危険な出会い
運命的な出会いを果たした 二人を結ぶ赤い糸
その日は、なんの変哲もない日で。
言うなれば、ほんの少しだけ憂鬱な月曜日で。
だから、あんな運命の出会いをするなんて思っていなかった。
「あ、あの、コーヒーひとつ...」
俯きがちに注文する。
最近女子に人気のテイクアウトできるカフェ。
陰気で根暗な私には似合わないと思いながら行きたい、好きだと騒ぐ女子たちがあまりに眩しくて羨ましくてつい来てしまった。
でも後悔している。
やっぱり、来るんじゃなかった。
不釣り合いすぎて、憧れのオシャレなラテなんて頼めそうにない。
「かしこまりました」
聞こえてきたのは春の風みたいな優しい声。
眼鏡とマスクで隠された顔をあげて、声の主を伺いみる。
その人は明るい色の髪の毛が柔らかそうな、やっぱり春のような人だった。
「はい。クリームはサービスです」
彼はそっと、私の前にコーヒーの入ったカップを差し出した。
クリーム...?
私が頼んだのは何も入っていないブラックコーヒーのはずだ。
「え...?」
困惑を言葉に出来ずに彼を見上げる。
すると、目を糸のように細くしながら微笑む彼と目が合った。
それは眩しかった女子たちの笑顔よりも数倍眩しかった。
「ラテのとこ、見てたから」
彼は、私の視線の先にあるメニューを指さして言った。
バレていたという羞恥心と気遣ってくれたという嬉しさが混ざる。
でもやっぱり、嬉しくてたまらない。
「あ、ありがとうございます...」
陰気な声で告げる。
すると彼は、嬉しそうに微笑んだ。
私にそんな笑みをくれた人は初めてだった。
「喜んでいただけて良かったです」
その時、確信したの。
この出会いは運命だと。
2人は赤い糸で結ばれているのだと。
私たちが結ばれないなんてこの世への冒涜。
世界を正しく進めるためには2人が一緒になることが必須事項。
それならば、私は―。
昔から嫌いだった一重まぶた。
低い鼻。
厚ぼったい唇。
角張った輪郭。
全て変える。
メスを入れるなんて怖くない。
顔を隠していた長い髪の毛も切った。
あなたの知らない私。
待っていて、すぐに行くから。
あなたにふさわしい私になったから。
今すぐに赤い糸を結びに行くから。
鏡を見る。
そこには私の知らない私がいた。
2人の運命を繋ぐためになら。
私は口角をあげる。
ああ、今すぐにでも彼に会いたい。
私を見て、綺麗だと言って欲しい。
ほんの少しだけ憂鬱な月曜日。
私は彼と出会った。
それは2人の運命が繋ぎあった奇跡の出会い。
だから私は―。