スポットライトの明かりが差す
崖に追い詰められた兵士と逃亡者は、無数のスポットライトの餌食と相成った。
雨が。雨がよく降る夜だった。月明かりだけが頼りの先が見えない暗闇の世界。その背中を疾走していたのは訓練を積み重ねた熟練の兵士と一人の少女だ。少女の手を引き、暗闇の森を駆け抜け。後方より接近する敵からとにかく逃げ続けた。
しかし。逃亡劇はうまく行かなかった。進行方向を何度も封鎖された二人が追い詰められたのは崖の先。海の世界が広がる崖だった。その先端に迷い込んだ二人は一斉にライトを向けられ、兵士がとっさに彼女を抱きしめて敵に背を向けた。ライフル銃に備え付けられたライトが彼らを明るく照らす。
「バーキンス大尉! 貴官の努力には敬意を払おう! だがここまでだ!」
追撃者の指導者が声を荒げた。降伏を促す彼は叫ぶ。
「その子を渡し、降伏せよ! さすれば貴官の命までは奪わん!」
それが追跡者達の意思であった。されどそれは兵士にとっては死を意味する。
今、胸に抱くこの娘を守ると誓ったのだ。その為に犠牲になった人がいる。
「……もう、終わりです」
しかし。守るべき娘からは『諦め』の声が放たれてしまう。無理もない。何せ彼女は『国家』から命を狙われているのだ。彼女を殺せと何百。何万人という人間がいるのだ。
「――終わらせるものか」
だけど、護衛の兵士は決して諦めはしなかった。彼は少女の体を強く抱きしめると。
「私を信じてくれ、リリィ」
その言葉を残して、体の重心を前へと傾けた。崖から飛び降り、空気抵抗の感覚に晒された兵士は、この一手が守るべき人を守ることのできる一手と信じる。
そうして、チェスター・バーキンスの意識は海の中へと落ちていった。