迷宮探索
さて、ここで一つ。転移の魔術仕掛けの発動後、転移したものはどうなるか。それは―――――
「「「きゃああああああ!」」」
「よっと」
答えは、どうなるかわからない。ちゃんと座標が定められていればいいのだがこの転移の魔術仕掛けは座標を設定していないのだ。
今回は少し上空に転移した。その結果、女子三人は落ちることとなった。ちなみに俺はちゃんと両足で着地した。
これはまだ運のいい方だろう。最悪の場合、壁や地面に埋まってそのまま死ぬこともある。
「イタタタ…」
「なんなのよ…」
「うぅ…」
「大丈夫か?」
とりあえず三人に『回復』をかける。
「ガルくん、ありがとう」
「ところでここはどこでしょう?」
俺は周囲を見渡す。
「うん、わからん!」
「「「えぇ!?」」」
ヴィルヘルムスハーフェン王国の宝物庫は計六層ある。しかし各階層にはこれといった特徴がないため層の判別はわかりにくい。はっきりわかるとしたら最奥に書いてある階層数だ。それに最奥まで行けば転移門で帰れる。
「ごめんなさい、私が興味を持ったせいでこんなことに…」
「フィリア?」
「フィリアのせいじゃないよ。私が無理やり入っちゃったから…」
二人がしょぼんと落ち込む。
「二人とも、落ち込んでないで行きますわよ」
ティーベルは相変わらず冷静だな。…いや違う!手が震えている!動揺してるのを必死に隠してる!
だがティーベルの言ってることは間違ってない。
「ほら立って。泣き言言ってる暇はないぞ」
「「…………はい」」
二人はゆっくりと立ち上がる。
とにかくどうしようか。ここがどこかわからない以上手探りで探すしかない。
「それにしてもここ、暗いですね」
「まだ整備されてないんじゃないか?ティーベル、ここってどこまで管理されてるんだ?」
「そうですわね…確か二階層までは発見されていたはずですわよ」
「ふむ…」
つまりここは三階層から六階層のどこかというわけか。あの転移仕掛けの転移先はランダムだ。魔術仕掛けがまだ生きていたとは油断したな。
「とにかく前に――――危ない!」
俺は魔力障壁を展開する。するとどこからどもなく土の矢が飛んできた。
「な、なんですの!?」
「矢!?矢!?」
「ど、どこからですか!?」
「落ち着けよ……」
三人は慌てふためく。そんなビビんなくても…
「だ、だってガルくんが助けてくれなかったら死んでたんだよ!?矢がグサーって刺さってたんだよ!?」
「わ、わたくしたちはここで死んでしまうのでしょうか……?」
「か、帰りたいです…」
「まだそんなに時間も経ってないんだが…」
この先が心配だな…
その後も数々の魔術仕掛けがてんこ盛りだった。火が現れたり、横から氷柱が飛んできたり、岩がころがってきたり。
「もう死んだ…10回以上死んだよ…」
「もう気力がありませんわ…」
「なぜでしょう…川の向こうにお母さんが…」
全員死んだ魚のような目をしているな。大丈夫じゃなさそうだな。あとフィリア、お前の母さんは死んでないぞ。
「一旦ここで休憩にしようか」
今進んでも意味が無さそうだしな。
「お前ら、もう少しリラックスしたらどうだ?」
「無理ですよ!?」
「むしろなんでガルくんは平然としていられるの!?」
「このくらいなら別に問題ないだろう?」
そもそも何回か来たことあるしな。
「はぁ、ガルさんって本当に何者なんですの?」
「男爵家の次男だよ」
「それだけではない気がいたしますが…」
「そんなことないよ」
これだけ派手に立ち回っていれば怪しく感じてしまうかもな。だけどここで俺が『英雄騎士』と教えるわけにはいかない。この時代の人たちは『英雄騎士』のことを神聖視しすぎている。それなのに俺が『英雄騎士』だと言っても信じないだろうし、むしろ反感を買いかねない。
「なんでもいいよ~。ガルくんはガルくんだし」
「そうですね。ガル様がいなければ今がなかったわけですし」
「そうか」
リリアとフィリアは深く詮索しないでくれる。リリアは公爵令嬢としてどうなんだよ。
それから休憩してある部屋を見つけた。
「こ、ここは目的地?」
「わからないです…」
リリアとフィリアは先程の失敗からか、慎重になっている。
「ガルさん、見てきてくださいな」
「なんでだよ」
こいつさては俺のことを盾役、もとい囮にしようとしているな。
「そんなことありませんわよ」
「心を読むな!」
「なんのことでしょうか?」
こいつ…美少女の皮をかぶった悪魔か。
「はぁ。まあ俺が行くのが一番いいか」
俺は警戒しながらその部屋に入る。そして一通り警戒してから状況を伝える。
「何もないぞ。お宝から魔術仕掛けまで何もな」
「……それはそれでおもしろくない…」
「リリア…さては意外に図太いな?」
「失礼ね!」
いやこの状況を楽しみだしてるだろ。
「……ん?なんでしょう?」
「どうした、ティーベル?」
「いえ、何かあると思いまして…」
ティーベルは部屋に入ると一直線にどこかに向かった。そして途中で立ち止まるとしゃがんで何かをつかむ。
「これは?」
「……なんだそれは?」
それは水晶玉みたいだった。
「ガルさんでもわからないんですの?」
「ちょっとよく見せてくれ」
俺はティーベルから水晶玉を受け取ると注意深く、深くまで視る。
俺が見つけられなかったということは魔術関係では無いのかもしれないな…
「………これ、やばいぞ…」
「な、何がですの?」
「これ、国宝の中でも一級品のものだ…」
「「「えぇ!?」」」
「く、詳しく!」
「説明を!」
「求めますわ!」
フィリア、リリア、ティーベルが詰め寄ってくる。
「そうだな。これは物理対抗石、その名前の通り、完全なる物理耐性をもつ。それは保持者にも適応されるんだがこれだけ大きなものは見たことがない」
「……その物理対抗石、でしたわよね?別のものなら見たことあるんですの?」
「あっ、いや違くて、本!本で見ただけだよ」
「でもこれってそんなに凄いものなんですね」
「そうだな。大きければ大きいほど範囲と強度が増す。これだけの大きさがあれば一つの城くらいはカバーできるだろ」
「……それって国宝級なんじゃ…」
「だから言ったろ?これは国宝の中でも一級品だって」
「これがあれば攻撃を受けても無傷でいられるのですね?」
「あくまで物理攻撃はな。だが欠点もあって魔術体制が皆無なんだ。だから初級魔術でも簡単に壊れる」
「そうなのですね」
「とりあえずこれはティーベルが持ってろ」
俺はティーベルに差し出す。
「いいんですの?」
「これはお前が見つけたんだ。それくらいの権利はある」
「あ、ありがとうございます」
「なんでお礼?」
ティーベルは大事そう受け取る。
「あっ、そうだ。帰ったらいい感じに加工してやるよ」
「それはどういう?」
「その大きさをいちいち持ち運ぶのは大変だろ?だから持ち歩きやすいように加工してやる」
「なっ!これは国宝なのですよ!?」
「それはまだ国宝じゃない。今はティーベルの所有物なんだ。ならティーベルがどうしようと勝手だろ?」
「し、しかし…」
「それにこれは人工遺物ってわけでもないんだから」
「うぅ…」
ティーベルが心の中で葛藤している。王女としての責務がまだ残っているな。
「貰っちゃいなよ、私たち以外誰も知らないんだし」
「そ、そうですよ!バレなきゃいいんです!」
「…………はぁ。わかりました。帰ったらガルさんに渡します」
「おっ、ついに決めたか」
「はい」
「じゃあ頑張って作ってやるよ」
「よろしくお願いしますね」
「おう!任せろ!」




