入学試験②
「実技試験は魔術、剣術の順に行う。魔術は五属性の的をそれぞれ用意してあるから好きなのに当てるように。複数でもいい。その分は加点する。剣術は魔術の使用は禁止。唯一、身体強化だけは使ってもいい。質問はあるか?」
「はい」
手を挙げたのはティーベル王女。
「なんでしょうか?」
「試験に使用する魔術に決まりはありますか?」
「特にはありません。お好きな魔法を使っていただいて構いません」
「わかりました。ありがとうございます」
「他に質問のある者はいるか?」
「「「「……………」」」」
「いないな。ではこれより試験を開始する。1番から始めろ」
そして魔術の試験が始まる。
「魔力よ、炎となりて敵を焼き尽くせ!『火球』」
「魔力よ、風となりて敵を切り刻め!『風刃』」
分かってはいたことだが無演唱で魔術を使うものはいない。それどころか初級魔術も威力が弱すぎる。詠唱魔術は詠唱するのに隙が生まれるだけでなく、魔力の変換効率も低くなるのか。これは思ったより酷いぞ。
「ガル様、私も詠唱した方がいいでしょうか?」
内心で愚痴っているとフィリアが聞いてきた。
「大丈夫だろ。むしろ思いっきりやってこい」
「わかりました」
「次!ティーベル・フォン・ランバルト!」
「はい!」
「あっ、次は王女様ですよ」
「そうだな」
一体どれほどのものか、お手並み拝見といこうか。
「ティーベル様だ。これはきっとすごいぞ」
「ちゃんと見とこうぜ」
他の人たちも王女に注目する。
「魔力よ、燃えよ爆ぜよ!我が炎は全ての敵を焼き尽くす!『豪炎』」
王女のかざした手から強い炎が渦となって的に向かっていく。炎は的に当たると的を燃やし、大爆発を引き起こした。
「すげぇ!あれがティーベル様の魔術!」
「惚れ惚れしてしまうわ!」
周囲が色めきたつ。きっと周りの人は今のがとんでもないものに見えたのだろう。しかし俺にはとてもしょぼく見えた。
「すごい。すでに中級魔術まで取得しているなんて…」
「当然ですわ」
「それではお疲れ様でした」
王女様はそのまま観衆の中に混じっていった。
「すごいですね、ガル様。私もあのような魔術が使えるようになるでしょうか?」
「威力だけなら同等の魔術はもう打てるよ」
周囲の興奮が冷めない中、フィリアの番が回ってきた。
「おいおい、次はあの従者かよ」
「どんな恥を晒すのか楽しみだな」
あいつら、言いたい放題言いやがって…
「ではお願いします」
「はい!」
フィリアは手をかざすと自分の魔力を動かすのに集中する。やがて手の前には1つの火の玉が浮かぶ。
「お、おい…あいつ、詠唱してなくないか?」
「あぁ、何も聞こえないぞ」
「えい!」
フィリアは声とともに火の玉を打ち出す。それはまっすぐ的に当たって爆発を引き起こす。明らかに先程まで他のやつが使っていた初級魔術と威力が違う。なんなら王女様の使っていたものと同等の爆発が起きている。その後も全属性の初級魔術を無演唱で発動し、試験を終えた。
「ま、魔族なんじゃないか?」
「そ、そうだ!無詠唱で魔術を使えるなんてありえない!」
フィリアに魔族なのではないかという冤罪がきせられかける。そもそも魔族とはなんぞや?
「君、今のは?」
試験官がフィリアに事情を聞こうとする。
「無詠唱魔術ですけど…」
「君は、人間かい?」
「も、もちろんです!」
このままではダメだと思い止めに入ろうとする。しかしその前に誰かがこの場を鎮めた。
「彼女はれっきとした人間ですよ」
「…リリア様!?」
人混みから姿を見せたのは先日助けたリリア・バルマントだった。
「り、リリアさん!?どうしてそんなことを?」
試験官が驚きながら尋ねる。
「私は彼女に助けられたことがあります。彼女は私の友人です。魔族なんてとんでもないです」
「…リリアさんがそういうのであれば…」
試験管が大人しく引き下がる。バルマント公爵家が相手だからだろうか、少し弱腰だ。
「あいつ、リリア様と知り合いだったのかよ」
「あいつ誰の従者だよ」
あちこちからフィリアとリリアの話題が聞こえる。
「ガル様、ちゃんとできましたよ」
「よくがんばったな」
「はい!」
俺はフィリアの頭を撫でる。するとフィリアは嬉しそうに顔をほころばせる。
「お二人とも、私がいますけど…」
「リリア、さっきはありがとう」
「あ、ありがとうございます!」
俺はリリアに向き合うと素直に礼を言う。フィリアは深く頭を下げている。
「気にしなくてもいいよ。私がしたかったことだし。でももしこれで感謝してくれるなら貸し一つね」
リリアはそう言うと茶目っ気たっぷりにウィンクする。可愛いからそのウィンクが似合う。
「次は俺の番だな。行ってくる」
「がんばってください」
「ファイトー」
二人の声援を聞きながら的の前に立つ。
「あいつさっき、あの従者とリリア様と喋ってたけど何者なんだよ」
「どっちも可愛いから羨ましい」
なんか俺も注目されてるのかな?
俺はさっさと終わらせようと手をかざす。目の前に『火球』、『水球』、『石弾』、『風刃』、『雷撃』の五つが現れる。
「あ、あれは五属性全ての初級魔術!?」
「同時に!?しかも無詠唱!?」
「ガチで何者なんだよ!?」
俺はその野次馬の声を背に全ての魔術を的に当てた。
「すっごいね!何あれ!」
「さすがです!ガル様!」
戻ると目をキラキラさせたリリアとフィリアがいた。
「単なる初級魔術だよ」
「謙遜しなくてもいいよ!あれは画期的だよ!下手すれば世界の勢力図が変わるくらいの!」
「そうですよ!………そうなんですか!?」
「だろうな」
この時代で無演唱で魔術を発動するのは全ての計算を飛ばして答えが出るようなものだ。もしそれをどこか一つの国が手に入れれば文字通り、世界征服もできるだろう。だからこそ俺は一つの誓いを立てている。
「俺はどこの国にも属するつもりはないよ」
「……そうなの?」
「あぁ。俺がどこかの国に肩入れすれば世界のバランスが崩れるからな」
前世でも俺は国に属さず独立した組織て動いていた。それも全て世界のバランスを崩さないためだ。
「もしかしたらガル様だったら世界も征服できるかもしれませんね」
「やめてくれ、フィリア。そんなめんどうなことはしない」
そうして混乱を巻き起こした魔術試験は終わった。
続く剣術試験。ここでも何も起きないはずはなく…
「ティーベル様、お強い!」
「華麗だわ…」
王女様が剣を振るう姿は様になっていて試験官にも負けず劣らずの戦いをしていた。身体強化の使い方が上手い。しかし、身体強化の申し子には及ばない。
「フィリア・マキシア!始め!」
「ハッ!」
「「「「……………えっ?」」」」
試験官も、観客も、隣にいたリリアも呆然とした声を出す。
なぜなら勝負は一瞬にしてついたのだから。フィリアは始まった瞬間身体強化をして間合いに入り、剣を一閃。いくら大人の男性と言っても反応できない速度で剣を振るわれれば剣を握る手に力を十分には込められない。試験官の持っていた剣は宙を舞い、地面に突き刺さる。
「そ、そこまで!」
「……何あれ?」
「俺、見えなかったんだけど?」
硬直から開放されたものからざわつきが大きくなっていく。
「よくやったな」
「はい!」
戻ってきたフィリアを撫でる。
「い、今のは?」
ようやく動けるようになったリリアは必死に口を動かす。
「あぁ。フィリアは身体強化の魔術が1番得意なんだ」
「だ、だからって次元が違いすぎます!」
「おっ、次は俺の番か」
「もう、驚き疲れたわ…」
リリアが力なく言う。
俺は剣をとって立つ。
剣は試験用で同じ剣を使用している。その理由としては、家から業物を持ってきて試験官の剣を折ってしまうのを防ぐためだ。
「あいつってさっきの…」
「剣術の方はどうなんだろうな…」
最早俺も有名人だな。入学前なのに…
「始め!」
「やああああ!」
試験官が剣を振り上げながら迫る。フィリアと同じやり方ではつまらないだろう。
俺は身体強化の魔術を隅々まで掛ける。
「はあ!」
試験官が剣を思い切り振り下ろす。それに合わせて俺を剣を振るう。剣は拮抗する、と思いきや試験官の剣が綺麗に斬られた。
「「「「なっ!」」」」
俺は剣が試験官の首に当たりそうになったところで寸止めする。
「…判定を」
「あ、あぁ。そ、そこまで!」
俺はふぅと息を吐きながら元に戻る。
「すごいです!試験官の剣を切るなんて!」
「ガルくん、一体どうやったの?」
フィリアはなんの疑いもなく俺を褒めるのに対してリリアは疑問を呈する。
「試験で使われる剣は同等のもの。いくら腕が優れていると言っても一振であんなに綺麗に切るなんて…」
「特別なことはしてないよ」
「本当?」
「ほんとほんと。きっと限界が来てたんだよ」
そんなことはない。一般的に身体強化は自分の身体のみの強化だと思われがちだ。しかし本当は己を通すことで魔力を持つもの全てに掛けられるもの。だから俺もあの剣に宿っていたほんの僅かな魔力を強化したのだ。それにより試験官の剣を切るような剣になったのだ。
しかしこれは説明がめんどくさいからちゃんとした説明は今度にしよう。
これで入学試験は無事に終えたのだ。
試験の結果、俺は首席、フィリアは次席での合格となった。