撃破
ティーベルが派手な音を立てて吹き飛び、壁にぶつかる。
「ティーベル!」
俺は叫びながらも魔族を剣で牽制する。
すぐに駆け寄って状態を確かめたいがここで魔族を放置しておくとフィリアとリリアに危害が加えられかねない。
幸いここにいるのは俺だけじゃない。
「ティーベル!」
「大丈夫ですか!?」
ティーベルにフィリアとリリアが駆け寄る。
「う、うぅ……」
「しっかりして!」
「目を覚ましてください!」
フィリアとリリアは目を濡らしながら必死に訴えているが、まだ目を開かないようだ。無理もない。あの一撃は確実に致命傷だ。それに魔術が使えない今、光系統魔術が使えなければ傷も癒すこともできない。
「はああああああああ!」
魔族に向かって剣を思いっきり振るう。魔族がこいつ一体になったのならこいつにだけ集中できる。
「クソ!結局始末できたのは一人だけかよ!」
「黙れよ」
「うおっ!」
俺の横に振るった剣を大きく退いて躱す。
「このまま死ぬのはゴメンだ!」
そう言って魔族は逃げようと扉へ向かった。
「ど、どうして開かないんだ!?」
魔族が焦ったように扉の前で立ち往生する。
この扉は外側からは開けられるが内側からは開けられない仕様になっている。
「逃がすものか!」
その隙を逃さず背中を狙う。
「『風回斬』!」
「ぎゃあああああああああ!」
魔族の悲鳴が響き渡る。
「血が、俺の血がああああああ!痛いいいいいいい!」
魔族は後ずさりながら顔を青ざめる。
「お前はもう終わりだ」
俺はゆっくりと魔族に近づく。
「や、やだ…死にたくない………死にたくない!」
「お前はここで死ぬんだよ」
俺は剣を振り上げて魔族の脳天を叩き割ろうとした。その時――――
「こ、ここは……」
「ティーベル!起きたのね!」
「よかったです!」
「ほんとか!?」
「嘘だろ!?」
ティーベルが目を覚めたことにリリアとフィリアが歓喜する。そして俺と魔族が驚きの声を上げる。
「頭がクラクラしますわ……」
「それだけ?痛みとかは?」
「魔族にやられたんですよ!」
「……そうですわ!いた、くないですわ………」
「ば、化け物なのかよ!」
ティーベルの様子に魔族が驚愕する。
「でもどうして無事なんだ?あの攻撃は致命傷になっていたはずだ」
「わ、わたくしにもわかりません…」
「あっ!もしかしてあれかも!」
リリアが思いついたように声を上げる。
「…あっ!あれですね!」
フィリアもなにか思いついたようだ。
「あれとは何ですの?」
「あれだよ、あれ!」
そう言ってリリアはティーベルの懐をまさぐる。
「ちょ、くすぐったいですわ」
「じっとしててね」
リリアはティーベルの懐から水晶玉を取り出した。
「物理対抗石!そういえばティーベルが持ってたんだな」
「忘れていましたわ」
物理対抗石は全ての物理攻撃を無効化する。それは装備者、および装備品に効果をもたらす。今回はティーベルが保持していたから彼女が装備者として認められ、無傷だったのだろう。心から安堵するよ。
「クソ!クソ!なんでこんな!」
「残念だったな。お前たちは無駄死にだ」
「なんなんだよお前ら!」
魔族はわけが分からないといったように叫ぶ。今回ばかりは運の要素が大きかったな。
「来るな!来るな!来るなあああああ!」
俺は魔族にとどめを刺そうと剣を振り下ろした。
「ぎゃあああああああああ!」
魔族は断末魔を上げ、灰となって消えた。
「ティーベル!ほんとに無事か!?」
魔族と倒した後、魔封石を破壊してティーベルに駆け寄る。
「えぇ。まだ少し頭がフラフラしますが目立った傷はありませんわ」
「一応光系統魔術もかけておいたよ」
「とにかくティーベルさんが無事でよかったです!」
そう言ってフィリアはティーベルに抱き着く。
「もう、フィリアったら」
「私も!」
「リリアまで…仕方ないですわね」
リリアもティーベルに抱き着き、ティーベルは困ったような嬉しそうな表情をした。
「それにしても今回ばかりはティーベルが死んだんじゃないかと思ったよ」
「わたくしも死を覚悟しましたわ」
「それはそうとティーベルさん!」
フィリアはティーベルの肩を掴んで向き合う。
「どうしてあの時私なんかを庇ったんですか!?」
「え?え?ふぃ、フィリア、落ち着いて…」
「落ち着けませんよ!あなたはこの国の王女様なのですよ!こんな使用人を庇うなんてあり得ません!」
「でも結果的に助かったわけですし問題ありませんわ」
「大ありです!今回は偶然助かっただけです!これからも無事だという保証はないのですよ!」
「そんなに怒らなくてもいいではないですか……」
フィリアのすごい剣幕にティーベルもたじろぎ気味だ。
「ティーベル、今回は私もフィリアと同じ意見よ」
「リリアもなのですか?」
「ティーベルはこの中で一番の重要人物なの。あなたが最も生き延びなければいけない人なの。わかる?」
「それは……」
「もう二度と軽はずみな行動で命を落としかねないことはしないで!」
「ですが!わたくしだって守りたかったのですわ!」
「「っ!」」
「他の方ならあんなこといたしませんわ!」
「どうして私たちなら守るの?」
「仲間だから、ですか?」
「そうですわね。仲間だから、でもただの仲間というだけではありませんわ。このメンバーは、わたくしが初めて心の底から一緒にいたいと思った人たちだからですわ」
「ティーベルさん……」
「わたくしに心から寄り添ってくれたのはあなたたちが初めてなのです。だからどうしても失いたくなかったのですわ」
「ティーベル……」
ティーベルはフィリアとリリアを抱きしめる。
「わたくしのために起こってくれてありがとう」
「「ティーベル(さん)……」」
「わたくしはとっても幸せ者ですわ」
そう言ってティーベルの目から涙があふれてきた。
「まったく」
「仕方がない人ですね」
ティーベルが泣き止むまで三人は抱きしめ合ったまま動かなかった。




