新年も変わらない
春になり俺たちは無事全員進級した。俺たちというのはフィリア、ティーベル、リリア、リーゼロッテの五人だけでなくSクラス全員という意味だ。
ちなみにクラス替えはない。実力で分けられているため基本、メンバーが入れ替わることはない。例外として下のクラスから上がってくる者もいるが今回のSクラスにはいなかった。
「ガル、今日は学校来たんだな」
「当たり前だろ。今日こそ来ないとダメだろ。俺もこの学校所属なんだし」
そう。今日は始業式と新入生の入学式なのだ。
「そんなこと言って、最近休みがちだったんだけどね」
「う……ケルスト、やめてくれ……」
ケルストの言う通り、一年の最後の方は学校にあまり行けなかった。その理由は――
「それはお兄様せいですわ」
ティーベルの言ったようにジークが原因だ。
あの冬の事件の後、ジークは大変忙しくなってしまった。それも猫の手も借りたいほどに。そのため俺は個別でジークに呼ばれ、その手伝いとして意見を言う立場になった。
「私はあの人の近くにのこのこ寄ってほしくない」
しかしリリアには面白くないようで最近はよく不機嫌になっている。
「しかしあの方は次期国王だし何よりティーベルの兄だ。その頼みを無碍にすることはできないだろう」
「でも………」
リリアはしゅんと落ち込む。
魔族との遭遇がなかったことになりジークが俺を殺そうとした事実は無効になった。かといってリリアにとっては決してなかったことにはできないようで未だにジークに対して不信感を抱いているようだ。
「さあ、もう移動しましょう!入学式が始まっちゃいますよ!」
フィリアは空気を払拭するように元気な声を出してリリアの背を押した。
「春の風が心地いい季節に名門である英雄学校に入学できたことを誇りに思います。これから三年間この学び舎で―――――」
壇上では一人の少女が堂々とスピーチをしていた。
「あの子、すごいです。こんな大勢の前で緊張してないなんて……」
「あの子の場合は慣れかしら」
「ティーベルは彼女を知っているのか?」
「えぇ。ヒースロッテ・ヘルサル。今年度の首席ですわ」
「首席なのか……ん?ヘルサル、どこかで聞いたことあるな」
「……当然よ。ヘルサル公爵家の長女は第一王子の婚約者なんだから。嫌でも耳にするわよ」
リリアは嫌そうに顔をしかめる。どんだけ嫌なんだよ。
「というかリリアは知ってたんだ。すごいな」
「淑女として当然!」
リーゼの称賛にリリアは少し得意げになる。チョロいな。
「ヒースロッテはいい子ですわよ」
ティーベルはヒースロッテの援護をする。
「まあそうね。ヒースロッテには罪はないもの。変に彼女の評価を下げる必要もないわ」
「はぁ……リリア、一応わたくしのお兄様なのだけど。許してくれないかしら?」
「それはそうだけど……」
ティーベルの懇願にリリアは困った顔をする。
「まぁまぁ。リリアの言うこともわかる。無理強いはよくない」
「いいのよ、リーゼ。私だってわかっているもの。ジークロット様は悪くないって。でもまだ心の整理がついてないだけだから」
リリアはリーゼのフォローに首を振る。
「リリア……」
ティーベルは嬉しそうに微笑んだ。
「ティーベルお姉さま!」
入学式と始業式が終わり今日は下校となる。帰ろうとしていた時、ティーベルを呼ぶ聞きなれない声が聞こえた。
「ヒースロッテ!?」
先程代表のスピーチをしていたヒースロッテだった。
「お姉さまったら。いつもみたいにヒースって呼んでください」
「え、えぇ。そうですわね」
ヒースロッテの元気さにティーベルが気圧されている。
なんかあのシャルロッテ嬢の妹とは思えないな
「君がヒースロッテ嬢だね。俺はガーリング・エルミットだ。よろしく」
「あなたが国の英雄、ガーリング騎士爵様でしたか。お見苦しいところをお見せしました」
ヒースロッテは佇まいを直すとスカートの端をわずかにつまんで頭を下げる。
「始めまして、ガーリング卿。私はヘルサル公爵家次女、ヒースロッテ・ヘルサルと申します。以後お見知りおきを」
「お、おぉ…」
さっきとは真逆の対応に言葉を失ってしまう。
ここだけ見ればシャルロッテ嬢の面影はある。
「それにその婚約者であるリーゼロッテ様、リリア嬢、フィリアさんも」
「「「おぉ………」」」
三人も目を大きく開いている。
「……どうしました?」
ヒースロッテは首をかしげる。
「「「「な、何でもない(です)……」」」」
「それでヒースはどうしてここに?」
「それはお姉さまに挨拶するためです!」
ティーベルの問いかけにヒースロッテは元気よく答える。
「ヒースロッテ殿に質問してもいいか?」
「何でしょうか?」
「どうしてティーベルをお姉さまと呼んでいるのだ?」
リーゼはヒースロッテに質問する。
「シャル姉さんはジークロット様の婚約者です。そのジークロット様の妹はティーベルお姉さま。つまり、間接的に私はティーベルお姉さまの妹ということです!」
「うむ…………わからん!」
だろうな。俺もわけわからんし。
「ガーリングさん!」
突然俺の呼ぶ声がした。
「システィア?どうしたんだ?」
システィアが単独で俺に話しかけてくるなんて珍しいな。
「校門の前に王族の馬車が止まってたんだけど何か知らない?」
「え?もしかしてまた呼び出し?」
「新年早々、人使いが荒いわね」
「め、面目ありませんわ…」
「ティーベルが謝ることでもないと思うが」
「こういったことはよくあるんですか?」
「もちろん。ところで、この子って確か新入生代表の…」
「ヒースロッテ・ヘルサルと申します。よろしくお願いしますね、システィア・ミューストン嬢」
「えぇ、よろしくね……私の名前なんで知ってるの?」
「なぜって、同世代の有力貴族の子息令嬢は記憶しているようにしているだけですよ?」
「何それ怖いんだけど?」
「ふふふ」
今の話聞いた後だとその笑みに裏があるように感じてしまう。そんなことないと思いたいが。
「とにかくまた王城行くのか」
「最近はお屋敷にいるより王城にいる時間の方が長いですからね」
「王族のやつらは俺のことを便利屋扱いしてないか?」
俺、国に属さないって言ってたはずなのに今はほぼランバルト王国所属の行動してるんだよな。まぁ魔族対策って言う異常事態だから仕方ないと言えば仕方ないが。
「迷惑かけますわね」
「気にするな。俺もこの国を守りたいんだから」
「ありがとうございますわ」
「では行ってらっしゃいませ!」
俺とティーベルとの会話を遮断するようにヒースロッテは間に入ってくる。
「そ、そうだな。みんな行くか」