第6話 二年後
――――新しい家で引きこもり生活を始めて、二年の時が流れた。
八歳だった僕も、今では十歳だ。まあ二年くらいじゃそこまで背も伸びてないけどね。
二年の間で僕はほとんど外に出ていない。
最初に決めていた通り、ずっと引きこもって好きな魔法の研究にどっぷりとはまっていた。
父上が聞いたら怒りそうな不健康な生活だけど、そのおかげで結構魔法については詳しくなったと思う。魔法の扱いについてもかなり上達したと思っている。
まあ披露する相手がいないから、どれくらい上手くなったかはわからないんだけどね。
ルナとアスタロトにはいつでも見てもらえるけど、二人はどんなに下手でも褒めてくれるからあてにならない。
「まあ僕なんてそこそこだよね……」
一生懸命頑張ってはいるけど、僕の魔法使いとしての力量はそんなに高くないと思う。
知識だけはそこそこあると思うけど、それだけだ。こんな引きこもりのダメダメ皇子が少し努力しただけで他の魔法使いに敵うはずがない。
凄い魔法使いになるなんて高望みはしない。思うままに魔法の研究が出来れば僕はそれで充分幸せだ。
「……あれ、素材が足りなくなっちゃった」
考え事をしながら作業をしていたせいで、素材のストックを全然考えていなかった。
今僕は複数の薬草を混ぜて回復薬を作っている。
しかもこれは普通の回復薬じゃない、経年劣化しない夢の回復薬なんだ。
どんなに効果の高い回復薬も、時間とともにその効果は落ちてしまう。完全に劣化した回復薬は、回復するどころかお腹を壊してしまうだろう。
地下に広がる迷宮、ダンジョンに潜る冒険者にとってそれは大きな問題になっているらしい。
もし劣化しない回復薬が作れたら、彼らの安全はかなり保証されると思う。だから僕は劣化しない回復薬を作ろうとしているんだ。
「こっちの薬品はあれで代用できるけど……クラル草は採ってこないと駄目そうだね」
僕の住むバレンシアの森には、クラル草という植物が自生している。
見た目は普通の草と変わりないけど、すり潰して飲むと回復効果がある。これは回復薬の素材に結構優秀なんだ。
「この前結構集めたはずだけど、ちょっと使いすぎたみたいだね」
今の時刻は深夜。寝てもいい頃合いだ。
だけど作業は今とてもいいところなんだ、頭も目も冴えきっている。この状態だといつもより集中できる、寝るのは惜しく感じた。
「ルナも寝てるだろうし……よし、今から採りに行こう」
僕はかけてあった黒い外套を羽織って、窓から外に出る。
空気がひんやりとしていて気持ちがいい。やっぱり外に出るなら昼間よりも夜だね。
「ルナが気がつく前に採取しないと」
僕は小走りで森の中を突き進む。
ほとんど家の中にいる僕だけど、二年も住んでので森の道はだいたい覚えた。
確かこっちの方角にしばらく進めばクラル草がたくさん生えていたはずだ。
「そろそろ着く……ん?」
突然気配のようなものを感じた僕は立ち止まる。
ここら辺に魔物は現れないはずだけど、一体なんの気配だろう。
気配は草むらの中から感じる。結構強めの気配を感じた僕は、魔法を放つ準備をする。
すると草むらがガサガサ! と動いて中から影が飛び出してくる。
「君! こんな夜中に何をしているんだ!」
「……へ?」
草むらの中から現れたのは、魔物じゃなくて人間だった。
軽鎧に身を包んだ、女性の剣士だ。騎士には見えないから、傭兵か冒険者かな?
髪は紫色で、凛としたとても綺麗な人だ。立ち振るまいからもこの人がとても強い人だというのが伺える。きっと有名な剣士さんなんだろうね。
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