聖女救出①
聖女、セシリア・ロマネチカの救出は確実となった。
だからといって無策で動くのはあり得ない。
俺たちは綿密な作戦を練ることにした。
「まず知りたいのはセシリア様の居場所ですわね」
ティーベルは考え込むように顎に手を当てる。
「それなら検討はついてる」
「本当ですか!?」
「え……えぇ………」
俺の返答にブレーズがものすごい剣幕で迫ってきた。おじさんに迫られて喜ぶ趣味はないので席についてもらう。
「本当に、私が半年かけてもわからなかった妹の居場所がわかるのですか?」
不安になるのも無理はない。長年慣れ親しんだこの街を半年もの間調べて全く成果がなかったのに今日来ただけの俺がわかるってのはどう考えてもおかしい。
だが話を聞いた瞬間に思い浮かんだ場所がある。まぁ証拠もないし確信はない。
「グリーリッシュ枢機卿の家、ですね」
「………は?」
俺の答えが予想外だったのかブレーズはポカンとしてしまった。
「……それは、間違いないのですか?」
「確証はありませんが十中八九そうでしょう」
「でも私たちが屋敷に行った時聖女様が囚われていたようには見えなかったよ?」
「そりゃあからさまにわからんようにしているだろ。いくら力を持っていると言っても聖女の誘拐なんて爆弾すぎる。できるだけ他人に知られるようなことはしないはずだ。信頼していなければ、たとえ信頼していたとしても容易には教えないもんだ。どっから情報が漏れるかわかったもんじゃない」
「な、なるほど……」
リリアは頷く。
「でも屋敷の中を探すならそれなりの理由が必要なのではないでしょうか?」
「そんなこともないぞ、フィリア。屋敷の外から探知魔術を発動すればそれで済む」
「だとしてもわたくしの探知魔術では人の判別することはできませんわよ」
「そこは問題ない。俺もセシリアの魔力は知らないから判別は不可能だ」
「問題ありまくりですわ!」
なんでそんなに叫ぶんだ?
「ガルさんで無理ならどうしろというのですか!?」
あぁ。そういうことか。
「別に直接判別する必要はないんだ。おそらく聖女様は幽閉されているはずだ。だとすればまったく移動していないはず。屋敷の中で一切の動きを見せない人物が聖女様だ」
「た、たしかに……」
ティーベルも納得してくれたみたいだ。
「いや、そもそも幽閉されているのなら見張り番がいるはずだ。見張りをつけていることに気取られれば不審がられてしまうだろう。それにそれほど重要な人物ならば脱出不可能な場所に閉じ込める。しかし屋敷ではがんばれば脱出できてしまいそうだ。そんな場所に幽閉するのはリスクが大きすぎるのではないか?」
リーゼの心配を聞いてようやくブレーズの不安と俺の自信の落差の理由が分かった。どうやらブレーズと俺の認識に違いがあるようだ。
「屋敷と言っても地上ではない。幽閉するなら地下、だよ」
「地下……そうか!たしかにそれなら私の心配事も一気に解決する」
リーゼは納得いったようだ。
「別に地下に秘密の部屋を作るのは不思議じゃない。他人に知られたくない隠し事を地下に隠すのはよくあることだ。それにそれならブレーズ枢機卿が見つけられなかったことにも説明ができる。地下への隠し通路なんて他人がわかるわけないしな」
地下に秘密を隠す。古今東西ありふれた手口だ。
「俺が一番議論したいのはいつ作戦を実行するか、だ」
場所の問題は解決したと言っていい。
「明日とかじゃダメなのか?」
リーゼは疑問を呈する。
「いや、できればより確実にしたい。チャンスは一度きり、失敗は許されない。だから日時についてはしっかり考えておきたい」
「少しいいかしら?」
意見があるのかティーベルは手を上げる。
「勇者様の任命式はどうでしょうか?」
「ふむ……どうしてそう思った?」
「まず勇者様の任命式とは教会の一大事です。屋敷のみならず聖都中が手薄になることでしょう。屋敷への侵入も容易になりますし何より救出後のルートも確保しやすいと思いますわ」
「たしかにティーベルの言うことは道理が通っている。しかし誰が行くんだ?少なくとも俺と君たち、ライカーン卿、ブレーズ枢機卿は動けないぞ」
「いいえ。その中で動ける人がいますわ……そう、わたくしたちですわ!」
ティーベルの答えは俺の想像になく思考が一瞬停止する。
「わたくしたちはいわばガルさんのおまけですわ。たとえ勇者様の任命式に出席していなくとも問題はありませんわ」
「たしかに招待状には俺の名前しかなかった。しかしすでに君たちはグリーリッシュ枢機卿と顔を合わせている。欠席の理由はなんと説明するつもりだ?」
「聖都の観光でもいいでしょう。勇者様の任命式では聖都の中心部もお祭り騒ぎですわ。それに参加しているとでも言えば辻褄が合いますわ」
「だとしても全員は怪しまれるだろ」
「最悪怪しまれてもかまいませんわ。その場にわたくしたちがいないのであればすでにどうしようもないのですわ」
「………………」
思ったよりゴリ押し戦法だ。
だが、悪くない。むしろ最善手ともいえる。
「……戦闘力の点からすれば問題はない。というか過剰戦力なほどだ。だが今回重要視されるのは隠密性と情報性だ。君たちだけで大丈夫か?」
「お任せくださいまし。見事わたくしたちだけでやってのけますわ!」
ティーベルは自信満々に答える。
「………なら君たちに任せるとしよう」
俺は最終的に彼女たちを信じることに決めた。