新たな弟子
今日の授業も終わり下校時間となる。
「あれティーベル王女ですよ」
「美しいわ」
「隣にいる殿方は誰でしょうか?」
教室でもうるさかったのだ。学校全体なら余計にうるさくなるのは当たり前だ。それに比例して多くなる視線。めんどくさいな。
「こちらですわ」
ティーベルの後ろについていくと王族の紋がついた馬車が停まっていた。
「乗ってください」
「はい」
俺たち四人は馬車に乗り込む。
「今日はお誘いを受けていただきありがとうございますわ」
「こちらこそ誘ってくださってありがとうございます」
ほんとは嬉しくないけど…
「ティーベルと一緒に王城に行くのは久しぶりね」
「そうね。懐かしいわ」
「あの、リリア様とティーベル様はいつごろからお知り合いで?」
「様はいらないわよフィリアさん」
「そ、そんな!恐れ多いです!」
「でもわたくしたちは学友ですよ。もっと気軽に接してほしいですわ」
「はわわわ!」
ティーベルがフィリアの手を取る。
「ねぇ、フィリアさん?」
「フィリア、私たちは友達だよね。様付けは寂しいな」
リリアがフィリアの反対の手を取る。
「大人気じゃないか 、フィリア」
「笑ってないで助けてください!」
結局さん付けすることで落ち着いた。
「ガル様酷いです。助けてくれないなんて」
「悪かったって。機嫌を直してくれよ」
「フンッ!」
フィリアにそっぽを振る向かれる。馬車の中で助けなかったことを根に持ってるらしい。
「二人とも、じゃれついてないで行きますわよ」
「はーい」
「じゃ、じゃれてないです!」
ティーベルに急かされて急いで後を追う。
「それでは魔術を教えてくださいな」
「了解」
俺はリリアとティーベルに向き合う。
「今日俺が言ったことは覚えてるか?」
「どのことを言ってるのかしら?」
「あぁ。魔術はどうやって発動するか、の部分だな」
「確か、魔力を練る、だったかしら?」
「そうだ。ここでお前たちに質問だがなぜ複数の属性魔術があると思う?」
「なぜって、適性があるからじゃないの?」
「ならばなぜ得意属性と苦手属性があるんだ?魔力を使って魔術を行使するなら別に一パターンだけでもいいはずだろ?」
「それは、そうだね…」
「考えたこともなかったですわ…」
二人とも真剣に考えている。真面目な生徒は大歓迎だ。しかしあまり遅くなるのもアレだしもう答え合わせとしよう。
「答えは各属性によって魔力の練り方が違うんだ」
「そうなんですの?」
「そうだろ、フィリア?」
「はい。私も慣れるまで苦労しました…もうあんなことしたくなかったです…」
「あははは…」
フィリアは身体強化の魔術はすぐに習得したけど属性魔術は苦手っぽかったからな。覚えるまでどれだけ手間取ったことか。
「というわけでフィリアにもわかるんだ。だから二人もわかるようになるはずだ」
「わたくしはそんな感覚感じたことはありませんわ」
「詠唱魔術だったからな。あれは詠唱の方に意識を向けるから魔力の微妙な違いに気が付きにくいんだよ」
「そうだったんですのね…」
「まずは実際に無詠唱魔術を使ってみようか」
「えっ?でも私たち使えないよ?」
「俺がお前たちの体を通して使うんだよ」
「そんなことできるの!?」
「あぁ。少し身体に触れることになるけどな」
「え、ええぇぇえ!」
「ど、どうしたの、ティーベル?」
「いえ、その、だ、男性に触られたことがないので…」
「……箱入り娘だ」
「し、静かになさってください!」
「ティーベルがいやなら私からでいいよ」
「いいのか、リリア?」
「うん!お願い!」
「わかった」
俺はリリアの手を取って寄り添うように立つ。
「け、結構近いね…」
「悪いが我慢してくれ」
「が、我慢なんて、そんな…」
どうしたんだ?そういえばフィリアも同じように顔が赤くなってたけど…
「そういえばリリアの適正魔術ってなんなんだ?」
「水属性と光系統だよ」
光系統の適正があるとは…系統魔術は特殊で適性を持つ人が少ないんだが、貴重な人材だな。リリアは光系統の魔術を中心に教えたいが属性魔術と系統魔術は勝手が違うからはじめは軽い水属性の魔術を教えようか。
「じゃあ『水球』を打とうか」
「は、はい」
俺はリリアの体を通してリリアの魔力を操る。
「な、なんか変な感じ…」
「それが魔力の動きだからその動きを覚えるように意識を集中して」
「う、うん」
俺はリリアを通して『水球』を発動する。
「すごい…本当にできちゃった…」
リリアが呆然と呟く。ティーベルも驚いたように目を見開く。
「その感覚を忘れないように反復で練習しとくんだよ」
「うん」
「フィリア、リリアを手伝ってあげて」
「はい!」
フィリアはリリアの元に駆けていく。リリアのことはフィリアに任せれば問題ないだろう。あれでもフィリアは成長してるんだ。
「こう、かな?」
「がんばって!」
いや応援だけじゃなくてアドバイスとかも……楽しそうだからいいか。
「それでティーベルはどうする?」
「お、お願いしますわ!」
覚悟を決めたみたいだ。俺はリリアと同じようにティーベルの手を取る。
「ひゃわ!」
「え?え?」
「い、いえ!問題ないですわ!」
「そ、そう?」
俺はティーベルに寄り添う。
「ティーベルの適正魔術は?」
「火属性ですわ。ですがそれ以外も属性魔術なら大抵いけますわ」
「そういえば試験の時も火属性の魔術を使ってたもんな」
「み、見ていましたの!?」
「そりゃな。あんだけ注目されてたらな」
「でもその後のフィリアさんとガルさんの方が注目されていましたわよ」
「やめてくれ」
「ふふっ。可愛らしい反応ですわね」
「ほら、もう始めるから集中しろ」
「はい」
俺はティーベルの魔力を操る。
「こ、これが魔力を操られる感覚、確かに変ですね」
「お、おい!」
ティーベルが身をよじる。そのせいでティーベルの柔らかいものが当たる。なんとか自制心を強めつつ『火球』を放つ。発生した火の玉は的に当たって的が燃える。
「で、できました!」
「今の感覚を思い出しながらもう一度やってみてくれ」
「えっと、こうだったわよね」
ティーベルは目を閉じると魔力を練り上げる。
「すぅーはぁー…『火球』」
ティーベルから『火球』が放たれる。
「……ティーベル?」
「……うそ、一回で?」
「これが、無詠唱魔術…」
使った本人も唖然としている。
「どうした?成功してるぞ」
それにしてもまさか一回で成功するなんて。流石は魔術の天才と言うべきか。これは将来が楽しみかもしれない。