お祭り
あれから二か月が経ち季節もすっかり変わってしまった。
そんなある日、王国に激震が走った。
「聞いたか!?ついにウォレン国王様が退位してジークロット第一王子が即位するらしいぞ!」
「王都中がその話題で持ちきりだ」
俺はスティアードの熱気を軽く受け流す。
「なんでそんなに冷静なんだよ!時代が変わるんだぜ!」
「そうだね。僕も自分が浮足立っているのがわかるよ」
ケルストの声も心なしか弾んでいるように思える。
教室もここ数日はいつもより賑やかだ。
そんな中俺がいつも通りなのは前から知っていたからだ。
事の発端は去年の冬、死の森事件以降ジークは国王になるためにさまざまな調整してきた。そのせいでどれだけ俺が王城に呼び出されたことか。
国のことなのだから一貴族の俺に意見を聞くなとあれほど言ったのに何度も何度も呼び出して。おかげで一回問題になりかけたんだからな。俺の傀儡政権だとかなんとか。国王やリュークがとりなしてくれたから大事にならなくて済んだ。
とはいえ国の貴族から嫌われるとかどんな悪夢だよ。あんなのはもう二度とごめんだ。
「……なんでそんなに不機嫌なんだ?」
「教えん」
ジークへの愚痴をここで零すと面倒なことになる。沈黙は何とやらだ。
そしていよいよ戴冠式当日がやってくる。
本日は戴冠式の前日だ。王都では今日から三日間お祭りが開かれる。
「すごい賑わいだな」
「そうですね。目移りしてしまいます」
俺はお忍びで王都の祭りに来ている。もちろんローブで顔を隠している。俺はだいぶ顔が割れているから隠していないと大騒ぎになってしまう。
連れているのはフィリア一人だ。他の三人も来たいと言っていたがさすがにローブの団体は目立ってしまう。ティーベルは王女だしリーゼも混乱を招きかねない。リリアは以前襲われたことがあり、それ以来護衛なしで街に出ることを禁止されている。俺がいれば大丈夫だろうができるだけバレるリスクは避けたい。三人は泣きながらも納得してくれた。まぁ今度デートすることになったがそれはむしろいいことだろう。楽しみにしておこう。
「串焼きですよ!」
「美味しそうだな。買いに行こうか」
俺はフィリアを伴って串焼きを買う。
「おじさん、串焼きを二本貰おう」
「おう、まいど…ん?嬢ちゃん別嬪さんだな」
「ありがとうございます……」
「可愛い嬢ちゃんにオマケしといてやるぜ」
そう言って店主は串焼きをもう一本袋に入れる。
「恩に着る」
「気にするこたぁねぇ楽しんでくれりゃあいいんだからよ」
性格がよすぎるおっちゃんだな。
その後も行く先々でオマケされた。フィリアってそんなに世間から見ても綺麗なのだろうか。いつもティーベルたちとしかいないせいで基準が分からない。
チラッと隣で歩くフィリアを見る。
同年代の女の子たちと比べて子供っぽい。しかし顔立ちが整っていて可愛らしいと思う。
「どうしました?」
「何でもないよ」
「そうですか」
フィリアはさりげなく俺の手を握る。
「何を……」
「えへへ」
「っ!」
急なことで驚いたがフィリアの幸せそうな顔を見ると何も言えなくなる。
「行くよ」
「わっ!」
俺はフィリアの手を強く引く。
フィリアは始めの方は驚いたようだったが次第に顔が緩んでいく。
「楽しいですね!」
「そうだな」
俺はフィリアと祭りを楽しんでいく。
昼になると王都の一番広い広場で歌い手が歌を歌っている。王国で結構人気な人らしく人だかりができている。
「あれ?スティアードと……クレア?」
人だかりの中で見覚えのある顔を見つけた。
「え、誰……ってガ―――むぐっ!」
「大声出さないで!ローブで顔を隠している意味くらい察しなさいよ!」
クレアはスティアードの口を塞ぐと小さな声で怒る。
「ありがとう、クレア。ナイス機転だよ」
「気にしなくてもいいわよ。今日は……フィリアだけなのね」
「そうだよ。三人は……やんごとなきご身分だし……」
そう言うとクレアは納得したように頷いた。
「でもそれを言うならあなたもそうじゃない……」
「あはは……」
確かに俺は貴族の当主だしこの中で俺が一番の重要人物になるのか?いやさすがに王女や皇女の方が身分が高いか。
「スティアードさんとクレアさんはデート中ですか?」
「デ、デートっ!?」
「そうだよ」
スティアードはクレアの横からひょっこりと顔を出す。
こいつほんとに動じないな。クレアは相変わらず慣れないみたいだけど。
「ガ―――お前とフィリアもデート中なのか?」
「そうだな」
「それじゃあこの後四人でまわらないか?」
スティアードがそんな提案してくる。
「うーん……」
俺は問題なけどフィリアはどうなんだろう……って目がキラキラしてる!?
「それって俗にいうダブルデートですよね!私やってみたいです!」
「フィリアはかなり乗り気なんだな」
「はい!本で読んだことあって憧れていたんです!」
フィリアって案外夢見がちなとこがあるよな。
「俺もいいぞ」
「クレアもいいよな?」
「はぁ……フィリアのこんな顔見たら断れないでしょう。いいわよ」
クレアもなんだかんだ楽しみみたいだ。
俺たちは空が暗くなるまで一緒に遊びまわった。