新たなる脅威
とある海で多くの漁師たちが漁船に乗って漁をしていた。しかしその服装はランバルト王国では見かけないものばかりだった。
「今回も大漁だぞ!」
「一斉に引き上げるぞ!」
「「「「そーれ!」」」」
漁師たちが引き上げた網には多くの魚が掛かっていた。
「よっし!これでしばらくは安心だな!」
漁師たちの歓喜の声が木霊する。
「今日はこれで帰るぞ!」
リーダーと思しき男性が声を張り上げると船は右に旋回しようとする。
「ん?なんか海が暗くないか?」
乗員の一人が何かに気付いたように海を見る。
「確かに暗いな」
「空はこんなに晴れてるってのに」
「不思議なこともあるもんだな」
すると海の中で何かが光った。
「ま、まさか………」
その光に何かを感じ取った一人がおびえたように叫ぶ。
「この暗さの正体は生き物の影……巨大な生物だ!」
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
そして海の中から大きな咆哮とともに巨大な生き物が姿を現す。その大きさは何十人も乗せられる漁船を優に超えている。
「な、何の悪夢だって言うんだ………」
リーダーの男性が呆然と呟く。
「きゃ、キャプテン!」
「ハッ!た、ただちにこの場から離脱する!至急船を動かせ!」
乗員の叫びに我を取り戻したリーダーは指示を出す。
乗員たちはその指示に従いすぐに行動を開始する。
「船、動きます!」
そうして船は動きだす。しかし、少し遅かった。
巨大生物は渦を巻くように泳ぎだした。
「な、何をしている?」
その生き物の目的はすぐに分かった。
「ぐ……な、何が起こっている!」
「う、渦が……巨大な渦が発生して呑み込まれています!」
「なにぃ!?」
巨大生物の動きに沿って巨大な渦潮が発生したのだ。漁船はその渦潮に捕まり身動きが取れなくなってしまった。それどころか徐々に中央に引き寄せられていた。
「こ、このままではこの船は渦に呑み込まれて沈んでしまいます!」
「くっ……何か方法はないのか!」
そうしている間にも船は渦潮の中心に近づいている。
「…………もう、手はない………」
リーダーの男性は力なく項垂れる。
「そ、そんな……」
「まだ娘も生まれたばかりだっていうのに……」
「なんで俺たちがこんな目に……」
乗員たちももう自分が助からないと気付き力なく倒れこむ。
「せめて、この危機さえ伝えられれば良かったのだが……」
そうして一つの漁船は海の藻屑となりその乗組員たちは誰一人として残らず巨大生物の飯となってしまった。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
海には巨大生物の咆哮だけがとどろいた。