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第26話 黒い噂

「よく来たねウィル。座ってくつろいでくれ。今紅茶を淹れるから」


 ユリウス兄さんの私室に入った僕は、ふかふかの椅子にぼすっと体を預ける。

 すると兄さんは手慣れた手付きで紅茶を淹れてくれる。


 メイドであるルナは「わ、私がやります!」と言ったけど、兄さんは「大丈夫、これは私の趣味でもあるからね」とそれを断る。

 ユリウス兄さんは昔から驕らず、飾らない性格をしている。それが兄さんが国民に人気がある大きな理由だと思う。


 こんな部分がアレックスにも少しはあればいいんだけど……なんであんなになっちゃったんだろう。


「ちょうどいい茶葉が入ったところだったんだ。飲んでみてほしい」


 ユリウス兄さんは嬉しそうに言いながら、僕とルナの前にティーカップを置く。

 ほんのり湯気が昇るその紅茶からは、柑橘系のいい匂いがする。これは美味しそうだ。


「いただきます」


 ゆっくり口に含み、飲み干す。

 爽やかな香りが口と鼻の中に広がると同時に、体が内側からポカポカと温まっていく。さっきまではイライラしてたけど、少しマシになったかもしれない。


「……ウィルには申し訳ないことをしたね。せっかく久しぶりに帰ってきてくれたというのに、あんなことになってしまって」

「ユリウス兄さんは悪くないよ。全部アレックスが勝手にやったことだし」

「あんなんでもアレックスは私の弟だ。あんな風に育ってしまった責任は私にも……ある」


 兄さんは暗い表情を浮かべながら深刻そうに言う。

 弁明しておくけど兄さんは僕だけじゃなくて兄弟全員に優しい。アレックスにだって優しく接していた。だけどそれを素直に受け止められるかどうかは、受け取り手によっちゃうみたいだ。


「あまり自分で言うことじゃないけど、私たち兄弟は基本優秀だ。頭脳や武術、魔法など、みんなそれぞれの自分の『強み』を持っている。ただアレックスには……唯一それがなかった」


 兄さんの言う通り僕たち七人の兄弟は何かしらの才能を持っていることが多い。

 だけど確かにアレックスの得意なことと聞かれてもすぐには出て来ない。あえて言うなら悪口の才能かな? 人の気持ちを逆なでする才能ならたくさん持ってそうだ。


「アレックスは頭は回るし口も上手いけど、それも平均以上程度しかない。私としてはそんなこと気にする必要ないと思うんだけど、当事者からしたら持つもの側の傲慢な考えなんだろうね」


 イケメンで頭が良くて優しいユリウス兄さんは、僕からしたら完璧超人だ。

 アレックスもコンプレックスは持っていると思う。


 そんなアレックスがユリウス兄さんに突っかからないのは、自分との差があまりにも大きいからだと思う。負けても惨めに感じないほど、ユリウス兄さんは人が出来ているってことだ。


「最近は怪しい人と付き合っているという噂まである。ただでさえ帝都の治安が悪化傾向にあるのにあいつは何をしているんだか」


 僕は被害にあったことがないけど、帝都では最近暴行や窃盗事件が増えているらしい。

 前まではそんなことなかったのに、嫌だなあ。


「こんなことを言いたくないけど、気をつけてほしい。何かあったらすぐに相談してくれ、力になる」

「うん、分かったよ兄さん。ありがとう」


 その後少しだけお話して、僕は兄さんと別れた。

 父上とも無事に会ってお話することが出来た。父上からは城に戻ってきてほしいみたいなことを言われたけど、あの手この手でそれは回避できた。教え手として働いている実績があるのが大きかったね。


 こうして僕は無事にお城から出ることが出来たんだけど……少し胸がざわざわした。

 何も起きなければいいんだけど……。


◇ ◇ ◇


 ――――第二皇子アレックス自室。


 きらびやかなインテリアが置かれたその部屋は、荒れ果てていた。

 物は床に散乱し、中には壊れている者も多くある。


 まるで泥棒が入り部屋を荒らしたような惨状。しかしそれは部屋の主が自らやったことであった。


「くそっ! くそっ!」


 部屋の主アレックスは大きな声を出しながら、物に当たっていた。

 そうすることでしか胸の内に湧き上がる黒い感情を発散できなかった。


「……」


 彼のお付きの騎士であるリガルドは、それを黙って見守る。

 その表情は冷たく、つまらなそうであった。


「許さんぞウィルバート、絶対に……! こうなったらなりふり構ってられるか……!」


 アレックスはバッとリガルドの方を見る。


「この前知り合ったあいつらと接触したい。セッティングしろ」

「……よろしいのですか? あいつらも少し名が知られてきていますが」

「構わない、責任は俺が取る」


 深い憎しみをたたえた目で、アレックスは言う。

 するとリガルドは不敵な笑みを浮かべながら「かしこまりました」と返事をするのだった。

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