第5話 魔法通信網《マジック・ネットワーク》
新しく僕の奴れ……もとい仲間になった大悪魔アスタロトさん。
彼女と僕の間には魔力的な繋がりができた。
そのおかげで普段は魔界で生活しているアスタロトさんを、いつでも召喚して呼び出せるようになった。
アスタロトさんは長い時を生きている大悪魔だ。当然魔法の知識も深い。呼び出せばいつでも魔法の知恵を借りることが出来たのは嬉しいことだ。
だけど……
「腐った魔力の臭いがしたと思ったらまた来ていたのですか。そのハレンチな服、ウィル様の教育によくないのでとっとと帰っていただけますか?」
僕の部屋に入ってきたメイドのルナが、アスタロトさんを見ながら言う。
その顔は明らかに不機嫌だ。
いつも家にいるルナに、当然ながらアスタロトさんのことはバレた。
経緯を説明して、納得はしてもらったんだけど、二人の仲は悪い。もうアスタロトさんが呼べるようになってから二週間経つのになあ。うーん、どうしてだろう。
「貴女こそメイドのくせにウィル君にベタベタと体をつけちゃってはしたない、獣の臭いがついてるからバレバレなのよ。どうせウィル君が寝てる時に体を擦り付けているんでしょう。ハレンチなメイドねえ」
「な……! そ、それは今関係ないでしょう!」
いや否定しないんだ。
ルナの思わぬ行動を聞いた僕の心境は複雑だ。まあ嫌われてないならいいけど……。
獣人の習性だと思って忘れよう。
「ね、ねえ二人とも喧嘩しないでよ。大切な二人が仲悪いのは悲しいよ」
そう頼み込むと、二人は「「う、ウィル君(様)がそういうなら……」」と喧嘩をやめてくれる。ふう、なんとかなって良かった。
「じゃあアスタロトさん、次の魔法の研究も手伝ってもらって良い?」
ルナが部屋を出ていったあと、僕はアスタロトさんに尋ねる。
「ええもちろん。次は何をするの?」
「ちょっと待っててね……」
僕は部屋の隅に置かれた水晶を触る。
すると水晶の上に四角系の表示領域が現れる。
そこにはいくつもの文字列や、図形が表示されていて、僕が水晶を操作すると画面が動いたり切り替わったりする。
アスタロトさんはそれを不思議そうに見る。
「それにしても人間の間でこんなものが普及しているなんて驚きね。えーっと、なんて名前だったかしら?」
「魔法通信網です」
僕たちの住むこの大陸の地中には『魔脈』と呼ばれる魔力の河がまるで血管のように至るところに通っている。
それらは全て繋がっていて、この大陸中にエネルギーを送っているんだ。
それを利用したのが『魔法通信網』だ。
異世界に存在するという、電力を利用した通信網を魔力で再現したもので、あらゆる情報を魔力信号に変えて大陸中に送ることが出来るのだ。
そのおかげで僕は部屋の中にいながら大陸中の最新情報を知ることが出来る。これがなかったら本でしか魔法のことを知ることが出来なかった。
ちなみにこの通信網を使えるのは魔法使いだけだから、魔法以外の情報は滅多に流れてこないんだけどね。僕は魔法の情報しかいらないので別にいいんだけど。
「確かに便利だけど……これってとても危険な使い方も出来るわよね? 情報は戦争の道具になるから」
「そうだね。でも大丈夫、ちゃんと対策はされてるから」
アスタロトさんの心配に僕はそう答える。
「この構造を作った時にその対策は入れてある。もしそんなことしようとしたら、その魔力の持ち主が二度と魔法通信網に接続出来ないようになってるんだ」
「なるほど、抜かりないわね。さすがウィル君、天才ね!」
アスタロトさんはそう言ってガバッと僕に抱きついてくる。
大きな胸がぐりぐりと顔に押し付けられ、息が苦しい。これが悪魔なりのコミュニケーション方法なのかな……?
「むぐ……ぷは! ちょっと! 息ができないよ!」
「ごめんなさい、つい……」
なんとか抜け出した僕は、それの操作を続ける。
あ、そうそう。この通信網を作ったのは、何を隠そう僕なんだ。
あれは六歳の時だったかな? 外に出たくないけど外の情報が欲しかった僕は、気合いでこの魔法通信網を作り上げて、その運用方法を書いた紙と水晶を魔法ギルドに送りつけた。
魔法使いは本能的に新しいものが大好きだ。
ギルドの魔法使いたちは僕が作った魔法通信網に興味を持ってくれたみたいで、あっというまに使用者は大陸中に広がった。
そのおかげで毎日のように新しい魔法の情報が魔法通信網に蓄積されていく。
僕は管理者権限であらゆる情報にアクセス出来るので、見放題なんだ。
「アスタロトさん。ここに書いてあることなんだけど……」
「これは多分このままじゃ成り立たないわね。でも違う方法なら……」
新しい仲間を得たことで、僕の引きこもりライフは更に充実していく。もっともっと勉強するぞ!
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