英雄学校襲撃事件②
「これより計画を開始する」
黒いローブを着た男がそう宣言する。
(計画?一体何をする気ですの?)
すると男たちは一斉に顔まで被ったローブを外す。
「なっ!」
「あれは!」
「ま、魔族だぁぁぁぁぁぁぁ!」
講堂が阿鼻叫喚になる。
(あれが魔族?見たところによると先程のヨノーグスさんと似たような姿をしていますが…)
ティーベルがそう思うのもおかしくない。男たちは全員灰色の顔をしていた。それは少し前に見たヨノーグスの魔力暴走化による体の異変と酷似していた。
「うるさい!」
魔族(?)の男が殺気の籠った声で一喝すると講堂は一気に静かになった。
「貴様らには我々の協力者になってもらう!」
「そんなことできませんわ!」
ティーベルが一人立ち上がって抗議する。
「わたくしは誇り高きランバルト王国の王女!そんなわたくしが魔族の協力などありえませんわ!」
「そ、そうよ!誰があなたたちみたいな魔族に協力すると思ってるの!」
「わ、私も同じ意見です!」
続いてリリアとフィリアも立ち上がって講義を始める。このピリついた中で魔族に物申すのとは肝が座っている。
「それでいいのか?」
「どういう意味ですの?例えわたくしはこの命を差し出そうとも魔族に協力しませんわ!」
「もし対価が王都だったとしてもか?」
「なっ!」
「それはどういう意味よ!」
思わぬ単語が飛び出してティーベルがたじろぐ。代わりにリリアが前に出る。
「どういうも何も、そのままの意味だ。我々のみでもで王都を蹂躙することなど容易だ」
「そんな脅し卑怯よ!」
「脅しではなく事実だ」
男の言う通りだろう。魔族が一人出現しただけで滅びた街や村は歴史上たくさんあった。強い魔族にはたった一体の討伐のために複数間の国が連合を組んだこともあった。たとえ弱くとも国が動く必要がある。それなのにこの場には三体もの魔族がいる。
「協力すると言えば、王都は助かるのですか?」
今度はフィリアが前に出る。
「あぁ。我々に敵対しないのであれば滅ぼす理由もない」
「協力とは、一体なんなのですか?」
「なに、難しいことではない。お前たち人類の情報を我々に流して欲しいだけだ」
「なっ!わたくしたちに同胞を売れと言うのですか!」
ティーベルは思わぬ提案に激昂する。
ティーベルは武器類の提供だと思っていたのだが、情報となれば話は別だ。ティーベルは魔術の天才と呼ばれるだけあって頭もいい。だからこそ、情報の重要性を理解していた。
「安心しろ。王国には手を出さない」
「しかし同じ人類の情報を明け渡すなど!」
「じゃあ王女様の大事な国民を殺すよ?」
「あ、あなたたちは!」
「僕たちだって暇じゃないんだからさ。早くしてくれない?」
魔族の男が苛立ったように催促する。
「―――っ!わ、わたくしたちは、…」
「さぁ選ぶんだ!大事な国民か、それとも多くの同胞か!」
「くっ…」
「この、下衆め!」
リリアが悪態をつく。
「なんならここにいるやつらから殺していこうか?」
ティーベルとリリアとフィリアは顔を青ざめる。
「…王都を救うためには、魔族の協力者にならなければいけないなんて…」
「…ここで拒んだら私たちだけじゃなくてここにいるみんなも危険な目に遭っちゃう」
ティーベルとリリアは講堂内を見渡す。生徒たちは上級生も下級生も関係なく不安そうに震えていた。先生であっても諦めたように放心している者がいるほどだ。
(もう、ここにいる全員が限界ですわね。今更拒んだとしても殺されるだけ。なら大人しく従うしか…)
「だれが魔族の言いなりになんてなるか!」
「そうだ!俺たちは誇り高い貴族の一員だぞ!」
「貴族は決して魔族なんかに屈しない!」
突然声がしたと思うと生徒の一部が立ち上がって魔族と対抗しようとしていた。
「ダメ!やめ――――」
「「「魔力よ、炎となりて敵を焼き尽くせ!『火球』」」」
彼らから放たれた『火球』は魔族に向かって飛んでいく。しかし、所詮詠唱魔術の初級魔術。男が手を振るっただけでかき消されてしまう。
「何!?」
「俺たちの『火球』が!」
「貴様ら、我々と敵対するのか!?」
更に殺気の籠った声が響く。
「ひぃ!」
「た、助けてくれ!」
「大丈夫!?しっかりして!?」
その声に怯え、失神するものも多数いた。
「それが貴様らの答えと言うなら全員殺してやる!」
「まずい!みなさん!逃げて!」
「遅い!『風渦』!」
「「「「うわあああああああ!」」」」
講堂の壁が崩れ落ちて先生も生徒も吹き飛ばされた。




