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英雄騎士の最強魔道  作者: バニラ
帝国動乱編
139/176

やるせない気持ち

 帝国への入国はできるだけ内密に行われる。下手に騒げば相手側に気取られる危険性があるからだ。

 バルザムークに同行するのは数名の護衛と俺たちだけだ。少数なのも早く静かに行動するため。

「……まさか皇帝が夜逃げみたいなことをするなんてな」

「これが最適なのだ。我に文句はない」

 バルザムーク事態に問題はない。さすがは剣帝。

 俺たちは闇夜に紛れて王都を抜ける。

「今日はどこまで行く?」

「できるなら正規ルートとの分岐点までは行きたい。そこで休憩もできるだろう」

 進行のペースはかなり早い。俺たちの速さに護衛の騎士たちもついてきている。本当に優秀なんだな。これならば十分目標地点に間に合う。

「まさか騎士の中に女性の方がおられるとは思いませんでしたわ」

「ボクもまさか王女様がついてこられるとは思いませんでした。それに公爵家の令嬢まで」

「あはは……でもこういうのはよくあるから慣れちゃったのよ」

 ティーベルたちは後ろでは護衛の人と仲を深めているらしい。そんな中リーゼだけはこちらに混じっている。

「リーゼは向こうに混じらなくていいのか?」

「あぁ。今は少し覚悟を決めたくてな」

 リーゼの言う覚悟がどんなものかはわからない。でも決して馬鹿にできない意思を感じる。





 行軍は順調に進み、無事に目的地に到着した。

「日が昇ればすぐに発つ。早めに寝ておいたほうがよい」

「夜の見張りはお任せください。皆様はお休みください」

 護衛の人たちがそう言うから任せるとしよう。

「じゃあ俺はバルザムーク殿の隣で寝るとしよう」

「「「「え?」」」」

 全員の声が揃う。

 そんなことある?

「えっと、ガルくんは私たちと一緒に寝るんじゃないの?」

「いやいや、普通未婚の男女は別で寝るだろ」

「そうだけど!そうだけど!」

「未婚の男女で同じ屋敷に住んでいるガルが普通を語るか……」

「失礼だな、バルザムーク殿。俺はフィリア以外に一緒に住もうなんて言ってない」

「そうなのか?」

 バルザムークがフィリア以外の俺の婚約者たち、主にリーゼを見る。すると全員顔を背ける。

「ちょっと、リーゼのお父さんでしょ。何とかしなさいよ」

「何とかって、どうするんだ?」

「ご、誤魔化せばいいのですわ。無理に説明しようとしてもボロが出るだけですわ」

「……わ、わかった。がんばってみよう」

 女子たちの密会が終わったのかリーゼだけがこちらを向く。

「……てへっ!」

 リーゼの超貴重なてへっ顔が見れた。しかも恥を捨てきれないようで顔が若干赤い。

 だがこれは明らかに説明の誤魔化しだ。

「リーゼは何考えてるの!?」

「あれではいくらなんでも誤魔化しきれませんわ!」

 リリアとティーベルは何やら慌てている。

 どうやらリーゼの行動は彼女たちにとって予想外だったようだ。

 果たしてバルザムークの反応は如何に!?

「リーゼは可愛いな」

 見事にごまかされていた。

「「あれでいいの!?」」

 二人のノリツッコミは夜空に良く響いた。





 寝るだけとなりバルザムークがそばにいる。

 近くには誰もいないし、ぶっちゃけたことも聞けるだろう。

「バルザムーク殿はギルディアをどうするつもりだ?」

 俺がずっと聞きたかったことだ。

 あの時、リーゼは涙ながらに俺に助けを求めた。そして俺はそれを受け入れた。だが結局のところ最終的な判断を下すのはバルザムークだ。

「………………」

 バルザムークは何も答えない。

 チラリと顔を向けると考えているバルザムークの顔があった。

「個人的には殺したくはない。しかし皇帝としては殺さなければならぬ」

「どうしてもか?」

「そうだな……これは我かギルディアが死ぬまで終わりはしない。もはや誰に止められるものではなくなってしまった」

 国を揺るがす以上、簡単には決着がつかない。

 ギルディアが勝てばバルザムークは確実に殺される。

 バルザムークが勝てばギルディアは国家反逆罪で死刑は免れない。

「そうか……」

 上に立つ者として肉親だからこそ殺さなければならない。バルザムークは今まさにそんな状況だ。

「ガルは我のことを外道と思うか?」

「思わない。少なくとも葛藤しているうちはな」

 ギルディアがバルザムークの手に落ちれば間違いなく殺される。そうなってしまえば俺はリーゼとの約束を違えてしまうことになる。それはなんとしても防がなければならない。

 つまり俺たちのすべきことはバルザムーク派より先にギルディアを生け捕りにすることだ。

 その後は跡形もなく消したとでもいえば深くは追及してこないだろう。帝国貴族は俺の実力を知っている。加減を間違えたと言えば納得するはずだ。バルザムークは察するだろうがわざわざギルディアを殺そうとはしないだろうし話は合わせてくれるはずだ。

 そうなると最大の関門はギルディア自身の心根だ。

 どれだけ俺たちが手を尽くしたとしてギルディアに反省が見られなければ今後の危険な芽になってしまう。俺としてもそんな危険人物を野に放つことはできない。場合によってはリーゼに恨まれようと殺さなければならない。

 ギルディアの説得にはリーゼに一任するしかない。そしてこのことをリーゼに言い聞かせる必要がある。

 ………どうしても嫌な予感がぬぐい切れない。頼むから何も起きないでほしい。俺の思い通りになってほしい。そうでなければ何かが決定的に変わってしまう気がした。

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