表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロイヤルポストの守護者  作者: 神崎裕一
第一章 時代に取り残された元軍人
4/35

第四話 バーファイト

ダグラスと再会した日から、チェスターは酒に溺れるようになった。


行きつけの酒場である『レニーの酒場』に足を運び、朝から晩まで強い酒を煽り続ける。その荒れた姿は他の者を驚愕させるモノであり。酒場の主を始めとした多くの者が心配する程。

 あれから二日が経過したこの日も、チェスターは店主に無理を言って酒を煽っている。大陸戦争が終わっていない。その言葉が何度も反響しては、それを否定しようと酒を飲む。


「坊ちゃん、そんなに飲んではお体を悪くします」


グラスに酒を注ごうとすると、酒場の主であるレニー・ストラトスに止められた。

 長年側に居てくれるアパートの管理人でもある男に対してチェスターは赤い顔を見せる。


「いいんだ。とにかく飲みたい気分なんだから」

「ここの所、ずっとその様子ですね。グリント大佐と何があったんですか?」

「……なんでもないよ」


空いたグラスに新しい酒を入れ、そのまま一気に飲み干す。グラスをテーブルに叩きつけ。


「大陸戦争はもう終わったんだ。終わったはずなんだよ」


 気持ちを。譲れない事実を唱える。その姿にレニーが呆れ、掃除を開始したその時だ。


「こんにちはー!」


明るい声。それと同時に店のドアが開かれる音がした。その音に二人が来客者を見る。

 黒コートとキャスケット帽。白い肌と平均的な背丈。肩紐タイプのバッグを抱える少女。

 それが来客者の姿であり、正体。現れたのはロイヤルポストが誇る郵便配達員だった。


「こんにちはお嬢さん。うちのお店は夕方からですが、もしや手紙ですか?」


 郵便配達員の来訪に、レニーが対応に入る。すると少女ははにかんだ笑みを浮かべ。


「こんにちは。実は人を探しています。ここにチェスターさんはいますか?」


 アーリア陸軍にいた、チェスター・バーキンス大尉です。――と少女が目的を言う。

 チェスターは退散する事にした。水を飲んで席を立つ。しかしその行動が相手に知られ。

 間もなく、飛び込むような勢いで少女が接近し。チェスターの手を取った。


「あなたがチェスターさんですよね! 私はアイリス。アイリ・スターランドです!」


 気圧されるとはこの事。少女の勢いに元軍人は酔った眼を丸くする。しかし同時に把握する。

 この少女は、二日前にダグラスが差し出してきた書類に載っていた女の子。彼女の目的は。


「あなたにお願いがあってお伺いしました。どうかお話をさせて頂けませんか?」

「へえ、俺達も聞きたいな。レターキャリアーのお嬢さん」


その時だ。尖った声が。別方向からした。視線を向けると、店の入り口に殺気立った若者が。

 ある女性の手首を掴んだ若者達の姿があった。捕まれているのはローレッタ・レインズ。

 殴られたのか、顔に痣がある状態で、力を失ったように男達に支えられている。


「ロ、ローレッタさん!」


 アイリスが悲鳴を上げ、前に出ようとするので店主が代わりに前に出た。


「いったいなんの用ですか」

「ここに郵便配達員がいると聞いてな。ちょいとこいつらには恨みがある。こいつらはある嘘を吐いてやがるから、それをなんとかしようと思ってな。おいそこの小娘。この女にこれ以上痛い目に遭って欲しくないよな? なら、わかるよな?」


 リーダー格と思われる若者が脅す物言いをした。それを聞いた郵便配達の娘が前に出る。


「……待ちなさい」


 そんな彼女の肩を掴み、チェスターが代わりに前に出た。後頭部に手を添えながら。


「すまない、どうも私は酔っていてね。彼女は私の友人の連れに見えるんだが」

「なんだ、あんたこいつらの知り合いか?」

「そんなところだ。彼女を離してくれないか? 是非とも話し合いをしたい」

「お断りだバカ野郎ッ!」


 チェスターの物言いに腹が立ったらしい。男は拳銃を取り出すとその先端をローレッタの頭に突きつけた。若い女性が恐怖で息を飲む最中、男が激昂の叫びを放つ。


「一歩でも動いてみろッ! この娘を撃つッ!」


脅迫が放たれた。もはや彼らと話し合いはできない。

 目の前にいるのは自身の要求のためであれば一線を越える愚か者なのだ。


「バーキンス様! どうかアイリスを連れてお逃げください!」


 ローレッタが声を荒げた。だが、この行動は男達の感情に油を注いだ。

 苛立った男がローレッタの顔を殴り、彼女の顔に唾を飛ばしたのだ。


「黙ってろ! テメェらのやっていることはな、到底許されることじゃ――」


 しかし、男の言葉は切られた。何故か、それは男の顔にグラスが衝突。男が倒れたから。

 その事実に周囲の者共が驚く最中。――一人だけ冷静な男がいた。


「――すまない。久々なもので加減を忘れてしまった」


 その男は静かな声で謝罪をする。暴漢達が驚きのあまり体を固くしている間にローレッタの体を抱きかかえ。駆け寄ってきた店主に手渡す。


「レニー、彼女達を店の奥に。それと少し店が荒れるけど、いいかい?」

「構いません。レディに手を掛ける輩は徹底的に懲らしめてやりましょう。坊ちゃん」


 店主との意思疎通は完了した。レニーがローレッタとアイリスを店の奥へと誘導するのを見たチェスターは、カウンターにあるグラスに水を入れ。一気に飲み干す。


「――それで? 誰から来る?」


 戦いの火蓋は、その言葉を持って切られた。


 最初に前に出たのはナイフを持った若者。ナイフを片手に前に出た彼は、右腕を一気に突き出す。されどその一撃は避けられ、避けると同時に腕と掴まれた彼は羽交い絞めにされる。


 羽交い絞めされた若者はそのまま元軍人の肉の盾となる。二人目が助けようと前に出た。

 しかし元軍人は羽交い絞めにしていた若者を解放。彼の腹部を蹴とばして窮地に駆け付けた若者をドミノ倒しにする。しかし、それを三人目が許しはしない。


 後ろに回っていた彼は手に持つ傘を横振りに振った。しかしその一撃は元軍人に止められ、傘を掴まされてしまう。傘を奪った元軍人は慣れた様子で三人目の若者の腹部。首。頭に一撃を加える。


 そこからは乱闘だった。三人は一斉に元軍人にかかった。しかし、元軍人は傘。体術の類を見事に使いこなし。的確な攻撃を与え。一人、一人と若者が倒れていく。


 その時。元軍人は本能的にある事を悟り。一人の若者を拘束して盾にし、ある方向へ向ける。


「動くんじゃねえよッ!」


 すると。最初に倒したはずの若者が拳銃をこちらに向けていた。

 対し、元軍人は右腕を腰に回し、取り出した拳銃の銃砲身を若者の肩に乗せる。


「――ッ!」


 チェスターの動きが早かったのだろう。銃を向けられている事実に相手が目を大きくする。

 相手にとっては最悪な状況だ。敵は仲間を盾にしていて、精密射撃をしなければ倒せない。

 しかし撃った途端、相手は確実にこちらを倒せる。まさに最悪の状況と言える。


「どうする。仲間ごと撃つか? それとも私に撃たれて死ぬか?」


 チェスター・バーキンスは敵に対してそう問いかけた。状況は明白だ。

 襲撃者達はたった一人の男に負かされている。

 数で優勢だったが、相手に傷を付ける事が出来ず。逆にほぼ全員が倒れている始末だ。

 もはや勝ち目は。


「――ふ、ふざけんな。テメェなんかに負けて」


 若者がそう叫んで引き金を引きかけたその時、若者の顔面にビール瓶が衝突。

 若者は今度こそ意識を失った。いったい何が、とチェスターは後方を見る。


「――坊ちゃんに手を出すことは許しません!」


 すると、怒りを露わにした店主の姿がそこにあった。チェスターは拘束していた若者の首に衝撃を与え。全ての脅威を排除する。レニーが駆け寄り、心配した素振りを見せた。


「坊ちゃん! 怪我は!」

「ないさ。ありがとうレニー。助かった」

「いえ。坊ちゃんに怪我がなくてよかった。すぐに首都警察が来ますからね」


 店主はそう言うと、襲撃犯達に近づいて襟首を掴んだ。チェスターは彼らに同情した。

 レニーは優しいけれど、自分の大事にしている物を傷つけようとする輩には容赦しない。

 きっと彼らはこの後、レニーからの優しい優しい手ほどきを受けるに違いない。


「……すごい」


感動の声を聞いたのはその時だ。視線を店の奥に向けると、命を狙われた二人の姿がある。


「お怪我は? ミス・ローレッタ」


顔にガーゼを張られたローレッタにそう訪ねると、ダグラスの秘書は会釈をした。


「おかげさまで軽傷です。助かりました。さすが、あの戦争を終わらせただけはありますね」

「止めてください。あの戦争が終わったのは私の力じゃない。ヨーロッパに住む人々が願い、努力をしたからです。私の力じゃない」

「ですがバーキンス様。これでお分かりのはずです。あなたが付き添わなければ、アイリスは」

「その原因を作り出したのは、あなた方でしょう? 違いますか?」


 彼女が誘導をしてくるので、ハッキリとそう指摘する。

 返答はない。行われたのは視線を逸らすという行いのみ。


「それで? 今一度、話をして頂けるのですね? ミス・ローレッタ」


ため息交じりにそう訪ねると、ローレッタが顔を上げ、驚きに包んだ瞳を見せた。


「聞くのは野暮ですが――なぜ?」


 彼女の問いに、チェスターは小さな吐息をして。こう述べる。


「ミス・ローレッタ。あなたは自分の身よりこの子を案じた。あなただってまだお若い」


 私はね。そういう人を見捨てることができない性格なんだ。あなたの行動には、敬意を払う。

このシーンは映画「キングスマン」の序盤、バーファイトのイメージで当時書いてました。

あの時のコリン・ファースが凄くかっこいいんですよね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ