魔術
「午後の授業は魔術学です。魔術の上達には必要不可欠な知識なのでちゃんと勉強してくださいねー」
さて、午後は俺が一番気になっていた魔術学。どんな内容なのか。
「まず、魔術の基本属性、系統を言ってみましょう。フィリアさん」
「はい。属性は火、水、風、土、雷の五つ、系統は闇、光の二つです」
「正解です。さすが次席ですね」
先生が褒めるとフィリアは嬉しそうに笑う。
「この七つが基本となって魔術は広がっていきます。たとえば火の派生が爆発、水の派生が氷といったものですね。これらはそれぞれ初級、中級、上級があります。上級魔術を扱えることで超一流として魔術師団でも幹部になることが約束されます。皆さんも頑張って上位の魔術が使えるようになりましょう」
この時代には神級が明らかにされていない?なぜだ?確かに前世でも帝級魔術を使えたものは少なかったが…
「これらに該当しないものが無属系魔術と呼ばれています。ここまではいいですよね?」
クラス全体が頷く。
「そして魔術の発動には詠唱が必要不可欠とされています」
「えっ!?」
「…………」
やはりか。おかしいと思ったんだ。いくら詠唱魔術が広まっているとしても無詠唱魔術をするだけで驚かれるのは。可能性としては無詠唱魔術の消失があると思っていたがまさか本当にそうだとは。想定していたケースでも最悪のパターンだ。
「わ、私とガル様は無詠唱で魔術が使えます!」
「そうなんですよね〜。それがどうしても分からなくて…ですのでできれば教えていただけると助かります」
「わ、私の師匠はガル様なので!ガル様お願いします!」
「丸投げかよ…」
俺はゆっくりと立ち上がる。
「チッ!」
鋭い視線を感じる。あの公爵家の息子か。
「そうですね…そもそも魔術の定義とはなんだと考えていますか?」
「魔術の定義ですか?」
俺の質問に先生が考える。
「魔術とは魔力を持った人だけが使える超常現象、でしょうか?」
「そうですね、間違ってはいません」
ここで人間は全員魔力を持っていると言いたいがそれでは反発が大きすぎるし、何より誰も信じない。ここは黙っておくのが吉だろう。
「では魔術の代償で支払う魔力はなぜなくなるのでしょうか?」
「それは魔術を使うのに魔力を使うからで…」
「なぜ魔術を使うのに魔力が必要なんですか?」
「そ、それは…」
「「「「……………」」」」
教室が静まり返る。真剣に考えてくれているようで結構。
「それは魔術は魔力の変換によって得られる恩恵だからです。つまり魔力を変換できればどのような形であれ魔術が使えるのです」
俺はそのまま詠唱魔術についての自分の推論を織り交ぜながら話す。
「演唱魔術はおそらく言葉を発することで無意識的に魔力を魔術に変換できるようになるため、簡単に使えるのでしょう。しかし魔術に必ずしも詠唱が必要なわけではありません。自分の中にしっかりとしたイメージがあれば無詠唱でも魔術が使えます」
「そうなんですね」
「無詠唱魔術は詠唱する必要はないので隙が生じにくいです。しかしメリットはそれだけではありません。それは威力でも違いが出てきます」
「それはわたくしの中級魔術とフィリアさんの初級魔術の威力の違いにも関係が?」
「もちろん」
ティーベルは興味深そうに聞いてくる。
「詠唱魔術は簡単ではありますが、無意識的なもののため、どうしても魔力の練りが甘くなってしまいます。その分威力は格段に落ちます。それに対して無演唱魔術は自分で魔力を練り上げる必要があるため、その分魔力の練度が上がり威力も上がるわけです」
「なるほど。考えたことなかったですわ」
ティーベルは納得したようだが他の人たちはまだ納得してないようだ。仕方がないだろう。これは今までの常識を覆すものだからだ。いきなりそんなこと言われても納得できないだろう。
「……俺は認めないぞ」
かすかに聞こえた声。それはあのヨノーグスが言った言葉。
「そんなのありえない!どうせお前は魔族なんだろ!正体を表わせよ!」
「ヨノーグスさん!そのような発言はダメですよ!取り消してください!」
「しかし無詠唱魔術が使えるなんて明らかにおかしいじゃないですか!?」
先生の注意にヨノーグスが言い返す。めんどくさい野郎だな。
「ならば私が無詠唱魔術を身につければいいですわ」
「はあ!?」
「ティーベル!?」
「ガルさん、わたくしに無詠唱魔術を教えてくださいますね?」
「………いいけど」
「わ、私も教えてもらうんだから!」
「リリアまで…」
「ダメ…?」
「ダメとは言ってない」
「では今日一緒に王城に来てください」
「今日!?王城!?」
「えぇ。王城の修練場のほうがいいでしょう?」
「す、好きな場所で…」
「リリアもいいわよね?」
「うん。問題ないよ」
「なら決まりね」
……王城、行くことになってしまった。