勇者パーティ②
「リリア・バルマント嬢をぜひ勇者パーティーに入れてほしいのです」
「………は?」
一瞬出た声は俺のものか、リリアのものか、あるいは他の人のものだったか。しかしグリーリッシュの言葉は俺たちの思考を止めるには十分だった。
「………どういうことですか?」
俺は一言をひねり出すことで精いっぱいだった。
「そのままの意味ですよ。リリア嬢には勇者パーティに入っていただきたいのです」
意味がわからない。どうしてそんな結論に至ったんだ。
これは俗に言う引き抜きというものだろう。
しかしリリアを勇者パーティに入れるというのはおかしい。婚約者のいる女性を男性のいるパーティに入れるわけがない。
「どうして彼女を勇者パーティに入れる必要があるのでしょうか」
「リリア嬢はランバルト王国、いえ大陸でも指折りの光系統魔術使いと聞いております。そのお力をぜひ魔王討伐に役立てていただきたいのですよ!」
「それを言えばリリアは俺たちにとっての貴重な光系統魔術使いだ!リリアを手放すことなんてできない!」
「ですが噂によるとガーリング卿も光系統魔術を使えるそうですよね?」
「それは……」
突然言われた事実に思わず言いよどんでしまう。そしてグリーリッシュはそれを見逃さない。
「一つのパーティに光系統魔術使いは二人もいりませんよね?」
「っ……そちらのレイナ嬢も魔術師でしょう。光系統魔術は使えると思いますが」
「ごめんなさい。私、攻撃系の魔術しか使えないの」
使えねぇな!ティーベルでも簡易的な光系統魔術くらいは使えるってのに。
「そもそもリリアは俺の婚約者です!他の男のパーティに入れるわけにはいきません!」
「そ、そうです!」
今まで思考停止していたリリアが俺の言葉に水を得たように反論を開始する。
「私はガルくんの婚約者です!勇者様とはともに旅をすることはできません!」
「別にいいやないか。何かするわけでもあらへんのに」
ヨシュラはヘラヘラと笑っている。
今の状況でも恋人でもない女性たちを侍らせている男のどこが信用できるというのだ。
「それでも認められない!それにリリアはまだ成長途中だ。中途半端なまま別のパーティに入れるわけにはいかない」
一応そう言っているが魔術師としてはもう一流、成長は十分だ。しかし俺はそこで満足してはいない。いずれは回復はリリアに一任させようと思っている。リリアは俺が超一流の魔導士にさせるのだ。
「それに私が勇者パーティに入るメリットがありません」
リリアは更に否定の言葉を積み重ねる。しかしリリアのその言葉を待っていたとばかりにグリーリッシュが勢いを取り戻す。
「メリットならございますよ。まずリリア嬢が勇者パーティに加わることでランバルト王国及びバルマント公爵家の評価が周囲の国家から上がるでしょう。それは他では得られないものとなります」
「すでにリリアは十分な評価を受けています。ランバルト王国やバルマント公爵家もそのような実績は必要ありません」
「ですがリリア嬢の婚約者でもあるガーリング卿の評価も上がり今後各国で動きやすくなると思いますよ」
「……ガルくんのためになる?」
グリーリッシュの言葉にリリアが興味を示す。
「えぇ!なりますとも!他の誰でもできない、リリア嬢だけができることなのですよ!」
グリーリッシュは立ち上がりまるで演説でもするように抑揚をつけ始める。
「さらにリリア嬢には聖女になってもらいたいと思っているのです!」
「聖女……」
聖女とは聖ミニナリア国における象徴だ。その名の通り女性しか成ることが許されない神聖な地位。
聖女の条件は大陸最高の光系統魔術使いであることだ。
条件は完全に満たしている。しかしこれまでに聖女になった者は全員が聖ミニナリア国出身だったはずだ。おそらく他国の貴族令嬢が聖女になることは異例中の異例だ。聖女は国の根幹にかかわる問題、さすがにグリーリッシュだけで手に負えるものではない。
しかしここで宣言するということはすでに他の枢機卿や法皇の許可を得ているのだろう。
だからと言ってリリアをみすみす手放すつもりはない。
「聖女が誰だろうと俺には関係ない」
「そんなことはありません。リリア嬢がなればガーリング卿が恩恵を受けることは確実です。それに……」
グリーリッシュがチラッとリリアを見る。
「ガーリング卿がいくら否定したところでリリア嬢本人が望めば関係はないのです」
リリアを見ると何やら真剣に考えこんでいた。
「り、リリア?何を考えているんだ?」
「……もし…もしも私が勇者パーティに入ればガルくんの役に立つ。それは私だけの……」
俺の言葉に反応しないほど深く思考している。こういう時はどれだけ言葉をかけても反応しない。
「もちろん今すぐにとは言いません。急にこのような提案されても混乱してしまいますしね」
……この男のことを信用できない。この崩れない笑顔はまるで必ず自分の思い通りになると思っている顔だ。
そんなやつに関わるのは危険だ。
「みんな行くぞ」
俺はこれ以上この場に居たくなくてみんなを連れてグリーリッシュの屋敷を出た。