授業
その後は無詠唱魔術の練習をクラス単位ですることになった。
「ガーリングさん、お願いします」
「はい」
俺はみんなの前に出る。
「無詠唱魔術で一番大事なことは魔力を感じることです」
「魔力を感じるってどうするんですか?」
「そうだなぁ…」
「ま、まさかこの前と同じように!?」
「いや、さすがに人数が多すぎるからしないよ。というかどうしてリリアが焦ってるの?」
「べ、別に焦ってないよ!」
「そう?」
何だったんだ?
「詠唱魔術でもいいので魔術を使ってみましょう。その時に使う魔力に意識を向けてみましょう」
「「「「はい!」」」」
みんな詠唱魔術を駆使しながら魔力を感じようとがんばっている。ただ難しいようで苦戦している。
「いやぁ、どこの誰かさんと違って真面目で良い生徒たちだなぁ」
「ちょっといいかしら?」
「ティーベル?」
ティーベルに連れられて隅の方に移動する。
「一体どういうことですの!?」
「何が!?」
「無詠唱魔術のことですわ!」
「何か問題あったか?」
「何か問題があったか、じゃないですわ!みなさんは詠唱魔術で練習しているのにわたくしたちはか、体に触られましたわ!別にわたくしに触れる必要なんてなかったじゃないですか!」
「あぁ、そういう。ちゃんと意味はあるさ」
「…どのような?」
「直接やったほうが感覚が分かりやすくて習得しやすいんだ。その分、早く習得できる」
前世でも初めての魔術の習得には身体を通したものが主流だったからな。俺も最初は身体を通してだったな。
「そ、そういうことでしたらいいわ」
「いや何が?」
ティーベル何がしたいのかわからなかった。
「ティーベル様、感覚がわかりませんわ」
「そうですわね、もっと集中して――――」
「リリア様、難しいです…」
「魔術を使うときの揺らぎを見逃さないように――――」
「フィリアさん、身体強化のコツってどうすれば?」
「魔力の流れを意識して身体に巡らせる感じで――――」
三人とも大人気だ。それに対して俺には何も言われない。
「俺ってそんな人気ない?」
「そんなことないですよ」
「せ、先生!?」
俺の呟く声に反応する人が一人。担任のミーナ先生。
「ガーリングさんは私に教えてください」
「わかりました」
今回は先生だけだが、身体を通した練習はしない。先生は教える立場であるため、他の人に教えられるように自分で習得してもらいたいのだ。
「教えるといってもほとんど自力での習得になります」
「そ、それって自分で頑張れってことですよね?」
「そうなりますね」
「な、なんでですか!?」
泣き言を言ってはいたがさすがは教師、エリートだからか呑み込みが早い。しかしティーベルよりは劣る。いや、ティーベルが規格外なだけか。
さすがに一日で無詠唱魔術で習得できたものはいない。しかしいい線をいっていたものも何人かいた。さすがエリートだけが集まると呼ばれている英雄学校。原石がたくさん転がっていた。
そして放課後はリリアに光系統の魔術を教えることになっていた。フィリアには先に帰ってもらって二人だけで学校の修練所に行く。
「系統魔術は肉体に作用するものだから属性魔術とは魔力の使い方が全く違うんだ。それはわかるか?」
「えっと、少しだけなら…」
「それなら上出来だ」
無詠唱魔術は始めのとっかかりが難しいだけで初級魔術を習得してしまえばある程度のコツは掴む。上のレベルの習得になると難しいが。
「リリアはすでに水属性の無詠唱魔術を習得してるから光系統の無演唱魔術もすぐに習得できるだろう」
俺は剣を抜いて指を少しだけ切る。
「ちょっと!何やってるの!?」
「何って、光系統魔術を使うんだからケガしてないといけないだろ?」
「だからって自分の身体を傷つけないで!」
「は、はい…」
すごい剣幕でたじろいでしまう。
「なら光系統魔術で癒してくれ」
「う、うん…」
リリアは魔力を操って魔術を発動させようとする。しかしなかなか成功しない。
「どうして?」
「焦らないで、ゆっくりでいいから」
「…手はつながないの?」
「なんでだ?」
「だって前は手をつないでくれたじゃない」
「あの時は無演唱魔術に慣れさせるためのものだったからな。それに俺ばっかり頼っていても意味はないぞ」
「それは…」
リリアは口ごもる。全く、まじめすぎるんだよ。
俺はケガしてない方の手でリリアの頭を撫でる。
「ひゃ!にゃ、にゃにを!?」
「大丈夫、俺がしっかり教えてやるから」
「………うん」
リリアはもう一度魔力を練る。先程までとは練り方が違う。これは…
俺の指が光に包まれる。光が収まったあと、指にあった傷が治っていた。
「できた…できたよ!」
リリアは嬉しそうに飛び跳ねる。
「その調子で感覚を覚えていこう」
そう言って僕はもう一度指に少しだけ切り傷をつける。
「な、何やってるの!?」
「いいから早く魔術を」
「あぁ!もう!いい加減にしてよ!」