聖女の今後
「セシリア!」
ブレーズの屋敷に戻るとセシリアが救出されたと言う報告を受けブレーズはすごい勢いで中に入っていった。
「無事か!?」
ブレーズが扉を開けるとベッドに寝転がっているセシリアがいた。
傍らには従者もいてブレーズに静かにしろというジェスチャーをしている。
「あまり大きな声を出さないでくださいな。セシリア様が起きてしまわれますわ」
「うっ……すまない」
ティーベルに窘められてブレーズは申し訳なさそうにする。
「セシリアを救ってくれたこと、心から感謝します」
「礼ならリリアにお願いしますわ。セシリア様を助けたのは彼女ですもの」
「そうだったのですね。彼女は今どこに?」
「今はちょっと席を外してまして……来ましたわ」
話していたところにちょうどリリアが現れる。
「リリア嬢。妹を救ってくれたこと、心より感謝します」
「い、いえ!頭をお上げください!私だけの力ではありませんし!」
「ですが牢からセシリア様を解放したのは貴方ですし衰弱したセシリア様を介抱したのも貴方なのですから感謝は素直に受け取るべきですわよ」
「でも……」
何かがリリアの中で引っかかっているのか中々素直にお礼を受け取らない。
「私は皆さんに感謝しています。皆さんのおかげでこうして妹に会うことができたのですから」
半ば押し切られる形でリリアはお礼を受け取った。
「ガル殿、ちょっと話しておきたいことがある。できればブレーズ殿も」
リーゼが真剣な顔をしていたため話を聞くことにした。
リーゼからはグリーリッシュの屋敷での出来事を聞かされた。
「『餓狼の牙』ですか。よくご無事で戻られましたね」
「俺は聞いたことありませんがブレーズ卿は知っているので?」
「はい。『餓狼の牙』と言えば法国で知らぬものはいないほど有名な傭兵です。依頼の達成率は百パーセントで六人でありながら数倍の働きをすると言われています。正直に言えば法国での一番の戦力です」
法国最強ってそれは聖騎士も含めてのことかよ。
聖騎士は教会が騎士として認めた実力者のみ許された資格。その聖騎士たちよりも強いとなると王国の騎士団長や魔術師団長並の強さなのではないか?
「単純な実力では私たちに利があったが連携の面では後れを取ってしまった」
リーゼが悔しそうにしているが俺とブレーズは驚きを隠せなかった。
最も驚いている理由は二人異なっているだろうが。
俺はリーゼが素直に負けを認めたことに驚いている。彼女たちの実力は人類最高峰だ。もちろん連携面も訓練している。
そんな彼女たちが苦戦を強いられるほどだ。魔族である可能性は捨てきれないが彼女たちからはそんな情報はでてきていない。実際に魔族と戦ったことのある彼女たちが何も言わないのであれば『餓狼の牙』は人間なのだろう。
対してブレーズの驚きは彼女たちの強さだろう。ブレーズの話によると『餓狼の牙』は敵ならば必ず負けるという認識らしい。ほとんど不敗神話化していた連中を破ったとしたら驚くのも無理はない。
「今後のセシリア様の動きについてもあらかじめ決めておいた方がいいかもしれませんわ」
ティーベルの言う通り。セシリアは今まで療養のために姿を見せないとしていた。しかし実際は誘拐されていてどうしようもなかった。しかしこれでセシリアを取り戻せたことで言い訳もしなくて済む。
「セシリア様は現在とても衰弱しております。光系統魔術でも失われた体力まで戻せるわけではありません。おそらく完治するのは二か月後になるでしょう。ですが姿を見せるだけならば一か月、いえ二週間もあれば可能かと」
セシリアの看病をしていたリリアが的確な分析をする。
「何から何まで感謝します。ではセシリアの民への発表は二週間後にしましょう。公務は完全に回復し様子を見次第復帰ですね」
「一番決めておきたいのは彼女の護衛でしょう。グリーリッシュ枢機卿の息がかかった者が護衛についた場合今回の二の舞になります」
「そこは心配しなくても大丈夫です。セシリアの護衛はうちの聖騎士をつけるつもりです」
話がまとまりそうなころ一人の従者が慌ただしく部屋に入ってきた。
「セシリア様が目を覚まされました!」
セシリアの部屋に行くとメイドに支えられたセシリアがベッドの上で体を起こさせていた。
「にい、さま?」
「セシリア!」
ブレーズはセシリアに抱き着く。
「そうだ!ブレーズだ!お前の、兄だ!」
「……はい」
「助けるのが遅くなって済まない。不出来な兄を許してくれ」
ブレーズは泣いていた。セシリアが帰ってきた喜びと自分が何もできなかった不甲斐なさで。
「そんな、こと、ない。たすけてくれた、よ」
セシリアは半年の間、監禁されており体力が落ちさらに人と喋る機会もなかったため一言一言喋るのに苦労している。
「たすからないと、おもってた。でも、またにいさまに、あえた。しあわせ」
セシリアも涙を流している。
兄妹の感動の再開だ。
雰囲気を壊さぬように他の者たちは黙っているが従者たちは目に涙を浮かべている。
俺たちはそうでもないがここにいる者たちは二人とかかわりが深い。きっと思うところがあるのだろう。
「そうだ。セシリアにも紹介しよう。セシリアを助けてくれた皆さんだ」
ブレーズはそう言って俺たちに目を向ける。助けたと言っても俺とライカーンは何もしていないので婚約者たちを前に押しだす。
「あなたは、あたしをたすけてくれたひと?」
セシリアはリリアに目をとめる。
「私一人ではないですがセシリア様を背負ったのは私です。私はリリア・バルマントと申します」
「りりあ、さま……」
「え?」
急な様付けにリリアは混乱している。
「あたしをたすけてくれて、ありがとうございます」
セシリアは救出されてから初めて微笑んだ。