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英雄騎士の最強魔道  作者: バニラ
神聖ミニナリア法国編
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次の問題

 グリーリッシュの屋敷を出た俺たちは宿に向かっていた。

「何なのですか!あのおじさまは!」

 ティーベルは屋敷では王女としての体裁を保っていたため表立って反対はしなかった。しかし人目がなくなった今、思いっきり憤りをあらわにしている。

 やはり自分の仲間を勝手に引き抜かれることに思うところはあったのだろう。

 だがグリーリッシュの言い分も的を得ていたことは事実だ。

 リリアが勇者パーティに入り聖女に認定されればランバルト王国、そして俺は莫大な利益を得ることができる。

 しかしそのためにリリアを犠牲をするわけにはいかない。

 俺はもう二度と間違えてはいけない。守ると決めたものを失うわけにはいかないのだ。

「必ず俺が守ってみせる」

「……うん」





 俺たちの目下の問題はリリアの聖女問題、ではなく宿問題であった。

「ここも全室埋まってる!?」

 この宿屋ですでに三軒目。それに満室となっている。何かしら作為的なものを感じる。いや偶然なのはわかっている。

 もともと神聖ミニナリア法国はミニナリア教の聖地というだけでなく観光名所として名高い。だから宿が埋まっていることに不思議はない。

 だとしても宿が確保できなければどうすることもできない。街の中で野宿などできないしグリーリッシュの屋敷などもってのほかだ。

「もしよければ私の知り合いの知り合いの屋敷に行ってはみませんか?」

 ライカーンの言葉は今の俺たちにとっての救いのようなものだった。

「いきなりの訪問ですし断られる可能性はもちろんあります。ですがこのままむやみに宿を探し回るよりはいいと思います」

「そうですね。俺からもお願いしたいです……みんなもいいよな?」

 全員が頷いたのを確認して再びライカーンに頼み込む。

「わかりました。ではひとまず彼のところに――――」

「その声……もしかしてライカーン殿では?」

 ライカーンの言葉を遮る声があった。

 そこには暗闇の中に一つの明かりがあった。明かりが近づくと暗闇で隠れていたシルエットも浮かび上がってくる。

「まさかブレーズ卿ですか?」

 ライカーンからブレーズと呼ばれたのは少し頬がやつれていて顔色もそこまでよくない長身の男性だった。

「やはりライカーン殿でしたか」

「ブレーズ卿はどうしてここに?それにいつもより元気がないようですが……」

 お互いに一定の距離感はあるがそれでも親密な様子は伝わってくる。

「もしかして泊まる宿がないのですか?」

「お恥ずかしながら……」

「では我が家に来てはいかがでしょうか?」

「誠ですか?実はこれからブレーズ卿の屋敷に向かおうと思っていたところなのです」

 なんと、ライカーンの言っていた知り合いとはブレーズのことだったのか。よき偶然に巡り合えたものだ。





 ブレーズの屋敷はグリーリッシュの屋敷ほど大きくはなかったがそれでも一般の家とは比べ物にならない大きさだった。

「何もないところですが、どうぞ」

 屋敷の中も過度な装飾は少なく落ち着いた雰囲気がある。個人的にはブレーズの屋敷の方が好印象を持つ。

「遠慮なくおかけください」

 屋敷に入って最初に通されたのは応接間だ。

 お茶も出されてようやく一息をつく。

「して、彼らは誰でしょうか?」

 ブレーズは俺たちに目を向ける。

「お初目にかかります。私はガーリング・エルミットと申します」

「なんと!貴殿が彼のガーリング殿でしたか」

 ブレーズは立ち上がって握手を求めてきた。

「私は枢機卿の末席を預かっているブレーズ・ロマネチカと申します。以後お見知りおきを」

 俺はブレーズの手をしっかりと握り返し固い握手を交わした。

「ということはそちらの女性の方々はガーリング殿の婚約者ですか?」

「そうですわね。わたくしはランバルト王国第一王女ティーベル・フォン・ランバルトですわ」

 そこから順に挨拶をしていった。ここで使用人であるフィリアのことや護衛の二人のことまで聞いてきたことは好感が持てた。

「それにしても、顔色が優れないですが身体の御加減がよくないのですか?」

「……っわかりますか?」

 一瞬動揺が見えたがすぐに抑えた。しかし一瞬でも顔に出たということは何か体に不調をきたしているのかもしれない。

「何かあれば力をお貸ししますよ。宿を貸していただく恩義を返したいですし」

「……いえ、これは私たちで解決せねばならない問題です。いくら宿の恩義とはいえ英雄殿の手をお借りすることはできません」

 これほどまでに強い意志では部外者はどうすることもできないだろう。おとなしく引き下がるしかない。

「そういえば妹君がおりませんね。もしかしてすでにお休みになられましたか?」

「妹君?」

「はい。ブレーズ卿には妹君がおられるのです。妹君はたいそう可愛らしいのですよ。できれば挨拶をと思ったのですが、いないのであれば仕方ありません」

 するとブレーズの顔色が急に酷くなり今にも倒れそうなほど悪化してしまっている。

「ブレーズ卿!?」

 俺はすぐさま光系統魔術をかける。

「申し訳ありません。ガーリング殿のお手を煩わせてしまって」

「お気になさらず」

 それにしても妹の話題がでてからの変化。そして今ここにいないという事実。

「……もしかして、妹さんは誘拐されたのですか?」

「っ!な、ぜそれを……!?」

 俺の質問に目を見開くブレーズ。この反応は当たりだ。

「ゆ、誘拐!?」

「それって事件ではありませんか!」

 そしてブレーズの妹が誘拐されたという事実に慌てるライカーンや婚約者たち。

「いったん落ち着こう。今慌てたところでどうにもならない」

「それはそうですが誘拐となれば一刻を争う事態です。急ぐに越したことはありません」

 フィリアの言う通り。誘拐は被害者の扱いが分からないため早期解決が最も重要視される。

「だがまずブレーズ卿の話を聞いてからでも遅くはない。それにブレーズ卿は身内の命がかかわることで俺たちの協力は必要ないと言った。つまりそこには何かしらの意図があるはずだ……さすがに話してくださいますよね、ブレーズ卿?」

 俺は半ば強制的に聞き出すように質問する。

「………わかりました。話すだけなら話しましょう」

 ブレーズは渋々ではあるが話してくれることになった。

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