愚者
その日も外での魔術練習をしていた。
「ほんとみんなまともに使えるようになってきたよなぁ」
クラス全員が初級魔術を何とか発動できるようにはなっていた。しかしまだ感覚がつかみきれてないようだ。威力もまだまだ弱い。あと1年は初級魔術に時間を費やしたほうがいいかもしれないな。俺は生徒たちを先生に任せてフィリア、リリア、ティーベルの個別指導にあたる。
フィリアは近接戦闘特化のスプリンター、リリアは回復役のヒーラー、ティーベルは魔術特化のガンナー。そこにアタッカーである俺が加わればパーティーのバランスとしては完璧だ。夏には課外合宿があるらしく、パーティーでの戦闘も今後あるらしいからここいらで三人を改めて鍛え直すのもいいだろう。
「フィリアは身体強化の練度を上げよう。俺が相手をするから全力でかかってくるんだ」
「はい!」
「リリアはより上位の光系統魔術を覚えよう。そうだな…草にでも使ってみてくれ。植物にも効果があるから」
「わかった!」
「ティーベルは中級魔術の習得だな。まぁお前ならすぐだとは思うが…」
「過大評価だとは思いますが…それだけ期待していると捉えておきましょうか」
三人とも練習に入る。フィリアは俺に切りかかり、リリアは隅に移動して光系統魔術を、ティーベルは火属性魔術の中級魔術を出せるように魔力を練る。
「フィリア、まだ魔力の練りが粗い。もっと瞬間的に魔力を込めれば効率がいい」
「はい!」
「リリア、魔力の動きが単調すぎる。それではあまり効力を発揮しない」
「え?わかるの!?」
「わかるさ。そしてティーベル、もっと魔力を込めろ。魔力が少なすぎたら術は発動しない」
「わかりましたわ!」
三人とも指摘されたことを意識したのか、よくなる。
「いい調子だ、三人とも」
「ガーリングゥゥゥゥゥ!」
「何事!?」
声のした方に振り向くとヨノーグスがいた。
「な!あなた、謹慎中のはずでしょう!?」
「どうしてこんなとこにいるの!?」
「なぜってここが俺のいる場所だからだよ!」
ティーベルとリリアの問いかけに答えという答えを言わない。こいつもしかして正気を失っているのか?
「安心してください!すぐにこんな奴から救って見せますから!」
「ヨノーグスさん!何をするつもりですか!?」
「こいつを使ってガーリングをぶっ殺すんです!そうすればあなたも何もかも俺のものだ!」
そう言ってヨノーグスは禍々しい物体を取り出す。
「っ!それは!」
「ククク!さすがに貴様でもわかるか!この『真魔の宝珠』の力が!」
「『真魔の宝珠』だと!それは違うものだ!」
「ガルさん、あれは何ですの?すごい嫌な感じがしますわ」
「あれは『邪魔の宝珠』だ…」
「『邪魔の宝珠』?さっきあいつ『真魔の宝珠』って言ってたけど」
「あれはそんなたいそうなもんじゃない!」
ヨノーグスは『邪魔の宝珠』を飲み込もうとする。
「バカ!よせ!」
「もう遅い!いまさら謝っても許さねぇ!」
「飲むな!」
「いくら怖いからってそんなこと言っても無駄だ!」
ヨノーグスは『邪魔の宝珠』を飲み込んでしまった。
「チッ!あのバカ!」
「ハハハ!力が溢れる!溢れるぞぉ!ガーリング、貴様を殺してやる!」
ヨノーグスの身体から膨大な魔力反応がする。
「先生!みんなの避難を!」
「いえ!ここは教師である私が―――――」
「無理です!いいから逃げて!」
「た、確かに私はガーリングさんより弱いですけど…」
「あいつは、俺が倒します」
「…………わかりました。しかし無茶はしないように」
ミーナ先生は苦々しい表情をしながらもうなずいた。
「わかりました」
「みなさん!今すぐ退避を!」
「「「「うわああああああああ!」」」」
クラス全員が我先にと逃げ出す。
「ねぇ、あれっていったい何なの?」
「それにヨノーグスさんの様子もおかしいですわ」
「…ガル様、説明してください」
リリア、ティーベル、フィリアは逃げずに俺の後ろにいる。
「『邪魔の宝珠』は、莫大な魔力を得ることができる」
「そ、それってすごいじゃん!」
「だが当然代償もある。『邪魔の宝珠』の力を得たものはその力に耐えられず、例外なく魔力暴走を引き起こす。そうなってしまっては最後、元に戻ることは一切ない」
「それでは、ヨノーグスさんは…」
「あぁ。もう手遅れだ」
「そんな…」
ヨノーグスは魔力暴走を進行させ、肌は灰色に、身体も大きくなっていく。
「魔力暴走が起きたらあんな風に肉体に変化が起こり、理性を失う。もうやつの理性はほとんど残っていないだろう。お前らも早く逃げろ」
「ですが――――――」
「残念だが今のお前たちでは足手まといだ」
「「「っ!」」」
「行け!」
「はい」
「うん」
「了解ですわ」
三人が走り去っていくのを見守る。さて、俺は久しぶりの魔力暴走者の討伐か。