救いを求める者①
英雄学校に王族の馬車が来る前、王城にはとある人物が訪れていた。
「それで、お主は何者だ?他国の要人だと聞いているが」
王城の謁見の間には現国王のウォレンと次期国王のジークロットと宰相のリューク、そしてランバルト王国では見られない服であるがかなりの上物であることは分かる服装をしている女性がいた。その女性は王国にはない黒髪黒目であり異色を放っていた。
「この度は謁見を許可していただきありがとうございます、国王陛下。うちはツバキ・ヒノワ。この王国の東にある島国ヒノワ王国の覇王の娘でございます」
「ヒノワ王国……あそこは他国との交流を一切絶っていたはずなのだが、そこの娘が何用じゃ?」
「お願いがございます!うちらの国を…ヒノワ王国を救うために力をお貸しください!」
ツバキという女性は頭を下げる。その一方でウォレンは目を細める。
「なぜ助ければならんのじゃ?」
「っ!」
「同盟国ならば話は別じゃ。助けることで我が国にも利益がある。だから助ける。だがヒノワ王国を助けたところで何の利益がある?」
「それは――――」
「何の犠牲もなく助けられるのであればヒノワ王国に恩が売れる。助けるのも吝かではない。だが少しでも危険があるのなら簡単に首を縦に振れるがそうでないなら無理じゃ。国民の命を懸けるに値しない」
「そんな………くっ」
ツバキは悔しそうに唇を噛み、握る拳に力が入る。
「……話だけでも聞かせてくれ。もしかしたらなんとかできるかもしれない」
「ジーク!」
「本当ですか!?」
ウォレンの叱責とツバキの希望に満ちた声が重なる。
「次期国王となるものが無責任なことを言うものではない!」
「ガルならばこの役目、適任かもしれません」
「どうしてそう思う?」
「まず彼はこの国に所属するとは明言していません。それどころかどこの国にも所属するつもりはないと公言しております。つまり彼はこの国の国民とは言い難いのです。陛下が国民の命を懸けるに値しないとおっしゃるならば国民でなければいいのですよ」
「そんなもの屁理屈に過ぎん」
「そんな屁理屈を一瞬で粉砕する理由がありますよ」
「はぁ…いったい何なのじゃ?」
「ガルなら国の危機程度で命を懸けるほど弱くないということですよ」
「で、俺が呼ばれたと」
なんともめんどくさいことに巻き込まれてしまったのか。頭痛がしてくる。
「確かにツバキ様には同情しますが今回は国王陛下が正しいですね。そこらへんはどうなのですか?」
俺が聞きたいのはランバルト王国の利益は何かだ。国からの命令ならば俺も動きやすくなるのだが。
「………申し上げございません。ヒノワ王国から差し出せるものは何もありません」
「………は?どういうことだ?」
これには俺だけでなく他の面々も顔をしかめる。
「何も差し出すものがないのに助けてください、ってのが通ると思ってるのか?その覇王ってやつは傲慢なのかバカなのか?」
「ち、違うんです!」
「何が違うんだよ。事実だろ?」
このツバキという女性が他国の要人であるが呆れて礼節を忘れてしまう。
「そ、その父は関係ないのです」
「いやそれは無理が――――」
「父には助けを求める必要はないと言われたので、この国に来たのはうちの独断で国の判断ではないのです」
「…………は?」
今度こそ言葉を失う。一国の姫が独断で国を抜け出して国を渡って助けを求めた?冗談だろ。そんなもん国が手を貸すわけないだろうに。
そもそもヒノワ王国の覇王は何を考えてるんだ。国の危機に助けを呼ばないなんて。前世のころの国も閉鎖的ではあったが国の危機には俺たちに助けを求めるくらいの判断はできていた。意味わからん。
「お願いします!私のものなら何でも差し上げます!結婚しろというなら結婚します!死ねと言われれば死にます!ですからどうか父を、国民を、国を救ってください!」
ツバキは勢いよく頭を下げる。それこそ地面に頭を擦りつけるくらいに。
その姿は見覚えがった。前世のころ、他者のために自分の身を削ってまで助けを求めた人たちに。
前世ではこういった人たちのために力を振るった。今世では国の危機以外では手を貸さないと決めていたが、ヒノワ王国はその状態に陥っている。なら手を貸すのは俺の義務だ。なのに俺はこの国の利益を考えてしまっていた。以前の国に属さないと公言していた俺がこんなことになっているとはな。もっと初心を取り戻さなければ。
「詳細を教えてくれ。場合によるが手を貸す」
「っ!本当ですか!?」
「あぁ。ただし手を貸すのはランバルト王国ではなく俺個人だ。いいな?」
「はい!助けていただけるなら何でも構いません!」
ツバキは歓喜の声を上げる。
「いいのか、ガル?」
ジークは確認するように尋ねる。
「いやお前が最初に言ったことだろ」
「そうだけど…本当にやってくれるとは思ってなかったから」
ジークは苦笑いする。
「ジークって俺が関わると後先考えなくなったよな」
「誉め言葉と受けっとっておくよ」
やれやれと俺は肩をすくめる。
「ガル様が行くならば私もお供します」
「まぁ当然の流れね」
「もちろん、わたくしもですわ」
「私だけ取り残されるのはごめんだ」
俺の婚約者たちも俺についてくる気満々だった。
「いいのか?これは国が関与しないから完全に俺個人の話なんだが?」
「だからこそです。私は国よりガル様優先ですから」
わぁお。フィリアったら王族の前でなんて発言を。
「まぁ今更行かないなんて言い出すわけないと思ってたけどさ」
今回もみんな一緒みたいだな。