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英雄騎士の最強魔道  作者: バニラ
神聖ミニナリア法国編
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聖女の行方①

「妹が誘拐されたのは半年ほど前のことです」

 俺たちが落ち着いたところでブレーズは話を始めた。

「なぜ誘拐されたのか、その理由をおわかりなのですか?」

「はい。実は妹は一年前、教会から正式に聖女に認定されたのです」

「「「「えぇ!?」」」」

 思わぬ新事実に俺たち一同は驚きに目を見開く。

「聖女が誘拐!?」

「それは教会の一大事ではありませんの!」

 リーゼとティーベルが動揺するのも無理はない。

 聖女はミニナリア教の象徴。その聖女が誘拐されたとなれば教会の沽券にかかわる大問題だ。

「あれ?でも聖女様が誘拐されたというお話は聞いたことはありませんよ?」

 フィリアの言う通り。聖女が誘拐されたなどという話が広まれば鎮火することはまず不可能と考えていい。

 しかしその話がどこからも聞こえてこないということは誰も聖女の誘拐を知らないということだ。

 だからと言って聖女が半年も姿を見せないのに疑問を持たないわけがない。

 民衆が騒ぎ立てないのは何故か。理由として考えられるのは誘拐ではなく別の理由としている、だ。

「一般の方々には混乱を招かないよう、病に臥せっていると伝えられています」

「どうしてそんなウソを……?」

「妹が誘拐されたと民衆に知られれば大混乱に陥ります。ミニナリア教は全国規模であるためその被害は想像できません。また教会の象徴である聖女が半年も誘拐されたままであるのは教会の信頼が大きく揺らぐ事態となりえます。ゆえに協会は聖女は誘拐ではなく病ということにしているのです」

「なるほど。それなら納得がいくというものですわ」

 たしかに今の魔族との争いの中でいらぬ混乱を招くことは避けたい。

「ちなみに犯人の目星はついているのですか?」

 聖女ならば警備が厳重であったはずだ。その警備を掻い潜ぐり誘拐するのは至難の業だ。ただの人攫いには不可能だろう。あり得るとすれば魔族かそれとも――――

「犯人は教会関係者なのは確実でしょう。もっと細かく言えばグリーリッシュ枢機卿であると考えています」

「なんだと!まさかあの男が聖女誘拐の犯人だったのか!」

 リーゼは思ってもみなかった犯人に憤る。

「その根拠はいったい何なのでしょうか?」

 俺も驚きはしたがあくまで冷静にブレーズの話を聞く。

「それには教会の仕組みからお教えした方がよろしいでしょう」

 そう言ってブレーズは紙とペンを出す。

「一般的に教会は教皇様を中心として方針を決めているとされていますが実際には違います」

 ブレーズは紙に大きさの異なる三つの円を描く。

「教会には派閥というものが存在し、派閥によって方針が決まっているのです。それぞれ『教皇派閥』、『聖女派閥』、『有力枢機卿派閥』の三つですね。『教皇派閥』はそのままの通り教皇様を中心とした体制を築いている派閥ですね。通常はこの派閥が一番有力なのです。『聖女派閥』は聖女を神聖視する集団と言い換えた方がいいですね。しかし政治に女性が関わるのをよしとしない人が大勢であるため普段からこの派閥は一番小さいです。そして一番重要になってくるのが『有力枢機卿派閥』です。この派閥はその時にもっとも勢いのある枢機卿を中心とした者たちの集団です。勢力は時の枢機卿の勢いによりますし、分裂することもあります。時には最大勢力になることもあります。教皇は司祭以上の総人数の過半数がその人物が教皇となるため基本は教皇が交代するタイミングで勢いが高まります」

 そこまで聞いて疑問が浮上する。

「その話が聖女様誘拐との関係があるのですか?」

 ライカーンの言葉に俺たちは頷く。

「もちろんです。現在の『有力枢機卿派閥』はグリーリッシュ枢機卿を筆頭として七割を占めています」

「……は?七割?……何かの冗談では?」

 過半数で教皇になれるとすればあの男はすでに教皇になる資格があるということだ。

「それではなぜグリーリッシュ枢機卿は教皇ではないのですか?」

「それはきっとめんどうだからだろう」

 リリアの疑問には俺が答える。

「位が上がるということはそれだけ責任と監視が強くなる。グリーリッシュ枢機卿の人柄を考えるに責任が増えることを嫌うだろう。今の中途半端な立場の方が好き勝手にできるしな」

「な、なるほど……」

 俺の説明に微妙な顔で納得を示した。

「しかしそれで犯人がグリーリッシュ枢機卿だとはますます思えません。それだけの派閥勢力を持っているなら教会で好き放題できるでしょうに」

「そういうわけでもありませんよ。特に聖女は一般民衆、外国に対する影響力を一番持っています。聖女を敵に回すということはミニナリア教徒すべてを敵に回すことと同義です。そして妹はグリーリッシュ枢機卿のことを快く思っていません。ならばどのような手を使ってでも従わせようとするでしょう」

 それならば納得がいく。

 巨大な力を持つ制御できない相手ほど困る相手はいない。結局のところあの男は自分のことしか考えていないエゴイストなのだ。

「でもすぐに助けに行きましょうか」

 リーゼは立ち上がりグリーリッシュ枢機卿の屋敷に殴り込みに行こうとする。

「まぁ待て」

 俺はそれに待ったをかける。

「なんだ、ガル殿?早く助けに行かなければ妹殿の命が―――」

「その前に最後に一つ聞かなければならないことがあるんだ」

「聞かなければいけないこと?」

 リーゼは怪訝な顔をする。

「聖女……あなたの妹が無事であるという保証はどこにあるのでしょうか?」

 聖女がすでに死んでいるとすれば助けに行く意味がない。それどころか変に有力者に目をつけられてめんどくさいことになる。

「妹は生きています。必ず、絶対に」

 そう言うブレーズの目は確信に満ちた目をしていた。

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