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英雄騎士の最強魔道  作者: バニラ
神聖ミニナリア法国編
171/176

聖女救出④

「『餓狼の牙』………」

 誰かがゴクリと生唾を飲む。

 一瞬の静寂があり緊張が走――――

「いや誰?」

 らなかった!

「俺たちを知らない?ってことは貴様らは他国の人間か?」

「そうですわね。ですが名乗る気はありませんわよ」

「あっそ。俺らとしても貴様らの名前に興味はねぇ」

 会話で一息ついている間にティーベルはリリアに目で合図を送る。

 彼女たちの中での決まり事を確認するためだ。

 その決まり事というのは四人の時は余裕がある人が現状分析をするというものだ。

 そして今一番余裕があるのはリリアでそのことを本人に確認したのだ。

 ティーベルからの合図を受け取ったリリアはその目的を正しく理解し思考を巡らす。

(正直ここでこんなに苦戦するとは思わなかったよ。多分個々の実力は私たちが上回ってはいる。でも連携は明らかに相手の方が上。そのせいで攻めきれない。それに全員が強いから実力差は人数でカバーされる。はっきり言って決め手がない)

 リリアの分析は的を得ていた。両者の実力はそれほどまでに拮抗していた。

 実力はあるが連携面ではまだ粗い部分がある。それでも勝てていたのはこれまで個の実力で勝敗が大きく左右していたからである。

 しかし今回の相手はそうはいかない。

 魔族のように単体で相手取ることはしないし一般兵のように一人一人が弱いわけでもない。まさに彼女たちにとって一番の天敵であった。

「知らない貴様たちに教えてやろう。ちなみに俺はグライブ、このパーティのリーダーだ。『餓狼の牙』は傭兵。といっても戦争なんてしない。依頼は何かの護衛や魔物の討伐とかを請け負ってる。この国では俺たちの名前を知らないくらいには有名なんだぜ」

「そのなのですね」

 傭兵は自分たちの名前を大事にする。仕事をするには名を売ることが一番だからだ。

 そして自分たちの名を誇るのはそれだけ自信がある証拠でもある。

 そんな連中を相手するのは骨が折れる。

 勝つことはできるが時間がかかる。それではダメだ。

 ここでリリアは本来の目的を思い出す。

 目的は聖女の救出で敵の殲滅ではない。つまり彼らを無理やり倒す必要性はない。

 かといって彼らに道を防がれていたら先に進めない。だから―――

「ティーベル」

「何かしら?」

「私が先に行く。この人たちを抑えてて」

「………危険なのでは?」

「危険なのは百も承知。でもそれが一番だと私が下した」

 ティーベルとリリアは目を合わせる。それでティーベルはリリアが譲らないとわかったのかため息をつく。

「フィリア、リーゼ」

「はい」

「なんだ?」

「全力で敵を引きつけますわよ」

「「了解」」

 二人は何かあると気が付き気合を入れなおす。

「お?何かやんのか?」

 敵も感づいたようだ。ふざけた雰囲気が霧散する。

「それじゃあ私が合図を出したら一斉に動くよ……3、2、1、ゴー!」

 リリアの合図とともに全員が動く。

 まずはリリアが走る。

 盾役の男がそれを阻止すべく前に出る。

 リーゼロッテは盾を狙って剣を振るう。それによって盾役の男が動きを止める。

 次に動いたのは男女の剣士だ。迫るリリアに剣を向ける。

 その間にフィリアが入る。女の方を短剣で受け流し男の方は力を籠めて蹴り飛ばす。

 最後に動いたのは魔術師の二人だ。

「「『風渦』」」

 この限られた空間で進む者を阻むとしたら最適の魔術だ。風の抵抗は何気に体力を奪い進む力を失わせる。

「魔力障壁展開!」

 ティーベルは魔力障壁を展開して魔術を防ぐ。

「くそ!」

 グレイブは悪態をつくがもう遅い。リリアはすでに目の届かない場所まで走っていった。

 グレイブが後を追おうとするもティーベルの魔術で阻まれる。

「貴方がたの相手はわたくしたちですわ」





 リリアは誰もいない通路をひたすら走っていた。

「聖女様はどこなのー?」

 地下の地図は頭に叩きこんである。聖女の位置も把握しておる。でも思ったより道が複雑で探すのは大変だ。

「だ……れ……………?」

 普通であれば聞き逃してしまうほどの小さな小さな呟き。それをリリアは聞き取った。

「そこ!」

 リリアが檻の前までくると瘦せ細った少女がベッドで倒れていた。

「セシリアさん?」

「あ……は…………ぃ……………」

 か細い声がわずかに耳に届く。

「すぐに出してあげるからね!」

 とそこでリリアは気付く。檻を開けるための鍵を持っていないことに。

「……どうやって開けよう?」

 リーゼかフィリアがいたなら檻を切り壊していた。ティーベルがいたなら魔術で鍵を開けることができた。

 しかしリリアは檻を開ける術を持たない。

 ここにきてリリアは自分の無力さを後悔する。檻の目の前まできて救うべき人がいるのに自分は何もできない。自分が今こうして往生している間にも仲間たちが命を懸けて戦っているという事実がさらに彼女の心を苛む。

 リリアはとにかく行動を起こすことにした。

「えい!」

 剣を抜いて身体強化魔術をのせて振るう。

 ガキンという金属音が響く。あまりにも大きな音がして耳鳴りが起こり顔をしかめる。

 しかし倒れているセシリアは全くの反応がない。それほどまでに衰弱しているということだ。

 そのことにもリリアが焦る。

「どうすれば………」

 リリアは必死に考える。今のリリアは考えることしかできないのだから。

 そこでリリアは何かに気が付いた。

「これを使えば………」




 リリアが走って行ってしまうと戦闘は激化した。

 どちらかというと『餓狼の牙』の方が焦っている感じだ。

「さっさとくたばれや!」

 グレイブは荒れていた。格下とは思っていなかったが年下の女に一泡ふかされたことが彼のプライドが傷つけられたことが原因だ。

「しぶといですね」

 盾役の男もさすがにきつそうだ。大きな盾を振るいリーゼロッテの重い一撃を受けとめているから当然だ。

「ダリウス、少し下がれ」

「すみません」

 グライブの指示で盾役の男、ダリウスが下がる。

「もう終わりか?」

 ダリウスが下がったことによりリーゼロッテが前に出てくる。

 ダリウスの穴を埋めるようにグライブが前に出てくる。

「この!」

「軽い!」

「は!?」

 ダリウスがいなくなり何の制限もなく振るえるようになったリーゼロッテの剣はグライブの剣を軽々と弾き飛ばす。

 グライブの目にリーゼロッテの剣が迫る。

 グライブが斬られる寸前女の方の剣士がフォローに入る。

 剣士の二人がリーゼロッテに引き付けられている間にフィリアは後ろの魔術師を狙う。

 しかしその間にダリウスが入り魔術師を庇う。

 フィリアはダリウスを目で捕らえるとトップスピードまで上がる。

「シッ!」

 フィリアの短剣は盾に阻まれる。しかしそれが分かっていたかのように背後に素早く回り込む。

 ダリウスは大きな盾を持っているため速さで勝てるわけもなくあっさりと背後を取られてしまう。

 フィリアはダリウスの脇腹に蹴りを入れる。

「グ!」

 その蹴りはダイレクトに入り肋骨が折れる音がする。あまりの痛みと衝撃にダリウスが膝をつく。

 その隙を見逃さず追撃しようとフィリアが短剣を振るうも魔術師の『砂塵』によって目の前が防がれてしまい足を止めてしまう。

「フィリア!行きなさいな!」

 魔術師たちの『砂塵』がティーベルの『風渦』で吹き飛ばされる。

「きゃあ!」

 それだけでなく『風渦』が魔術師たちを襲う。それによってフィリアを阻む障害はなくなった。

「やあ!」

 ダリウスから鮮血が舞い力なく倒れる。

 これがフィリアの初めての人殺しだった。

「ダリウスゥゥゥゥ!」

 ダリウスが倒れたことに気を取られて剣がおろそかになってしまった。そこにリーゼロッテが畳みかけグレイブが吹き飛ばされる。

「そこ!」

 一人になった女の剣士の方を斬りつける。

 女剣士も血を吹き出しながら倒れていく。

「ハーシー!」

 ハーシーと呼ばれた女剣士はピクリとも動かない。

 そこにリリアが痩せ細った少女、聖女のセシリアを背負ってきた。

「行くよ!」

 リリアの声とともにリリア、というよりもリリアが背負っているセシリアを守るように屋敷を出るよう走る。

「待て!貴様ら!」

 グレイブは叫ぶが彼女たちは気にする素振りを見せない。追いかけようとするもリーゼロッテに蹴られた部分が痛むのか立ち上がることができない。

「貴様らは絶対許さねぇ!俺らの仲間を殺しておいて逃げられると思うなァ!」

 その叫びを背に彼女たちは消えていった。

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