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英雄騎士の最強魔道  作者: バニラ
神聖ミニナリア法国編
156/176

面倒ごと

 帝国動乱事件が起きてからしばらくが経った。

「帰れ」

「王様に向かって言うことじゃなくない?」

 なぜか我が家に現国王ジークロットがやってきた。面倒ごとの予感しかない。できることなら早く帰ってほしいのが本音だ。

 それにしても俺の本音を笑い飛ばすとかどうなってんだ。明らかに嫌な顔してると思うんだけど。

「とにかく話だけでも聞いてよ」

 そう言ってジークは従者が淹れた紅茶を飲む。俺の屋敷では従者が働いている。屋敷を貰った時にいた彼らだ。俺たちが出かけているときも彼らが働いてくれるお陰で屋敷は綺麗に保てている。

 絶対話を聞くだけで終わらない。

「それでジーク殿、用件はなんだろうか」

 リーゼが完全に効く体勢になってしまった。これ幸いにとジークは話を進める。

「実は神聖ミニナリア法国から連絡があったんだよ。勇者に関することでね」

「勇者?」

 ジークの言葉に関心を持ったのは意外にもフィリアだった。てっきり興味ないのかと思っていたんだけど。

「フィリアは勇者に興味があるのか?」

「い、いえ。そういうわけではなくてですね……もしかしたらガル様が勇者になるのかなぁと思いまして」

「なるほど」

 しかしどうして俺が勇者になると考えたんだろうか?

「確かに勇者ってこの国の王様が任命してたんだよね?それならジークロット様がガルくんを勇者に任命したらそれで決まりだもんね」

 リリアの言葉にようやく合点がいった。どうやら俺と彼女たちの間で勇者に対する認識の誤差があったようだ。

「事はそう簡単じゃないんだ。そもそも勇者の任命はランバルト王国の国王は任命していたわけではないんだ」

「え!?そうなの!?」

 リリアは驚きで目を丸くする。ティーベルも初耳のようで固まっている。

 そこら辺の事情はジークの方が詳しいだろうから説明を促す。

「初代勇者は教会所属の聖騎士だと言われている。当時はまだ魔族と人間の争いよりも人間と人間の争いの方が多かったようでね。それを見かねた教会本部、神聖ミニナリア大国が作り上げた概念的な存在だった。しかし勇者という機能は思いのほか有効だったんだ。それからも人間同士の争いが激化し始めると教会が新たな勇者を作り出すようになった。しかしここで問題なるのが誰を勇者に選ぶか、だ。初代のころはまだ試験運用的な意味もかねて強いやつが適当に選ばれた。しかしそれが続くとなると教会の聖騎士が減ってしまう。そこで魔王領と隣接し強大な力を持つランバルト王国の人間が適任だとされた。もともとランバルト王国は人間の国よりも魔族との争いの方が多く国内からの反対もなかった。むしろ賛成意見が強いくらいだったらしい。その歴史が何かの拍子でずれが生じたのだろう」

 ジークはそう締めくくると再び紅茶を飲む。

「そ、そんなこと初めて知りましたわ……」

 ティーベルは驚きのあまり開けた口を手で覆っている。

 勇者についてのティーベルの説明は間違ったものだった。わざわざ俺たちに嘘をつくとは考えにくい。だとすると本当に知らなかったのだろう。

「ガル様は知っていたんですか?」

「そうだな。と言ってもジークに教えてもらったからな」

「おいおい。俺に振るなよ。俺だって知ったのは一年前だ」

「ではなぜジークロット殿は一年前にその事実を知ったのだ?」

 リーゼの疑問はもっともなものだ。もちろん勇者について知ったきっかけはある。

「実は一年前、ガルが勇者に推薦されたんだ」

「「「ええええぇぇぇぇぇぇぇ!?」」」

 全員の叫びが絶妙にハモった。

「何それ聞いてないんだけど!?」

「どういうことですの!?」

「もっと詳しく聞かせてくれ!」

 ティーベル、リリア、リーゼの三人は興奮した様子で盛り上がっている。そんな中フィリアだけは冷静だった。

「ですがガル様は勇者ではありませんよね?」

「言われてみれば……」

 フィリアの言葉に三人は落ち着きを取り戻す。

「何か理由が?」

「そうだな。まず一つ目は俺にメリットがない。むしろ勇者になってしまえば行動が制限されたりして動きづらくなる。それを考えるとデメリットだ」

「そうですわね。もしガルさんが勇者になっていた場合、ヒノワ王国の救援に行けなかったかもしれませんわ」

「二つ目は胡散臭かったからだな」

「胡散臭い?」

「あぁ。俺を推薦したのがグリーリッシュ枢機卿という人物なんだ」

「なるほどですわ。確かにそれは賢明な判断かもしれませんわ」

 ティーベルが俺の意見を賛同してくれた。

「そのグリーリッシュって人ってそんなにひどいの?」

「酷いの定義にもよるけど、彼の場合は自分の権力のためならなんでもすることが問題だね」

 ジークが流れるように話の主導権を持っていった。

「グリーリッシュ枢機卿はここ数年神聖ミニナリア法国を実質支配しているんだ。トップは法皇だけど法皇はいまや象徴的な存在になってしまった。グリーリッシュ枢機卿はそこに至るまでいろんな暗躍をしたと噂されているけど確たる証拠もなく流されてしまった。今でもグリーリッシュ枢機卿の黒い噂は絶えないよ。他にも聖職者のくせして女を侍らせまくってるとか好き勝手やってるらしい。そんなやつの推薦なんて裏が見えすぎるし危険だからな。俺が断るように勧めたんだ」

「そうだったんですのね」

 妹に褒められて得意げなジーク。

「で、神聖ミニナリア法国は何って言ってきた?」

「そうだったそうだった」

 元の用件をそっちのけでつい話し込んでしまった。早く話を済ませてさっさと帰ってもらおう。

「差出人はグリーリッシュ枢機卿だ」

「うへぇ……」

「気持ちはわかるが顔は抑えろ」

 そんなに酷かったか?

「今回は俺宛て、正確には国王宛てだ。勇者の任命式にぜひ参加してほしいと書いてあった」

「それで?そんだけならそっちで勝手にやってるだろ?」

「察しがいいな。ガルの考え通り話はこれで終わらない。親書には国王が多忙で出席不可能な場合は代理を立てるものとするとしてご丁寧に名指しだ」

「やっぱりな。そんなこったろうと思ったよ」

 俺は脱力してソファーに深く座り込む。

「悪いがこれは国同士の正式なやり取りで拒否する明確な理由もない」

「わかってるよ。これを断ればいくらランバルト王国でも立場が危ぶまれる。そういう事だろ?」

「……すまない」

 本心では絶対行きたくない。面倒ごとの予感しかない。しかし行かなければいらぬ諍いを引き起こしかねない。そんなのは英雄騎士的にあり得ない。

「行ってやるよ。仕方ねぇな」

「恩に着る」

 はぁ。帝国の次は法国か。

 今はまだゆっくりしたかったがそうも言ってられなくなってしまったな。

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