救いを求める者②
場所は変わって応接の間に移動する。
「早速だが起こっている状況について教えてくれ」
「わかりました」
ツバキは姿勢を正す。
ちなみに俺の口調は好きにしてほしいとのことなので楽にしている。
「まずヒノワ王国の脅威となっているのが一体の魔物なのです」
「魔物?しかも一体だけ?」
リーゼは拍子抜けしたようにつぶやく。
「リーゼ、魔物だと甘く見てはいけませんわ。過去には魔物一体によって滅ぼされた国があるくらいですから」
「しかもその魔物を討伐するために大陸全土の国が力を合わせて多大な犠牲とともにようやく倒したって文献で読んだことあるわ」
リーゼの甘い考えをティーベルとリリアは容赦なくぶった切る。
「そもそもの質問なのですがヒノワ王国ってどんな場所なんですか?」
フィリアは手を上げて質問する。
「そうですね。ヒノワ王国の大きな特徴としては海に囲まれていて複数の島で形成されていることですね。そしてランバルト王国などの大陸との国とは交流を断絶していました」
そういえば前世のころもあそこにあった国は閉鎖的だったな。
「そんなヒノワ王国ですがわずか数十年前まで内戦が起こっていました」
「内戦!?」
なんかとんでもない単語が飛び出してきたな。
「はい。今では完全に鎮圧されているので平気です。その時の内戦でヒノワ王国を一つにまとめ上げたのが王族直系であるうちの父、マサムネです。父は覇王と名乗りヒノワ王国の全土を統治しました。その際に内戦で敵の大将を国の重鎮に付けたのです」
「それはまた大胆な人だな」
「そうだと思います。その方々はお二人います。まず一人が内政の補佐をする智王ヨシトモ・オグラ殿です。この方は政治、戦略といった頭脳を使うことが得意で民たちの統治にとても尽力されています。もう一人が軍事を補佐する武王ハクト・カグラ殿です。この方は軍略、武術に優れ幾度となく国を危機から救ってくださいました。そして現在はこの三名が力を合わせてヒノワ王国を治めています」
「その三人はこの状況にどうしているんだ?」
それだけの豪傑がいるならある程度何とかなりそうな感じだけど。
「それが………」
ツバキは言いにくそうに顔をそらす。しかし決心して口を開く。
「……討伐を諦め、ほとぼりが冷めるまで待つ。と決断しました」
「………それって実質放棄だよな?」
「その通りなのですが、うちらではどうすることもできないのです」
ツバキは心底悔しそうにつぶやく。
「一度だけ大規模な討伐隊が編成され魔物討伐へ出陣したんです。大将を武王の右腕とし、国の精鋭が五百、一般兵士が千人、船が五十隻という最早戦争と言っても過言ではないほどの戦力でした」
「そうですわね。魔物一体に対しては過剰戦力ですわ。その討伐隊はどうなったのですか?」
話の流れで言えば敗北したのだろうが、ツバキの言葉は耳を疑うものだった。
「全滅です。言葉通りの」
「………全滅?それだけの規模の討伐隊を?」
リリアは戦々恐々としながら確認する。リリアだけでなく他の者たちも例外なく顔をこわばらせている。
「間違いありません。離れたところで偵察していた数名が確認し、誰一人として戻ってきませんでしたから」
「そんな…………」
リリアは呆然と言葉を失う。
「………その魔物に対する知りうる限りの情報を教えてくれ」
「はい。まず始めにお伝えするべきことは魔術や弓矢などが通用しません」
「それどうやって倒せって言うの?」
「正確には生半可な攻撃は通用しない、ということです。その魔物の皮膚には鱗が存在し、その鱗は魔術や弓矢などを弾いてしまいます。鱗が弾かなければ攻撃が効きますが、かなりの威力でなければいけません」
「一切通用しないわけではないんだな。それだったら何とかなる」
火力の高い魔術をぶっ放すだけでいいんだから。
「あとその魔物の全体の大きさが把握できていませんが少なくとも10メートル以上はあると考えていいでしょう」
「結構でかいな」
「はい。ですので一撃一撃が必殺の攻撃となるのです。しかも水中に住んでいるため海に潜られれば手出しができません。さらにその魔物には必殺の技が存在します」
「必殺の技?」
それはちょっと気になるな。
「その魔物は海に巨大な渦を発生させます。その渦はすべてを呑みこみすべてを無に還すのです。偵察の方がそうおっしゃっていました。巨大な軍船数艦が一斉に海に呑みこまれた、と」
「それはすごい壮観だろうな」
「いや悪夢の間違いでしょ」
リリアに呆れられたようにペシッと叩かれる。
「うむ。まさに悪夢そのものじゃな。考えたくもない」
国王は頭に手をやり唸る。
「そうですね。さすがの俺もそこまでとは思わなかったよ。ガルでも厳しいんじゃないのか?」
ジークは心配そうに問いかける。
「問題ない」
前世ではもっとヤバめのやつとも戦った。それに俺は最強の『英雄騎士』だ。
「こんな程度、他愛ない」
「それは頼もしいな。それでツバキ嬢。その魔物の名前は何なのですか?」
「該当するものはなかったのでうちらヒノワ王国が名付けました。『世界の厄災』と」