ヘルサル公爵邸にて
「ヒースロッテ殿、その話を詳しく聞かせてもらえないだろうか?」
リーゼはヒースロッテの話に食いついた。
「いいですけど、今日はもう遅いですし明日にしましょう!」
ということで翌日、ヘルサル公爵邸にお邪魔することになった。
「さて、菓子と紅茶もそろったことですしお茶会としゃれこみましょう!」
「待て、明らかに俺だけ場違いじゃないか?」
今この場所はヘルサル公爵邸の中庭だ。しかも座っているのは綺麗な服を着た俺とドレスを着た婚約者たちとヒースロッテ、ヒースロッテのお付きのメイドたち。
リーゼのドレス姿は貴重だな。でも男は俺しかない。めっちゃ気まずい。
どうしてこうなったのか?時は少し遡る。
翌日は学校があったため放課後になってからだ。
「それでは行きましょう!」
校門の前で待っていたヒースロッテに捕まり俺たちはそのままヘルサル公爵邸に行くことになったのだったが、着いてからいろいろあった。
ヘルサル公爵邸に着いた途端、婚約者たちはメイドたちに連れてかれていった。
どういうことか疑問に思ている間に俺は執事たちに連れられて一室に通された。
「これに着替えくださいませ」
執事の一人に手渡されたのは質のいい貴族がよく着ている服だ。
「なぜこれに着替える必要が?」
「それはのちのちわかりますよ」
にっこりとした笑顔で返されて、釈然としないまま制服から着替える。
すると執事たちに案内されて中庭にある椅子に座らせられる。
「少々お待ちくださいませ」
「え……待って!」
そう言うと執事たちは颯爽とどっかに行ってしまった。
「えぇ……どうすんのこれ……?」
そして一人で待つこと数分。
「お待たせしました、ガーリング卿」
「そんなことありませんよ、ヒースロッテじょ……う……」
俺はヒースロッテを見て、正確にはその後ろの婚約者を見て言葉を失ってしまう。
みな、綺麗なドレスを身に纏っていたのだ。
「どうかしら?」
まず始めはティーベル。王女としていつもこのようなドレスを着ているのか違和感がない。胸元が大胆に開かれた真っ赤なドレスでよく似合っている。しかしティーベルの胸は大きいため谷間が強調されていて目のやり場に困ってしまう。
「似合ってるでしょ?」
ドヤ顔のリリア。しかしドヤ顔になるのもわかるほど似合っている。艶やかな肩が露出している紫色のドレスだ。紫の色ということも相まっていつもの無邪気さはなく大人っぽい雰囲気を醸し出している。
「あ、あまり見ないでください……」
フィリアは恥ずかしそうにもじもじしている。フィリアのドレスは露出が極端に少ない青色だ。フィリアは小柄で子供っぽいにも関わらず清楚な雰囲気がある。十分大人の魅力があると言ってもいい。
そしてなんといっても目に焼き付いたのはリーゼのドレスだった。
「うぅ……このようなドレスは好かんのだが……」
リーゼは基本鎧を身に付けているため私服姿すら貴重なのにドレスなんて初めて見た。
リーゼのドレスは片方の肩から胸元までばっさりと露出してる紺色のものだ。健康的な肌色が眩しい。さらに鍛錬していることがわかるスラッとした脚線美には目を奪われてしまう。
それらを脳内で分析して絞り出した言葉は―――
「とても素敵、です……」
「いやなんで敬語なんですか……」
呆れているヒースロッテだが彼女も彼女でドレスが似合っている。
緑色で腕が全部露出しているドレスを着こなしている。
「ヒースロッテ嬢もとても似合ってるよ」
「え?……ありがとう、ございます」
ヒースロッテは俺の賛辞に顔を赤く染める。なんで?普通に褒めただけだよな?だから白い目を向けるのやめてもらっていいですか?婚約者さん方。
「コホン。それでは席に座りましょうか」
ヒースロッテは四人を席に案内する。
俺はここで気付くべきだった。単純に話をするだけならわざわざ着替える必要なんてない。ましてドレスとかおかしい。
でも俺は何の疑問を持たずに話をしようとする。
「じゃあ早速話を――――」
「その前に菓子を準備しましょう。メイドたち」
メイドたちはテーブルにお菓子を準備していく。それと同時に紅茶も準備されていく。
しかも準備し終えたメイドたちは執事たちと違って去っていくことがない。
そこで俺は疑問を持ち始めた。
なんか俺、浮いてね?
だって見るからに高級菓子に高級そうなカップに入っている紅茶、綺麗なドレスに包まれた綺麗な女性たち。これはいわゆるお茶会というものではないか?お茶会は男子禁制と聞いたことがあるのだが……
「さて、菓子と紅茶もそろったことですしお茶会としゃれこみましょう!」
「待て、明らかに俺だけ場違いじゃないか?」
そして現在に至る。
別に話ができないわけじゃないけどこうも明らかに浮いていると気まずい。
「何をおっしゃっているんですか?」
「え?」
目が本気だった。
「ガーリング卿がいなければティーベルお姉さまのお話を聞けないじゃないですか」
「え?」
「え?」
目が本気だった。(二回目)
「つまり君はティーベルの話が聞きたいがためにこんな準備をしたのか?」
「そうですよ」
「……そうか」
「なんですか、その目は!」
いくらティーベルのことが好きだからってここまでする?
「しますよ?」
「心を読むな」
何者だよ。
「ヒノワ王国でのティーベルお姉さまのご活躍を聞くなら人が多い方がいいでしょう?」
「ガチ勢すぎるだろ」
心底呆れているとティーベルが縮こまっているのが視界の隅に映る。
「やめてくださいませんか。恥ずかしすぎて死んでしまいそうですわ……」
そういえばご本人がいらっしゃるんだったわ。なんかすまん。