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英雄騎士の最強魔道  作者: バニラ
神聖ミニナリア法国編
158/176

法国までの道

 神聖ミニナリア法国に行くメンバーは俺たちのパーティの他に三人が同行することになった。

 一人目は近衛騎士ウーラス・ベルナール。近衛騎士団の中ではまだ若く経験も浅い。腕も未熟で要人の警護を担うにはまだ早い。それでも選ばれたのは警護対象が俺たちだからだろう。何かトラブルが起きたとしても俺たちが何とかするという魂胆が丸見えだ。こういった安全な状況で経験を積ませたいのだろう。

 二人目は魔術師団シナイ・クーシー。魔術師団の中ではそれなりに経験を積んでいるらしい。しかし彼女にも欠点なるものがある。それは本番に弱いことだ。実力はあるが実戦ではテンパって足を引っ張る。典型的な精神面での弱さだ。もしかしたら彼女自身あまりこのような戦闘職系は向いていないのかもしれない。そこら辺の見極めも必要になってくる。

 三人目はライカーン・ミューストン伯爵。神聖ミニナリア法国に近い領地を持っていて法国との国交を取り持っている一族の当主だ。また名前からわかるようにシスティアの父親だ。まさかシスティアが伯爵令嬢だとは思いもしなかった。ジークに紹介してもらった時は驚いたものだ。



 移動は馬車で馬を引くのはウーラス、その隣にシナイが座り、馬車の中には俺たちとライカーンが座っている。

「いつも娘のシスティアがお世話になっております、ガーリング卿」

「いえ。こちらこそシスティア嬢には仲良くさせていただいています」

 俺とライカーンは改めてあいさつを交わす。

 初対面の時はジークもいて軽くしか言葉を交わせなかった。

「ライカーン卿、本日はご同行ありがとうございます」

「ティーベル様、お礼は必要ございません。これも貴族としての務めでありミューストン家の使命にございます。むしろこのような場に同行を許されたこと、身に余る栄誉でございます」

「ライカーン卿の忠誠に感謝を」

 ティーベルとライカーンもやり取りを交わす。

 法国から正式に呼び出しを受けたのは俺だけだ。つまりライカーンが付いてくる必要性はない。しかし俺だけでは何かしら問題が起きる可能性がある。そもそも俺は爵位を与えられているがまだ子供だ。帝国では俺が勝手に大暴れして何故か帝国で認められたからうやむやになっただけで普通に考えたら問題案件だ。事情を知らない人が見たら不信感を抱かせてしまう。そのため法国とのパイプがあり他国との交流が豊富なライカーンに白羽の矢が立ったというわけだ。

 形式上で行わなければならないやり取りを終えると馬車の中の空気が少しだけ緩む。

「しかしあのガーリング卿と肩を並べて仕事をする日が来るとは思いもしませんでした」

 年長者として経験者として一番最初に声を出したのはライカーンだった。

「あのとはどの俺なんですか?」

「この国、いや今や人類の危機を救った英雄という認識ですね」

 その認識は間違っていない。実際俺が解決してきた問題はランバルト王国だけではなく世界規模の危機もあった。だが―――

「俺は英雄なんてガラじゃありません」

 英雄というのは全てを救ってこそ名乗れるものだ。俺は守れなかった。守ると決めたものでさえ。そんな俺に英雄を名乗る資格などない。

「それはどうでしょう。ガーリング卿がそう思っていなくとも助けてくれた人たちにとっては英雄なのかもしれません。結局は人の想いが英雄を形作るのかもしれませんね」

 ライカーンは俺の言い方に何かを勘づいたのか無責任に肯定も否定してくることはない。

 しかしライカーンの言葉は的を射たようだった。

 誰かの想いが英雄を形作る。それはかつての英雄騎士と同じだった。

 誰かが助けてほしいと叫ぶから俺は騎士として戦った。そしていつしか俺は英雄騎士と呼ばれるようになった。そう考えると俺の英雄騎士という立場は人の願いによって成り立っていたともいえる。

 ライカーンは鋭い観察眼と深い思慮を持っている。だからこそ一国相手に国交を取り持つことができるのだろう。たまに爆弾発言をするシスティアとは大違いだ。

「そう、ですか……」

 俺はそう返すことしかできなかった。今の俺ではライカーンの発言に肯定も否定もできなかった。

 やはり俺はまだまだだ。




 そうして馬車の中ではリリアたちとライカーンの話が盛り上がっていった。

 話の話題は主にシスティアのことだった。

「システィアは極稀に爆弾発言をするんですよ。この前は同じパーティの男子に向かって毛が薄いと言ったんですよ。それを聞いた子が妙に髪にこだわるようになってしまったことがありました」

「それはなんというか、その子には申し訳ないことをしましたね……」

 ちなみにその男子とはケルストのことだ。

 事の経緯は魔術実習の時、魔物と戦った。そして倒した魔物はマッドウルフ系だったのだがその魔物の体毛が薄かったようだ。それをシスティアが毛が薄いと言いその魔物の処理をしていたケルストにだけその発言が聞こえた。そしてシスティアの発言が自分に向けられたものだと勘違いしたケルストが自分の髪にこだわるようになってしまったようなのだ。

 俺たちはあいにく帝国に行っていてその現場に居合わせなかったのだが話を聞いてつい笑ってしまった。ケルストの髪の毛は変な髪形に変わっていて笑いよりも関枠が強かったのを覚えている。

 他にもシスティアのことになると話題が尽きないみたいだ。

 ライカーンは娘の学校生活が聞けて嬉しそうだし女子たちは仲良しトークを連発していく。正直俺はシスティアとの仲が悪いわけではないがこれと言って仲良くもないので微妙な立ち位置で話にはついて行くだけで精いっぱいだった。

「せっかくですしガーリング卿はシスティアを娶るつもりはありませんか?」

「はぁ!?」

 どうしてそんな話になる!?何がせっかく!?なんかこんな会話を以前もしたような気がする。やはり親子か。親子なのか。

「話を聞く限りガーリング卿の婚約者の皆様とは仲が良いようですし、親のひいき目かもしれませんがいい子なんです」

 システィアがいいやつなのはわかっている。しかしだからと言ってシスティアを妻にするつもりはない。今の四人でさえ多いと思っているのにこれ以上大切な人を増やせる気がしない。それに彼女自身の気持ちもある。三人は俺が断っても全力で自分を売り込んできたほど俺に惚れこんでいた。システィアにはそこまで俺に惚れこんでいる様子はない。勝手にシスティアの婚約者になるのはお互いにとって良くない結果を招くだろう。ここは丁重にお断りするのが吉だ。

「お気持ちはありがたいですがその申し出を受けるわけにはまいりません。今の俺では彼女にまで気を配れる自信がないですので」

「そうですか。システィアはフラれてしまいましたな」

 別にシスティアが告白してきたわけじゃないけどな。

 馬車の中での会話はそれからも続き盛り上がっていった。

 法国までは残り二日だ。

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