魔王教
「始めの授業はこの国と学校の歴史について学んでいきたいと思います」
次の日、俺たち四人はまとまって座っていた。これは学校からパーティは常に共にあるべしというかららしい。
「このクラスにはティーベル様がいるから彼女に話を聞きながら進めていきたいと思いまーす」
生徒に聴きながら進めるって、いいのかそれで…
「まずこの国の歴史ですが、初代国王は知っていますよね?ヨノーグスさん?」
「はい。『英雄騎士』アルス様の右腕にして最もアルス様に近しいお方であった、ダリューン・ランバルト様の子孫、レオハルト・ランバルト様です」
「っ!」
まさかランバルト王国のランバルトはダリューンの!?確かに同じ名だと思っていたが、まさかそこからきていたとは…
ダリューン・ランバルト。アルス・マグナの右腕にして、最強の剣士。剣の才能は他の追随を許さないほどだ。あいつほどの剣の実力者は見たことがない。魔術は不得意だったが、それを補ってなお余りあるものだ。俺が作った組織の中でもトップ2だった。あまりの強さに『千剣』だの『剣聖』だの呼ばれていたな。俺と比較されていた唯一の人間だった。
もうあいつに会うことはないと思うと少し悲しいな。
俺はちらりと隣に座るティーベルを見る。
それにしても、こいつがあのダリューンの子孫、か。感慨深いな。
「…?なんですか?」
「何でもない」
俺が見ていたのが不思議に思ったらしく、ティーベルが俺に聞いてくる。
「そうです。よく勉強されていますね」
この国の歴史は一通り学んだつもりでいたが、応用の重要な部分が抜けていたな。
「この国は豊かで飢饉も少なかったため非常に豊かな国です。そんなランバルト王国には象徴となるものがあります。そうですよね、ティーベル様?」
「えぇ。かの『英雄騎士』が愛用していた双剣の一振り、『聖剣』エクスカリバーですわ」
「なっ!」
「どうしたの、ガルくん?」
「いや何でもないよ」
俺は咄嗟に平然を装ったものの、内心ではすごく焦っていた。
なぜならあの剣を扱えたのは俺とダリューンだけだったはずだからだ。いやしかし、ダリューンの子孫なら有り得るか?いやでもそんなバカな!?
一人で考えても疑問が増すばかり。実際に見て見なければ分からない。
しかし王都に来てよかったかもしれない。まさかあの剣の所在がわかるとは。父上に感謝しなければな。
その後も話はどんどん進んでいく。そこからはだいたい俺も知っている通りの内容だった。
「やっと昼の時間か」
「お疲れ様」
「リリアは元気そうだな」
午前の授業も終わり昼休憩。俺とフィリアはお弁当を持ってるけど他の二人はどうするんだろう?
「私も弁当だから一緒に食べよ!」
「いいよ」
リリアも弁当か。まぁ使用人がいるから当然と言えば当然だな。そう考えるとティーベルも弁当だよな。
「わたくしも弁当なのでご一緒させていただきますわね」
「はい」
なんか有無を言わさぬ圧を感じた。
四人で弁当を広げながら喋る。
「ティーベルのご飯ってやっぱり美味しそうだよね」
「ひと口食べます?」
「ありがとう!」
目の前でリリアとティーベルがお弁当の交換をする。
「…リリアとティーベルって元から知り合いだったりする?」
「そうですわね」
「公爵家と王族だからね。何気に接する機会も多かったんだよ」
「なるほど」
通りで始めから名前呼びだったわけだ。
「ガル様のお弁当もフィリアが作ってるの?」
「いや。フィリアも学生だから家事は別の使用人にやってもらってるよ」
「へぇ。じゃあフィリアは普段何してるの?」
「いつもはガル様の身の回りのお世話などを…」
リリアは明るく話しかけてくれるが公爵令嬢ということもあってかまだ少し遠慮が見える。…いやこれが普通なのかもしれない。
「…俺って変?」
「うん」
「そうですわね」
「即答!?」
俺は地味に傷ついた。
「が、ガル様は普通です!立派ですよ!」
フィリアの心が暖かい。
「そういえば最近、魔王教の活動が活発になっていますの。気をつけてくださいな」
「魔王教?」
「ガルくん、知らないの?」
「う、うん」
「……まさか魔王教の存在を知らない方がいたなんて…」
「…すいません。私も知りません」
「いいでしょう。二人には説明しておきます。魔王教とは魔王アザトを祖とした邪教ですわ」
「「魔王アザト?」」
「世の中には魔物や魔族が存在するでしょ?その頂点にいる存在。魔王が魔物を生み出し、眷属が魔族とされてるの」
「ちょっと待ってください!魔王が魔物を生み出す!?そもそも魔族とは!?」
フィリアが待ったをかける。
そういえば無演唱魔術を使ったフィリアに対して魔族ではないかという疑念が上がっていたな。
「そんなことも知らなかったの!?」
「こんな方がいたなんて信じられませんわ…」
「なんかごめんなさい」
とは言っても俺たちのいたタルミールは田舎であまり情報が入ってこない。入ってくるのは商品ぐらいだ。
「まぁいいですわ。魔族とは人間と敵対する存在です。人間とは比べられないほどの魔力量を持ち、その肉体は鉄より硬いですわ。一体を討伐するのに国を挙げて動く必要があります」
「それはまた、すごい存在で…」
そんなやつ前世には居なかったぞ。というかそれがゴロゴロいるってこの世界末期だろ。
「魔族は人間を襲って残虐の限りを尽くすとも言われているの。見かけたら即座に逃げないと。いくらガルくんが強くても魔族を相手にするのはダメ」
「そういうことですの。魔物はさすがに知っていますわよね?」
「それはもちろん」
フィリアが倒したことあるしな。
「ならいいですわ。でもはっきりとしたことが分かってないんですの」
「そうなの?」
「魔物は死体が残るのだけれど魔族は死体が残らないから研究ができないのですわ。それに魔王がいるって言われてますけど実際に会った人はいないのですわ」
「誰も、ですか?」
「えぇ。国が認めた勇者も無惨な死体で転がっていたことがあると聞いたことがありますわ。何回も挑戦していたようですが、あまりにも成果がなさすぎて諦めたんですの」
「なるほどねぇ。ちなみにどこにいるのかはわかるの?」
「恐らく、北の果てにあると思われますわ」
「北…」
それはかつて俺たちが活動していた地方だ。なんか引っかかるんだが、なんとも言えないな。
「でもそんなの捕まえないの?なんかヤバそうな集団だけど…」
「捕まらないのではなく捕まらないのよ。魔王教の教徒全員ありえないくらい強くて一般の衛兵じゃ相手にならないの。だからガルくんたちも怪我しないようにってことよ」
「わかった。忠告ありがとう。気をつけるよ」