もちょっと楽しみになってきたよ」
「俺もお前らの成長を楽しみたいな」
男子は男子同士で話しているが女子は女子同士で話しているようだった。
「ティーベル様やリリア様と競えるなんて、恐れ多いです…」
「気にしなくてもいいですわよ。今は学友なのですし」
「そうそう。気楽に気楽に」
「しかしフィリアさんもほんとお可愛いですよね」
「え?え?ありがとうございます?」
「なんで疑問形なの?」
何を話しているか聞こえないが楽しくやっているのだろう。
そしてそれぞれのパーティが配置につく。
「でははじめ!」
ミーナ先生の合図で試合がスタートする。
「行きます!」
ケルンのサーブは身体強化をしっかり使った強めのボール。俺はそれをしっかりと捉えてレシーブする。
「フィリア!」
ボールはリリアの頭上にあがり、リリアは掛け声とともにボールを弾く。
フィリアは軽く助走してジャンプ。体が最高到達点まであがるとタイミングよくボールを打つ。その一連の動作は様になっていて美しかった。
ボールは尋常ではない速度で砂浜に激突。ボールは跳ねるのではなく砂浜にめりこんでいた。
「「「「………………」」」」
その光景にスティアードたちのパーティだけでなく観戦していた他の生徒たちまで絶句してしまっている。
「上手くできました!」
「ナイスフィリア!」
「やりましたわね!」
そんな中、フィリア、リリア、ティーベルは元気よくハイタッチする。
「…………もう少し、手加減してくれ?」
「…すまん、スティアードくん。多分無理だ」
結局エキシビションマッチは俺たちのパーティの圧勝で終わった。
「あー負けちまった。少しは相手になると思ってたのにな何も出来なかったぜ」
「ほんとにそうだよ。強く思ったけどまだまだだね」
スティアードとケルストは寝転びながら愚痴をこぼす。
「そう悲観することないぞ」
俺は二人の横に座る。
「お前たちはよくやっている。十分優秀の部類に入るさ」
「でもガルたちには手も足も出なかったぜ」
「俺たちは例外だ」
「違いないね」
そして三人で笑い合う。
「それでまぁ、お願いがあるんだけど…」
「なんだ?」
「ガルのお願いって珍しいね」
俺は思い切って口を開く。
「俺と友達になってくれないか?」
「「………は?」」
「…だ、ダメ、かな?」
「「い、いやいやいやいや!」」
「そんなに…」
予想以上の否定に落胆してしまう。
「あっ、そういうわけじゃなくてだな……」
「僕たちってもう友達だと思ってたから…」
「………へ?」
今度は俺の方が面食らってしまう。
「い、いつ!?そんな約束したっけ!?」
「や、友達って約束してなるもんじゃねぇし」
「そ、そうなのか?俺はこれまで友達と呼べるやつが誰もいなくてな…」
前世でも友達らしい人は誰もいなかった。誰も彼も俺のことを敬うような感じで仲がいいわけではなかった。唯一対等に話せたのは一人だけだったがそれも友達と言っていいものなのかわからない立ち位置だったからな。
「「ぷっあはははははは!」」
「なっ!わ、笑うなよ!」
「これは笑うだろ」
「まさかのガルが人付き合いがポンコツだったなんて……笑いすぎてお腹痛いよ」
「ほんと笑いすぎ……」
俺は恥ずかしさを誤魔化すように不貞腐れたように視線を逸らす。
「それじゃあこれから」
「僕たちは友達だよ」
二人が俺の前に立って手を伸ばす。
「……あぁ!よろしく!」
それはその手を掴んで立ち上がった。




