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英雄騎士の最強魔道  作者: バニラ
ヒノワ王国編
110/176

剣士の心

 俺たちは修練場に行く。

 修練場にはまだ訓練している者たちがいた。

「「覇王様だ!」」

「「マサムネ様!」」

 訓練していた者たちはいっせいに頭を下げる。

「これよりイットと大陸から来たリーゼロッテ殿との試合を行う!場を開けい!」

「「「「御意!」」」」

 訓練兵たちは急いで道具を片付け隅で跪く。

 すぐさま場が整えられる。

「二人は持ち場につくのだ。立会人はハクト、そなたがやれ」

「「「はっ!」」」

 三人は駆け足で移動する。

「初めから本気でいく」

「先ほどからのガル殿への無礼、改めてもらうぞ」

 二人は試合が始まる前からバチバチだ。

「ではこれよりイットとリーゼロッテ殿との試合を始める!両者、構え!」

 二人は自分の得物を構える。

「それが刀というものか。そんな細い刀身で大丈夫なのか?」

 刀を見た事ないリーゼは疑問を漏らす。

「うるさい!刀は切れ味がいいんだ!そんな剣なんか叩き切ってやる!」

 いやイットの刀は普通のやつなのに対してリーゼの剣は魔剣だ。叩き切れるわけないだろ。

「はじめ!」








 ハクトの声と同時にイットは走り出す。

 そこで俺はとあることに気付く。

「無詠唱魔術?」

 そう。イットの身体に身体強化魔術がかかっている。

 大陸では失われていたがこの地方は大陸との関わりがなかったから残っていたのかもしれない。これは大きな発見だ。

 だが―――

「粗いな」

 あまりにも身体強化魔術が粗すぎる。こんな雑な魔術ではどう頑張ってもリーゼには勝てない。

「やああああああああああああ!」

 イットが勢いよく踏み込んでくる。

「はあ!やあ!」

 リーゼはイットの攻撃を危なげなく防ぐ。

「なんで!なんで全部受けきられてるんだ!」

 そんなもの簡単だ。

 まずイットの身体強化魔術が粗い。あんな程度では始めから勝負にならない。

 次に剣の、いや刀の技術がない。フェイントも使わないまっすぐ過ぎる剣筋。余裕で読み切れてしまうしわかりやすい。

 最後に、経験の差がありすぎる。きっと実戦経験がないのだろう。だからこそ剣士特有の第六感が発達していない。剣士は実戦を積めば積むほど相手がどのように動くか、どこに攻撃が来るかを予想できる。リーゼは幼いころから魔物と戦い実戦経験がある。だがイットは初陣すらまだだ。

 こんなもの、始めから試合の結果なんて決まり切っている。

「「「「おぉ!」」」」

 周囲から歓声が沸く。

 ちょうどリーゼがイットの刀を弾き飛ばしたところだ。

「そこまで!この試合、リーゼロッテ殿の勝利!」

 ハクトの声が修練場に響く。

「何者なんだよ!どれだけ身体強化してるんだよ!」

「勘違いしているぞ」

「勘違いだと?」

「私は先程の決闘で身体強化魔術は使っていない。純粋な剣の腕で勝ったのだ」

「そんな……嘘だ!」

 リーゼは素の力だけイットを圧倒した。

 完膚なきまでに叩きのめされたのによくあそこまで吠えられるものだな。

「これが貴様が侮ったガル殿の力だ」

「クソ!なにがあいつの力だ!自分の苦手分野をお前に押し付けただけだろう!」

 イットは俺が剣が苦手だからリーゼに相手を頼んだと思ったのだろう。

「何を言っている?」

「は?」

「私は本気を出しても一度もガル殿に勝ったことがない」

「そ、そんな戯言誰が信じるか!」

 ま、そうなるよな。それをどうやって信じさせるか?

「なら私とガル殿が決闘すればいいのではないか?」

「……は?」

 え?俺とリーゼが戦うの?なんで?

「私とガル殿が戦いガル殿が勝てば文句もないだろう」

「確かにそうかもしれないが……」

「ふざけるな!どうせ手を抜くつもりだろ!」

 やっぱこいつの鼻っぱしをへし折ってやろうか。

「いいだろう。その勝負に乗った。で、本当の理由は?」

「ガル殿とは立ち合いの元、正式な決闘は一回しかやってないからな。新しい武器でリベンジマッチだ!」

 それが本来の目的か。まぁいいか。俺もリーゼの実力を正確に把握しておきたいしな。





「ではこれよりリーゼロッテ殿とガーリング殿との試合を始める!立ち合いはこのハクトが再び努めさせていただく!」

「今回は必ず一矢報いてみせる!」

「どこからでもかかってこい」

 二人して好戦的な笑みをうかべる。

「ティーベル……」

「えぇ、わかっていますわ」

 ティーベルは魔力障壁を周囲に展開する。

「これは?」

 ヨシトモはティーベルが魔力障壁を展開したことに疑問を持ったようだ。

「見ていればわかりますわ」

「いざとなれば私がカバーします」

 フィリアはこっそりと短剣の柄を握りしめる。それには誰も気づいていない。

「両者、構え!」

 俺たちは己の得物を構える。

「はじめ!」




「はああああああああああ!」

 リーゼは身体強化魔術を発動させ斬りかかってくる。

「はや!」

 イットは驚愕に目を見開く。

 さっきの試合とは比べ物にならない速さだ。

 ガキンとさっき試合では響かなかった剣がぶつかり合う音が響く。

「まだまだだろ?もっと速く、強く来い!」

「ああ!『一段解除ファーストオーバー』!」

 リーゼの動きがさらによくなる。

「『二段解除』!」

 リーゼの動きに合わせて剣のぶつかり合う音も大きくなる。

「『三段解除』!」

「くっ!」

 リーゼの剣を受けとめるのに腕が痺れる。本気ではないとはいえ俺の腕を痺れさせるとは。腕を数段上げたな。

 俺は身体強化魔術をさらに緻密に制御する。

「受けとめてみろ、リーゼ!」

 今度は俺から攻める。

「望むところ!」

 リーゼは俺の剣を受けとめるもかなりキツいみたいで腕がプルプルしてる。

 ここで追い打ちをかける。

「燃えろ、ヴィルヘイム!」

 ヴィルヘイムから炎が燃え盛る。

「くっ!」

 リーゼは慌てて飛びのく。

 俺はリーゼが飛びのいた場所めがけて走る。

「せい!」

 気合とともに剣を振りぬく。

 リーゼは着地した瞬間だったため強く踏ん張れずに弾かれてしまう。

「ぐっ!」

 リーゼは転がるもすぐさま受け身を取って剣を使って立ち上がる。

 俺は追撃の手を緩めない。

「フェニゲール!」

 俺の周りに無数の氷の礫が現出する。

 俺がフェニゲールを振りぬくと氷の礫は一斉にリーゼへ降り注ぐ。

「こんなもの!」

 リーゼは氷の礫をなんなく打ち払う。

 その早業にヒノワ王国の皆が唖然としている。

 リーゼが最後の氷の礫を打ち払った瞬間、俺はリーゼの懐へ入る。

「もらった!」

 俺は下から勢いよく剣を振り上げリーゼの剣を弾き飛ばす。

「また俺の勝ち、だな」

 俺は剣の切っ先をリーゼの喉元に近づけながら宣言する。

「そこまで!この試合、ガーリング殿の勝利!」

 ハクトの声が修練場に響く。

 俺は剣を鞘に収めティーベルは魔力障壁を解除する。

 しかし試合が終わったというのに足音一つ聞こえない。どうしたのだろう。

 周りを見渡すとその理由が分かった。

 皆、動かないのではなく動けないのだ。

 自分にとって信じられないものを見ると脳が固まってしまう。今回は俺とリーゼの試合が異次元過ぎたことが原因なのだろう。

 そんな中、一番早く復活したのはイットだった。

「う、嘘だ!こんなことあり得ない!」

 イットは結果を認めたくないのか喚き散らす。

「今の炎と氷はルール違反だ!」

「これはこの魔剣の権能です。剣の力を使って何が悪いのでしょうか?」

「な……こ、これは剣の試合だ!剣の能力を使うなんて卑怯だ!お前の反則負けだ!」

 イットは俺の語気に怯んだのか一瞬弱気になる。

「そういうなら先に剣の能力を使ったのはリーゼロッテですよ」

「何を言っている!彼女は剣の技能だけで戦っていたではないか!」

 イットは剣を鞘に収めているリーゼを指さしながら言う。

「私の魔剣の権能は限界突破。途中で私の動きがよくなったのは剣の能力を使ったからです」

「そんな……」

「ガル殿が反則負けならば先に私の負けだ。それ以前に貴様では素のガル殿の影さえ見えないだろう」

「ち、違う…そんなはずは……」

 イットは意気消沈していく。

「そ、そうだ!その剣だ!その剣を持っているからそんなに強いんだ!」

 こいつ、剣のせいにするだと?舐めているのか?

 さすがに苛立ちが募っていく。

「その剣さえなければお前は――――!」

「イット!」

 修練場に今まで聞いたことがないほどの声が響き渡る。大きすぎて反射的に耳を塞いでしまった。

 声の発信源はハクトだった。

「さっきから礼を失する言動や行動!お前は立場ある人間だというのにどういうことだ!」

「ち、父上?どうしたのですか?」

「どうしたではない!ガーリング殿やリーゼロッテ殿にも迷惑をかけ、リーゼロッテ殿には手も足も出ない!挙句の果てにガーリング殿の強さを剣のおかげだと戯言を申すとはさすがに見過ごせん!人の強さを剣のお陰と抜かすものは二流だ!剣の能力をあそこまで使いこなすには血のにじむ努力が必要だ!それに敬意を示すどころか侮辱するとは……剣士の風上にも置けん!」

「し、しかし俺は国でも優秀な方で……」

「剣の腕など関係ない!心が問題だと言っている!剣士は剣ではなく心が強くなくてはならん!それなのにお前というやつは……」

 ハクトはイットに近づくと思い切りイットをぶん殴る。

「「「「え?」」」」

 その場に居たほとんどの者が唖然とする中ハクトはイットを叱り続ける。

「お前は調子に乗り過ぎなのだ!もっと現実を見ろ!どうして相手を認めることをしない!いつもそうだ。人様に迷惑をかけてばかりでお前自身責任を持てない!もっと己を顧みろ!もしそれができないのなら謹慎処分にする!」

「な!それはあまりにも理不尽では!」

「理不尽はお前の方だ!ガーリング殿に謝れ!」

「うっ……」

 イットの顔がゆがむ。

 そんなに俺に謝るのが嫌かよ。

「も、申し訳なかった」

 ただこれ以上父親に逆らう気がないのか渋々といった感じで謝ってきた。こいつほんとにクソガキだな。

「オレからも謝罪しよう。すまなかった」

「別にいいですよ。誰が何と言おうと実力が変わることはないので」

 俺はイットを見るとバツが悪そうに顔をそらす。

「そしてこれは身勝手なお願いなのだが、ヒノワ王国の兵たちを特訓してくれないか?」

「……めんどうです」

 そもそも俺たちは魔物討伐に来たのにそんな面倒ごとを引き受けなきゃならんのだ。

「ガーリング殿の言うことはもっともだ。だがこれはヒノワ王国の問題。すべてをガーリング殿たちに任せるわけにはいかない」

「ですが出しゃばられても邪魔なだけです」

「だから足手まといにならないように訓練してほしい。ガーリング殿ならば可能だろう」

 このおっさん、体よく言ってヒノワ王国の強化しようとしてやがる。なんて強かな。

 そしてマサムネは何も言わない。これはヒノワ王国全体に影響を与えるからマサムネは介入してくると思っていたんだが。

 もしかしてこれもマサムネが一枚嚙んでいるのかもしれない。

「勝手に動かれても困りますし、一か月だけです。もしそれで認められなければ置いていきます。邪魔になるなら容赦なく排除します。それでいいですね」

「もちろん。ありがとう、ガーリング殿」

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