祭り
翌日、俺たちは祭りに来ていた。
聖都の祭りは一週間行われる。王国へは祭りの騒ぎが終わり次第帰国することになる。
本来であるならもっと日をおくのがいいのだが婚約者たちが行きたいと言って譲らなかった。
なんとも元気なことだ。
ライカーンはブレーズと話すことがあると言って辞退した。正確には気を使ってくれたとも言う。
「二日目なのに賑わってますね」
「正確にはまだ二日目ですわ。賑わうには十分でしょう」
聖都の賑わいは相当なもので王都でも見たことがないほどだ。
「でも昨日よりは人が少ない気がするけどな」
「それはそうでしょ。昨日はイベントが目白押しだったんだから」
確かに昨日は勇者の任命式関連でイベントはたくさんあった。特に盛り上がりを見せたのは勇者のお披露目だった。
俺は教会本部から少しだけ見ていたがすごい盛り上がりだった。
「あ、あの屋台気になりますわ」
意外にもティーベルが屋台に興味を示す。
「ティーベルって庶民的なものに興味あったのか?」
「王族になりますと気軽に街に出歩くこともままなりませんからね。むしろ興味がわくというものですわ」
「そんなもんかー」
王族になると俺にはわからない苦労があるらしい。
フィリアが買ってきたのは焼き鳥だった。
焼き鳥はたれをつけて焼いたものなのか香ばしいにおいが漂っている。リーゼなんかは生唾を飲んでいる。
「それじゃあみんなで食べようか」
フィリアに全員分の焼き鳥を分けてもらう。
「ん。美味いな」
香ばしい濃厚なたれが焼き鳥に絡みつきいい感じに舌に残る。屋敷ではなかなか食べる機会がない味だ。
「この焼き鳥という食べ物、まさに庶民の味という感じですわね。王侯貴族の食事ような繊細さはありませんが力強さがありますわね。その逞しさがまるで庶民を表しているようですわ」
「そんな考え方はティーベルだけだろ」
なんとも独特な食レポだ。
「しかしティーベルの言うこともわかる。個人的にはこういう庶民派の味の方が好みだしな」
意外にもティーベルに賛成意見を示したのはリーゼだ。
「私の家は武人の一家だからな。なんというか繊細なやつは違うなと思うんだ」
「そうでしたか。では今後は屋敷での食事も考え直してみます」
そういえば屋敷で従者の指示を出してるのってフィリアだっけか。料理もフィリアが直接指揮している。
「す、すまない!決してフィリアの料理がまずいというわけじゃないんだ!ただ高級な料理が舌に合わないだけで!」
「わかっていますよ。リーゼさんの顔を見ていれば本当に嫌とは思っていないことが分かりますから。ただ私は皆さんに料理を楽しんでほしいので改善点や意見があれば遠慮なく言ってほしいのです」
「フィリアー!」
さすがフィリア。完璧なフォローだ。
「リリアはどうだ?」
「え?」
さっきから焼き鳥を見つめるだけでボーッとしているリリアに話しかける。
「どうした?」
「何でもないの。ちょっと考え事してただけ」
「よければ話を聞こうか?」
「ううん。これは私の問題だから」
そう言ってリリアは焼き鳥を口にする。
「うん。美味しいわね」
自分の問題だからと言われてしまえばもう他人である俺にはどうしようもできない。
リリアが自分で納得する答えを見つけるしかない。
歯痒いものだな。
祭りの屋台はいろんな種類があった。
食べ物系から娯楽系などなど。
楽しむ要素には事欠かない。
ティーベルたちは純粋に楽しんでいるように見える。
「ちょっとお花を摘みに行ってくるわね」
リリアはそう言ってこの場を離れる。
「ではこのお肉の串焼きを食べながら待ちましょうか」
「そうですわね」
「私も貰おう」
いや君たちどんだけ食べるやて。もうすでに十分食べただろ。
と思いつつ俺も串焼きを貰う。
しかし数十分待ってもリリアは戻ってこなかった。
さすがにおかしいと思い探しに動く。
しかし動くのはフィリアとリーゼだけだ。
全員が動くのは得策ではない。また探すのは俺ではなく同じ女性陣の方がいいという話し合いの結果だ。
「ガル様!」
しばらくするとフィリアとリーゼが戻ってくる。
「これを見てください!」
フィリアの手に平にあったのは指輪だ。しかしそれはただの指輪ではない。俺がリリアに送ったものだ。
「これがあるということはリリアは攫われたという事か……」
「ですがリリアが簡単に攫われるとは思いませんわ」
俺だってそんなこと思わない。しかし決してあり得ない話ではない。
この指輪は物理攻撃が効かないだけで衝撃や他の攻撃手段には無力だ。気絶させられる方法なら山ほどある。
「とにかく戻って事態を把握しよう」
俺たちは祭りムードが一変してピリついた雰囲気になったままブレーズの屋敷に戻った。