姫の幼馴染
「ここがヒノワ王国の王城です」
「これが王城……」
「王国や帝国の王城とはまったく違いますわね」
ヒノワ王国の王城を見てリーゼとティーベルは感嘆の息を吐く。
この構造は地域特有のものだからな。見慣れないものに触れるのはいいことだろう。
「フィリア、もう歩けるか?」
「な、なんとか………」
フィリアがそう言うので俺は背中からフィリアを降ろす。フィリアの顔色はまだ悪いがよくはなってきているから大丈夫だろう。
「光系統魔術が使えたらよかったんだけど」
リリアは申し訳なさそうに言う。
「光系統魔術はあくまで失った生命力の補点だからな。船酔いにはまったくとはいわないが効果がない。仕方ないさ」
フィリアには自力で頑張ってもらわなければならない。がんばれ、フィリア!
城に近づくと門番が俺たちの存在に気付く。そして―――
「姫様!」
ツバキがいることを確認すると慌てて駆け寄ってくる。
「ご無事で何よりです!」
「心配しましたぞ!」
門番たちは驚いていて俺たちのことを忘れているみたいだ。
「それでこの方たちなのですけど」
ツバキが俺たちの方を見るとようやくいたことを思い出したのか姿勢を正す。
「………大陸の人たちですかい」
門番たちは俺たちの格好を見て余所者だと気付いたのか目を細める。
「コラ!そんな顔しないの!この方たちはヒノワ王国を助けるために来てくださったんだから!」
「助けに来た?わざわざ俺たちを?」
「役に立つのか?」
疑問のこもった目で俺たちを睨んでくる。
信用されてないな。
「俺たちは国の依頼ではなく個人的な依頼でやってきた。よろしく頼む」
俺の差し出した手を一瞥すると無視するのはツバキの手前悪いと思っているのか渋々ながら握手をする。
「では早速中に入らせてください。皆にもうちが帰ってきたことを知らせてください」
「「はっ!」」
いい返事をすると一人は城の中に走り、もう一人は門の前で警備の続きをする。
「それではついて来てください」
俺たちはツバキの案内に従った。
城の中は広かったが外見と同じく内装も大陸とは変わったものだった。
「見たことないものや作りがたくさんですわね」
「なんここう、武人心をくすぐられるような」
ティーベルは周りをじろじろと見、リーゼは今にも動きたいように体を震わせる。
リーゼは平常運転だがティーベルは珍しいな。海を渡った外国ということで少しはしゃいでいるのかもしれない。
むしろここではしゃぎそうなリリアやフィリアは大人しい。
「リリア、何かあったのか?」
「何でもないよ。ただ……」
「ただ?」
「ただ私には合わないなって…」
「相性の問題かい!」
思わずツッコんでしまった。
「そんでフィリアは……何やってんの?」
何故かフィリアはミハルの真後ろにいた。
「もう少しこのままでいさせてください……」
「……船で晒した醜態に悶えているのでそっとしておいてください」
「ミハル!?どうしていうの!?」
「フィリアが悪いから我慢して」
いつの間にフィリアとミハルはタメ口の関係に?
「あら。ミハルはフィリアさんと仲良くなったのね。よかったじゃない」
ツバキも驚いているものの嬉しそうにしている。
そんな感じで話していたから周りのことを失念していた。
「ツバキ様!」
若い男性の声が響く。
その声の響いたときに周りを見ると修練場と思われるところだった。
「イッくん!」
どうやらツバキとはお互い知り合いのようでツバキは駆け出す。
「姫様、危ないですよ!」
「大丈夫ですよ」
ツバキはミハルの忠告に軽めの返事をする。
そしてそのまま男性のもとにダイブして男性はツバキを優しく抱きとめる。
「今は訓練中で汚いから離れてください。それとイッくんは禁句です」
「はーい。イッくんも昔みたいにツバちゃんでいいのに」
え?なに?もしかしてそういう相手なの?
「それで後ろの人たちは?明らかにこの国の人ではないようですが」
男性は敵意むき出しの目で睨んでくる。特に俺に対して。なんで?いやまあツバキが知らない男を連れてきたからだと思うけどさ。それでも殺意が鋭すぎない?
「この方たちはランバルト王国から救援として駆けつけてくださったガーリング様たちよ」
「ガーリング”様”、ですか」
「何言ってるの……そしてこちらは武王様の長男、イット・カグラです。私とは幼馴染です」
「ふんっ!お前らがいなくても俺らだけであの化け物を退治してやるよ」
「そんな事言わないの!…すいません。イッくんは気の強いところがあるので……」
「気にしなくてもいいよ。よろしく、イット殿」
「誰が握手なんか………ヒッ!」
イットの顔が青白くなった。何だと思い後ろを振り返ると笑みをうかべるティーベルがたたずんでいた。何が怖いって目がね……光が灯ってないんよ……しかも黒いオーラが漏れ出てる。
その笑みを向けられていない俺でさえ背筋がゾクリと冷えたのだ。向けられた本人の恐怖は言うまでもない。
「よ、よろしく、お願いします……」
大人しく俺と握手するに落ち着いた。
「これから父様に会うんだけど一緒に来る?」
「……そうですね。重要な会議もありそうですし着替えてすぐ行くとしましょう」
「うん!じゃあすぐ来てね、イッくん!」
「だからイッくんは禁句です!」
ツバキは素晴らしい笑顔をしていた。
イットと別れた後もツバキの案内に従って歩いていた。
「あのイットって人とツバキは婚約者なの?」
「違いますよ、リリアさん」
ツバキはリリアの問いかけに首を横に振る。
「私とイッくんは幼馴染、ただの腐れ縁です」
「それにしては距離が近かった気がするんだけど」
うんうんと俺たち大陸組はうなずく。
「姫様は覇王様の娘でしたから関わりを持てる同年代の相手がとても限られていました」
唐突にハルミの話が始まった。しかも内容がツバキの話。本人が目の前にいるんだけど!?
「その数少ない相手がイット様でした」
そのまま話を続けた!
「イット様は武王様のご子息ということで姫様との交流が許されていました。特にイット様は姫様の初めてのご友人でしたので、それはもう姫様が大変気に入りました。そして現在も変わらない、といった感じですね」
「わかりますわ」
「すごく共感できるぞ」
ティーベルとリーゼはすごく首を縦に振ってる。そんなもんなのか?
「わたくしの場合は殿方との接触すら最低限に制限されていましたわ」
「私は交流と言っても決闘しかやったことないがな。普通の交流というものをしたことがない」
「それは知らん」
てか人関係ないし。
「帝国の風潮は知っているだろう?私の周りは強い人ばかりが集められていた。それゆえに同年代の同性と接する機会の方が少なかったな」
「それでよく俺と婚約しようと思ったな!?いい男とかいなかったのか?」
「全員私より弱かったし……でも、それは婚約者相手に言うことなのか?」
リーゼはぷっくりと頬を膨らませて俺を睨む。
確かに失礼だったかもな。
「悪かったよ。まぁリーゼが俺を選んでくれて嬉しかったし、他の誰のものにもしたくないしな」
「なっ!?」
すると俺以外が全員立ち止まってしまった。
「どした、急に?」
振り返ると女性陣が固まっていた。
「…………」
婚約者組は唖然としていてヒノワ王国組は手を口に当て目を大きく見開いている。
リーゼはというと………
「な、なななな、なに、を………」
顔を真っ赤にさせ言葉を上手く発せていない。大丈夫か?何もおかしなことは言ってないよな?
「早く行こうぜ。早く話を済ませたいし」
「は、はひぃ………」
本当に大丈夫か?