表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄騎士の最強魔道  作者: バニラ
ヒノワ王国編
123/176

誕生会

「ツバキ、そしてリーゼロッテ殿の誕生日を祝して乾杯!」

「「「「乾杯!」」」」

 お偉いさんが多くみられる。やっぱ覇王の娘として誕生会も公式になるんだな。

 それにしてもヒノワ王国では基本的に宴は座って行うものらしい。

 主役のツバキとリーゼを上座に座らせて他の者たちは下座で縦に座っている。

「この度はお誕生日おめでとうございます、ツバキ様、リーゼロッテ殿」

「ありがとう、ササハラ殿」

「えっと、ありがとう?」

 ツバキは慣れたように捌いているがリーゼはたどたどしい。

「もっと気を楽にしてもいいんですよ」

「すまない。戦いばかりしてきたからこのような場は慣れないのだ」

 リーゼはあいまいに笑う。

「あの、剣姫様!」

「む。どうした?」

 一人の少年がリーゼに声をかける。その少年はとある大名の跡取りらしい。

「剣姫様の剣はとても美しかったです。どうか、僕を弟子にしてください!」

 少年は床に頭を擦りつけるように頭を下げる。

「断る」

 その少年の必死の願いをリーゼは一刀両断する。

「そんな……」

「そもそも私は明日大陸に帰るんだ。無理だ」

「ならば僕がついて行きます!」

「いや君は貴族、じゃなくて大名の跡取りなのだろう?そんな気軽に国を出れないだろう」

「ですが!」

「やめなさい」

 少年の父が止めに入る。

「リーゼロッテ殿に迷惑だろう」

「……はい」

 父親に咎められて少年は渋々といった感じで引き下がる。

 その後もリーゼに弟子入りをせがむ少年が後を絶たなかったがリーゼは何かと理由をつけて断っていた。

「大人気ですね」

「別に望んでいるわけではないんだけどな」

 俺としてもリーゼに変な虫が寄り付かないから安心だ。




 一次会が終わり二次会は仲の良い者たちだけを集めた簡素なものだ。

 料理も一次会ほど豪華ではない。それでもみな和気あいあいとしている。

 正直この雰囲気をぶち壊したくないんだが、今日はヒノワ王国での最終日だ。さすがに言わなければならないだろう。

「ツバキ、悪いが少し話をしよう」

「では場を変えましょうか?」

「この場でいいだろう」

 みなに聞いてほしいこともあるしな。

「リヴァイアサン討伐の報酬の件だ」

 俺がこの話題を出した瞬間空気が少しピリついた。

「ガーリング、どういうことだ?報酬って何の話だよ?」

 イットは俺に詰め寄ってくる。

「俺たちがこの国に来たのはリヴァイアサン討伐のためだ。しかしそれを無報酬でうけるわけがないだろう」

「はあ!?じゃあ報酬ってなんだよ?」

「ツバキのすべてだ」

「な!」

 イットは電流が走ったような衝撃的な表情をする。

「正確にはツバキにできることは何でも、だがな」

「その通りよ、イッくん」

 そこでツバキが話に入ってくる。

「うちは覚悟ができています。妻にでも奴隷にでも好きにしてください」

「ダメだ!一国の姫がそんなこと!覇王様も何か言ってください!」

 話を振られたマサムネはハクト、ヨシトモとともに酒を飲んでいた。

「ツバキはヒノワ王国の姫としてそのような発言をしたのだろう?」

「はい」

「ならばその責任を全うせよ」

 それだけ言うとまた酒をあおった。

 どうやらマサムネはツバキを庇う気がないようだ。

「ま、待ってくれ!」

「なんだ、イット?」

「ツバキ様に変なことを頼まないよな?」

「変なことってなんだよ。いいからお前は入ってくるな」

 俺はイットをあしらうとツバキに向き合う。

「ツバキ、俺のものになれ」

「はい」

 ツバキは淀みなく答える。

「ふざけるな!」

 それにイットが怒りをあらわにする。

「どうしてツバキ様を欲しがる!?お前には婚約者がいるだろ!」

「それで?別に婚約者でなくとも戦力になる」

「それなら俺を連れていけばいい!俺がツバキの代わりになる!」

「ダメです!イッくんには手を出さないで!」

「いや男は要らないし」

 つい本音が。

「大体これは俺とツバキの契約だ。それをお前が邪魔する権利はあるのか?」

「権利、だと……」

「ツバキの婚約者でないやつが喚いてもどうにもならないんだよ」

「ぐっ……」

 イットからは汗がしたたり落ちる。その汗は冷や汗だろうか。

「ガル様、さすがに……」

「そうですわよ……」

 婚約者たちにも咎められる。

「いいから。ここは俺に任せて」

「……わかりましたわ」

 婚約者たちは手を引いてくれる。

「それで、まだ何かあるのか?」

「頼む……ツバちゃんを連れていかないでくれ……」

「お前は有事の際にツバキを守ることができるのか?」

「それは……」

「どの選択がツバキが幸せになるか考えろ」

 イットは拳を作る。

「…………」

「まぁどうしてもって言うなら俺と決闘だ。ツバキを俺から力ずくで奪って見ろよ」

「………いいだろう。やってやる」

 イットの目は友好的なものではなくギラギラとした射殺すようなものになっている。

「マサムネ殿。幻聖刀をイットに貸してあげてください」

「いいぞ」

 国の象徴が簡単に貸し出されているこの状況はいいのだろうか。




 場は変わって修練場。

「負けの条件はどちらかが降参と言うまでだ」

「わかった」

 俺たちは互いの得物を構える。

「さあ、来い」

「……やあああああああああああああああああ!」

 イットは俺に跳びかかってくる。

「やあ!はあ!」

 イットの一撃一撃は出会ったころより比べてはるかに早く重くなっている。

「強くなったな、イット!」

「おかげさまで、な!」

 イットは俺から距離を取る。

「『水球』」

「効くかよ!」

 イットは迫りくる『水球』をことごとく切り伏せる。

「『風刃』」

「その手には乗らねぇ!」

 イットは『風刃』を掻い潜り俺に刀を振り下ろす。

 ツバキはそんな俺たちの戦い、いやイットをハラハラとしながら見ている。

「どうして……どうしてお前はそうやって感情を無視できる!」

「……………」

「俺はお前のことを信頼していたのに……どうして!」

「自分の頭で考えろ」

「チッ!クソがああああああああ!」

 イットは乱雑に刀を連続で振り下ろす。視野が狭くなっている。

「少しは冷静になれ」

 俺はイットを吹き飛ばす。

「グア!」

 イットは強い衝撃を受けて肺の空気をすべて吐き出す。脳も揺さぶられて起き上がることもできていない。

「イッくん!」

「来るんじゃ、ねぇ」

「っ……」

 近づこうとしたツバキをイットが止める。

「俺はまだ、負けてない!」

「そうでなくてはな」

 俺はニヤリと笑う。

 そして俺は攻め込んでくるイットを何度も打ちのめす。

「イット様も男の子ですね」

 サキナはうふふと上品に笑う。

「どういう?」

 ツバキはサキナの言った意味が分からないというように首をかしげる。

「そのうちわかりますよ」

 ヨシツグもサキナに賛同する。

「でも……」

 ツバキは心配そうにイットを見つめる。

 ツバキの目には傷だらけで泥だらけの格好になってしまっているイットが映っている。

「でもこんなもの、一方的な暴力ではないですか……」

 ツバキは唇を強く噛む。

「イット、立て!もっと抗って見ろよ!」

「わかってんだよ!」

 イットは足を奮い立たせる。イットは限界が近いのか足が震えている。

「もう、やめて!」

 ツバキは外から叫ぶ。

「うちはガーリング様のものになることに異論はありません!だから、もうイッくんを傷つけないで!」

「ツバちゃん……」

 イットは呆然としている。

 それもそのはず。ツバキは涙を流しているのだから。

「もう傷つかないで。嫌だよ、私のせいでイッくんが痛い思いをするのは」

 ツバキが泣くことは予想外だったな。でも、悪いがその涙を利用させてもらおう。

「イット、ツバキを泣かせたのはお前だ」

「は!?なんでだよ!ガーリングが変なことを言わなければこんなことには―――」

「事実を捻じ曲げるな」

「っ!」

「この戦いはお前が俺とツバキの関係に余計な口を挟んだから仕方なくやってるんだ。お前が何も文句を言わなければ不要な争いも起きずツバキが涙することもなかったんだ」

「違う…違うんだ!」

 俺の言葉をイットは否定する。

「何が違うんだ?」

「俺は……俺はそんなの認めない!」

 こいつ、俺と出会ったばかりのころに退化してないか?

「もういいの……」

 ツバキがイットに抱き着く。

「うちは大丈夫だから。もうこんなことはやめて」

「でも、それじゃあツバキが……!」

 このやりとりを見ているとまじで悪役みたいで心が痛む。

「うちは幸せだよ。ガーリング様は絶対に良くしてくれるし――――」

「そういうことじゃない!」

 イットが急に大きな声を出したせいでツバキの肩がビクッと震える。

「大好きな人は自分が幸せにしたいんだよ!」

「………ふぇ?」

 イットの言葉にツバキはポカンと呆ける。しかしその言葉をしっかりと咀嚼していくうちに顔を赤くしていく。

 一方、イットも自分が発した言葉を後から理解したのか顔を赤くしていく。

 ………何この状況?殺伐とした決闘をしてたはずなのにいつの間にか甘酸っぱい雰囲気になってる。

「それって、本当……?」

「いやちが……わないけど」

「………そう、なんだね」

 ツバキはイットの耳元に口を近づける。そして

「うちも、だよ」

 そう囁いた。

「さて、わかったら早く降参して」

「なんでそうなるの!?そこは応援してくれるんじゃないの!?」

 ツバキはイットから離れる。

「言ったでしょ。傷ついてほしくないって」

「でも……」

「うちらには立場があるの。だからこうなることはわかってた。わがまま言ったらダメだよ」

「…………うん」

 イットはツバキの説得に渋々頷く。

「ガーリング、約束しよ」

「ものによるな」

「……ツバキ様を粗末に扱うのはだけはやめてくれ」

「そんなことか。もちろん約束する」

「そうか」

 イットは寂しそうに微笑む。

「降参だ。俺ではダメなようだからな」

「それじゃあ、これでツバキは俺のものだな」

 どこからの反対もない。

 これで俺がツバキをどうこうしてもいいわけだ。俺はこの権利が欲しかったんだ。

「それじゃあツバキに命じる」

 ツバキが緊張で生唾を飲みこむ。

「俺の庇護下に入り、イットと婚約してこの国の王妃になれ」

「「「「………は?」」」」

 俺とマサムネ以外の人全員が素っ頓狂な声を上げる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ