帰還
転移陣を起動させて周りが真っ白になる。始めの時と同じだ。
やがて周りが見えるようになるとそこはヴィルヘルムスハーフェン宝物庫の入り口付近だった。
「出口だ!」
そう言ってリリアは駆け出す。
「ちょっと!?」
「待ってください!」
続けてティーベルとフィリアも走り出す。
「危ないから走るなー」
ガーリングの忠告も無視して三人はそのまま走っていった。
「み、みなさん無事だったんですね!」
出迎えてくれたのはミーナ先生だった。
「よーしよしよし、ミーナ先生落ち着いて」
泣いて取り乱しているミーナ先生をリリアが窘めている。どういう状況なんだ?
「わたくしたちが無事に帰ってこられたことに安堵しているのではないかしら?」
「それはわかるがここまでか?」
「遭難者に王女が入っていたとしたらどうかしら?」
「「あ、あー」」
俺とフィリアは納得したようにうなずく。
「とにかく先生が落ち着くまではリリアに対応してもらった方がいいですわね」
「同感だな」
「ですね」
ティーベルの意見にガーリングとフィリアも賛同の意を示す。
「そういえばティーベルに言い忘れていたな」
「なんですの?」
「フィリアを守ってくれてありがとな」
そう言ってガーリングはティーベルの頭を撫でる。
「な、ななななななにを!?」
途端にティーベルの顔が真っ赤になる。
「え?あっごめん、つい」
容易く王女に触れるのはいけないことだったかもな。気をつけなければ…
「ティ、ティーベルさんだけずるいです!」
「いやお前は助けられた側だろ…」
「…………」
フィリアに無言のジト目されて仕方なくフィリアの頭を撫でる。
「むふふ」
フィリアはご満悦のようだ。
このやりとりをしっかりとリリアにも見られていて、後でリリアにも頭を撫でるのを強要されたのは言うまでもない。
馬車へ向かうと生徒たちが一斉に降りてきた。
「無事だったのか!?」
「よかった!」
そして群がってきてもみくちゃにされた。
「ちょ、ちょっと落ち着いて!」
「わたくしたちは無事ですわ!」
「つぶされる~~」
「はわわわわ」
俺たちの反応は四者四様。でもこんなに心配されるのは悪くない気分だ。
「転移した場所ってどこだったんだ!?」
「何か見つかりました!?」
いや、心配じゃなくて好奇心だな、これ。
そして俺たちは転移した後のことを話した。
初めの方は楽しそうに聞いていたクラスメイトたちだったが、途中からだんだんと顔色が悪くなっていき最後には完全に顔を真っ青にしていた。
「よ、よくそれで全員無事だったな」
「さすがガーリングさんというべきでしょうか?」
「ティーベル様も少し顔色がよろしくなってる気が…」
「も、もしかして何かあったり!?」
「な、何もなかったですわよ!」
「ティーベルはそこでなぜ慌ててるんだ?」
「い、いえ!そのようなことは!」
「焦ってるティーベルも可愛いよ」
「はい!」
このたくさんの笑顔を守れたからよかったな。
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「さっきからなんなんだ?俺の方をチラチラと」
「い、いえ!なんでもありませんわ!」
わたくしは咄嗟に誤魔化す。
「そうか。ならいいが…」
上手く誤魔化せたようですわ。
それにしても…
わたくしはもう一度ガルさんを見る。その姿はいつもよりかっこよく見えてなぜだかドキドキしてしまいます。
そ、それもすべてあの方たちのせいですわ!
それは馬車に乗り込む少し前の事だった。
「ティーベル様、少しよろしいですか?」
「何でしょうか?」
珍しいですわね、この方たちがわたくしにお話なんて。
ティーベルに話しかけてきたのはクラスでもあまり目立たない子爵家の令嬢の二人だった。
「あ、あの!ティーベル様はガーリングさんのことが好きなのですか!?」
「えっと、確かに仲間としては信頼していますし、好意的ではありますが…」
「そ、そうではなく男性として好きかどうかです」
「わ、わたくしがガルさんをだ、だだだ男性として好き!?」
「お、落ち着いてください!」
「そ、そうですよ!あまり大きな声を出すとガーリングさんに聞こえてしまいますよ!」
「はっ!」
わたくしは慌てて口を抑える。
ガーリングの方を見てもクラスメイトとの話に夢中でこちらには気がついてない様子にティーベルはホッと安堵する。
「ど、どうしてそう思ったんですの」
声のボリュームを落としてティーベルは二人に問いかける。
「だってティーベル様、ガーリングさんに頭を撫でられて嬉しそうにしていましたし」
「それに以前よりも距離が近くなってました」
「え!?」
ティーベルは驚いたように声を上げる。
(も、もしかしてあれを見られていましたの!?というかそもそもわたくしとガルさんの距離って近かったのですか!?無意識だったので気づきませんでしたわ)
「だ、大丈夫ですか?」
「急に黙り込んでしまって」
「だ、大丈夫ですわ」
そう取り繕うも内心ティーベルの心は焦りまくりだった。
「私たちはお、応援しています!」
「が、頑張ってください!」
「え?え?」
ティーベルは二人の言っている意味がうまく咀嚼できずに逃げの一手を選択した。
「そ、そろそろ出発のようですね!行きましょう!」
そのままティーベルは逃げるように馬車に乗り込んだのだった。
そして今に至る。
あ、あれから妙にガルさんを意識してしまいますわ。いつもより心臓がバクバクしますし、心なしか熱いような気もいたしますわ。
「ティーベル、どうしたの?」
「ひゃわ!」
リリアが急に抱きついてきたことに驚いて変な声が出てしまう。
「な、何を!」
「さっきからティーベルが落ち着きがなかったからね」
「や、やめ…」
リリアがティーベルの頬をつんつんとつつく。
「大人しく話した方がいいですよ」
「フィリアまで」
どうやらわたくしに味方がいないようですわね。
「もしかして、ガルくんの魅力に気がついちゃった?」
「なっ!わ、わたくしは別に好きになどなっていませんわ!」
「リリアさんは好きかどうかなんて聞いていませんよ」
「はっ!は、計りましたわね?」
「今のはティーベルの自爆でしょ」
リリアがやれやれといったように肩をすくめる。その姿に若干の苛立ちを感じますが言ってることが正しいので何も言い返せません。
「そ・れ・で?ほんとにティーベルもガルくんのこと好きなの?」
「だから違います――――ん?《《も》》?」
「あれ?気づいてなかったの?私とフィリアがガルくんのこと好きだって」
「〜っ――――――――!?」
突然の告白にわたくしは驚きすぎて声という声もあげることができませんでした。
(も、もしかしてあの方たちが言っていたのはこのこと!?)
「照れてるティーベル、可愛い!」
「はい!とっても!」
「か、からかわないでくださいな!」




