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ロイヤルポストの守護者  作者: 神崎裕一
第二章 死者探しの旅
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第七話 田舎町クルティア


「――起きてください! チェスターさん!」


 相棒。その声で元軍人は目を覚まし、目の前で慌てる郵便配達員の姿を目撃した。


「どうしたんだい、アイリス」

「クルティアに着いたんです! 早く降りてください! 汽車が発車しちゃいます!」


 そう言われ、チェスターはすぐにバッグを持って客車を後にする。

 直後、甲高い音がチェスターの耳を叩いた。汽車の合図だ。ゆっくりと進む汽車を眺めつつ、彼は舞い降りた場所を見渡す。年季の入った田舎のホームだ。首都のように天井付きではなく、駅舎とホームのみの、小さな外への入り口。


「やっと着きましたね。長旅でした」


 隣のアイリスが明るい笑顔を浮かべた。その笑顔に静かに同意し、彼らはその場を後にする。 駅を出た二人がまず行ったのは馬車を捕まえること。馬車に乗り込むと、そこから街を見る。

 穏やかな街。そのものだ。雪が積もった歩道は多くの足音を残し、夕刻の街をガス灯が照らし始めている。レンガで作られたどこか埃っぽい小さな街。


「クルティアは初めて来たな。アイリスはここに来た事が?」

「いえ、私もないです。田舎町としては有名ですよね。ゆったりと過ごしたい方は、この町に引っ越すそうですよ。総人口は八〇〇人程度。有名な出身者としてアーリア空軍エースパイロットのダニエル・ロクソン中尉がいますね」


 隣に座るアイリスが手帳を片手にそう述べる。ちらりと見えた手帳の中身は多くのメモで埋め尽くされていた。彼女はこの街を事前に調べているようだ。努力家とはこの事か。


それから二〇分後、馬車は街の中央にある赤いレンガで作られた建物の前に停車した。


ロイヤルポスト・クルティア支部。そこに到着した一行は中に入り、受付の職員に事情を話す。話は既に通っているらしく、すぐに支部長室に案内され、初老の支部長と挨拶を交わした。


「お話は聞いております。わざわざアーリントンからありがとうございます」

「いえいえ。これも役目ですから」

「前任者の一件もございます。とにかく命を大事になさってください。成功を信じております」


 クルティア支部長とは、その会話を持って別れた。


 その後、一行は宿泊の場でもあるクルティア支部の地下へと案内された。


 地下には職員寮があり、滞在中はその職員寮を利用することと相成った。

 ただ、地下にある職員寮は『牢屋』と思わせる印象を持たせた。

 降りた地下の先が通路しかなく、その通路が狭く、明かりが頼りないからだ。


「地下にあるんだね。職員寮が」


 案内された場所について言うと、隣のアイリスが頷いた。


「支部によりますが、配達員の少ない地域だと地下を利用した職員寮があったりしますね。土地代や維持費が掛かりますから、地下に建てた方が安上がりです」


 最もな意見である。日々の経費はなるべく少ない方が経営としては正解と言える。


「ここを使用するのは、郵便配達員達かい?」

「大半がそうですね。ただ、使用するのは朝が苦手な配達員です。別に強制ではないですよ」

「そんなに朝が早いのかい?」

「早朝の四時にはみんな起きてますね。それに女の子は準備に時間がかかるものですよ」


 人差し指を立て、アイリスがそう述べる。ロイヤルポストの世界を知らないチェスターは、良い機会だと思い。長年の疑問をぶつけてみる事にした。


「なるほど。ところで、郵便配達員は何故、女性が多いんだい? 特に君達の年齢の子ばかり」

「ああ。それは伝統が少し関係していますね。元々、私達の年齢くらいの女の子が配達員を始めたのは、二〇〇年前に起きた戦争が関係しています。当時、国中の男性が駆り出されたせいで、色んな所で男手が足りなくなって。郵便物の配達が出来なくなったんです。そこで私達くらいの年齢の女の子が立ち上がって、手紙を始めとした郵便物を代わりに送るようになったんです。その頃からレターキャリアーと言えば若い女の子、という固定概念が生まれたそうです」


彼女の述べた背景に、チェスターは思う所を述べた。


「では、男性職員が少ないのはその概念が関係していると?」

「いえいえ。アーリア王国では一八歳まで教育課程があります。私くらいの年齢が郵送業務に就くのは、あまり良くない事なんです。きっと数年後には変わっていますよ」

「じゃあ、君は何故。こうしてレターキャリアーを?」


「大陸戦争で男性の数が減っていますから、その穴埋めです。アーリアは復興の最中ですから」


 アイリスが上げた答えに、チェスターは衝撃を受けた。思わぬパンチを受けた気分だ。


「そうか。ありがとう、腑に落ちたよ。にしても、いつの時代も戦争が関わる」


 そうぼやいた時、チェスターはある事にようやく気付いた。故に。


「……ところでアイリス。この寮を使うのは、まさか」

「ん、女性が多いと思いますよ。私が聞く限り、男の人が使うってのは聞いたことないです」


 さらりと。とんでもない事実が告げられた。戸惑う彼にさらなる現実が突きつけられる。


「こちらがバーキンス様のお部屋になります」


 そう。部屋に案内されてしまったのだ。元軍人は慌てて相棒にモラルを訴える。


「あ、あのアイリス。さすがに」

「それじゃあチェスターさん! 一時間後に三階に来てください!」


だけど。彼の訴えは届く事はなかった。若い郵便配達員と女性職員は寮のさらなる奥へと進み、暗闇に姿を消していく。その背を見た元兵士は首を横に振った。致し方ない。


 部屋に入り、荷物を部屋の中心に置く。次に行ったのは用意していた町の地図を取り出す事。


 夕食までの一時間。チェスターは地図を頭に叩き込む作業に没頭した。

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