帰郷
数日をかけて俺たちは大陸に帰ってきた。
「フィリア、大丈夫か?」
「も、問題は、ありません……」
フィリアはいつも通り船酔いでダウンしている。
「それでこのまま王都に帰りますの?」
「それもいいんだが、もしみんながよければ寄り道でもしていかない?」
王様から帰りはゆっくりしてもいいって言われてるしね。
「どこに行くつもりなのだ?」
「俺の実家」
「「「「行く!」」」」
ものすごい食いつきようにビビった。
エルミット男爵領、タルミール。王国の東側にある田舎の村だ。
基本的に治安が良く領主と領民たちの距離感も近い。平和な村だ。
「若様ー!どうしたのですかー?」
「視察だ!がんばっているか?」
「はい!」
エルミット男爵家次期当主、ウィルキンス・エルミット。現在18歳で当主になるための経験をしている。
この視察も当主となるうえで領地の状況を確認するのに必要だ。
そのウィルキンスの目に歩いてくる五人の人影が見えた。
「あれは……」
ウィルキンスは警戒を強める。変な輩であれば処理をしなければならない。
だんだんと近づいてきてよく見えるようになるとその人影が見覚えのあるものだった。
もっとよく目を凝らしてみるとその影の一つはウィルキンスの弟の物だった。
「ガル!?」
「兄上!久しぶりです!」
それは約一年ぶりの兄弟の再開だった。
俺は春以来の実家に来ていた。
「こちらをどうぞ」
「ありがとうございますわ」
ティーベルに紅茶のカップを出したメイドは緊張でガチガチになっている。まぁ男爵家で働いていたら急に王女様が来たんだもん。気持ちはわかるよ。
基本エルミット家のメイドはマキシア家以外は領民から雇っている。つまり一般の田舎民なのだ。王女なんて存在なんて空想上だろうな。まして皇女なんてなおさらだ。
「寄るなら先に言ってくれればよかったのに」
「急に決めたんだから許してよ」
母の言葉を軽く受け流す。
「初めまして。お初目にかかります、お義父様、お義母様、お義兄様にお義姉様」
「あらあら、お義母様だなんて」
ちゃっかりポイントを稼いでいくリリアである。
「ズルいぞリリア!」
リーゼが急に立ち上がる。
「落ち着いてください」
フィリアはリーゼの後ろに立ってリーゼを強制的に座らせる。
フィリアは屋敷に帰ってきてからメイド服に着替えて給仕している。
「あのフィリアが自分の意見を言えるようになったなんて……」
「父上は誰目線なんですか……」
「親目線だが?」
父親じゃないじゃん。まあ俺とフィリアは兄妹同然のように育ってきたからわかるけども。
「で、姉上はどうして何も言わないんだ?」
「ひゃい!……い、今のなし!」
ナタリアは緊張しているのかガチガチに固まっている。
「し、仕方ないじゃない!私、家族以外に貴族なんて知らないんだもん!」
開き直った!?
「気にしなくてもいいですわよ。将来的には義姉になるのですから」
「はぅ……」
ティーベルの可憐な笑顔に完全にノックダウンしてしまった。案外チョロい姉だ。
「いつもフィリアがお世話になっております」
突然現れたと思ったらコルンは華麗な身のこなしでお菓子をテーブルに並べる。
「……これは?」
リーゼが出されたお菓子をスプーンでツンツンと突く。そのお菓子はプルンプルンと揺れる。
「巷で有名なプリンという物です」
「聞いたことあります。なんでもとても美味だそうで気になっていたんです」
リリアは物珍しそうに、しかし好奇心でうずうずしている。
「美味しそうです……」
つぶやきが聞こえた方向をチラッと見るとフィリアがすごい勢いで顔をそむけた。わかりやすすぎ。
「フィリア、こっちに来て」
俺が呼ぶとフィリアは気まずそうにしながら近づいてくる。
「口開けて」
「え?」
「いいから」
「は、はい?」
フィリアは疑問を持ちながらも口を開けてくれる。従順なのはいいことだ。
俺はフィリアの口にスプーンですくったプリンを流し込む。
「あむ……美味しいです!」
フィリアは驚いていたもののプリンのおいしさに顔をほころばせる。
「ず、ズルい!私にも!」
リリアが手を上げて主張する。
「リリアは自分の分あるだろ」
「そうだけどそうじゃない!」
「えぇ……」
じゃあなんだよ。
「わたくしもよろしいですか?」
「わ、私も……」
ティーベルとリーゼも恐る恐る手を上げる。
「何が?どういうこと?」
俺はわけがわからずに首をかしげる。
「……これ、本当にあのガルなのか?」
「そ、そうねぇ……」
「ガルってこんなに鈍感だったっけ?」
「ちょっと私も戦慄するわ……」
「……………」
五人の光景に戦々恐々とするエルミット家のメンバーであった。