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ロイヤルポストの守護者  作者: 神崎裕一
第一章 時代に取り残された元軍人
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第三話 呼び出し

 悪夢。それを必ず見て目を覚ます。――それがチェスターの日常だった。


 目を覚ました彼に襲い掛かるのは、息苦しさだ。胸を強く抑え、荒い呼吸で周囲を見回す。


 見つけたのはテーブルの上に用意された水入りのコップ。すぐに手を伸ばして喉を潤し、呼吸を整える。そうして一息付いた辺りから彼の一日は始まる。汗でひっついたシャツを脱ぎ、シャワーを浴びようかとタオルを出そうとしたその時だ。


 ゴンゴンゴン。――という玄関のドアが叩かれる音がチェスターの足を止める。

 ドアを開け、その先にいたのは。スーツを着た若い娘の姿だった。


「チェスター・バーキンス元大尉でございますね?」


 確認を。若い娘はまず確認を取った。次に彼女は頭を垂れて見せ。


「ロイヤルポスト。アーリントン支部に勤めておりますローレッタ・レインズと申します。本日はお迎えに上がりました。ご用意の程をお願い致します」


 身分と名を名乗り、要件を述べた。しかし茶髪の女性の言っている意味が理解出来ず。


「迎えですって? 聞いていませんが」


 と、チェスターは訝しむ様子を見せた。するとローレッタは目を細め。


「数日前に手紙を送らせて頂きましたが、お読みになっていらっしゃらないのですか?」


 と。訪ねてくる。チェスターは頬を掻いて見せた。


「失礼。郵便物を読む習慣がないんだ。この通り、世捨て人に近いからね」

「ではお伝えします。あなたに仕事の依頼で参りました。あなたの元上官、ダグラス・グリント様があなた様にお話したい事があります。どうかご一緒して頂けないでしょうか?」

 


ダグラス・グリント。元アーリア陸軍西部方面軍参謀長であった陸軍大佐。


 その人物の名を聞き、チェスターはすぐに身支度を整え、ローレッタの手配した車に乗った。 王都の東にあるロイヤルポスト・アーリントン支部に向かう最中、チェスターは口を開く。


「にしても驚きました。まさか大佐がロイヤルポストで支部長をしているとは」


 そう心情を述べると、隣に座るローレッタが笑みを見せる。


「ご存じ無かったのですね。三年程前よりアーリントン支部長を務めております」

「そうだったのですね。ローレッタさんは大佐の」

「秘書を務めております。ダグラス様はよくご無理をなさるので、監視役が必要なのです」


 本当によく無理をなさるのです。――とローレッタが深々と頷いた。その様子にチェスターは小さく笑う。どうやら、元上官殿は相変わらず多くを背負い込む癖があるらしい。


「ローレッタさん。仕事の依頼と仰いましたね。どのような内容でしょうか」

「詳しくはダグラス様がお話します。ただ、あなた様であれば確実にこなせる仕事です」


 本題を訪ねようと一歩踏み込むが、サラリとかわされ。チェスターは前を見た。

 すぐにわかる事とはいえ、ダグラスが呼び出すという事は何か重大な話に違いない。


「……あまり悪い話じゃないと良いんだが」


 そう呟いた二〇分後。チェスターは目的地であるロイヤルポストに足を運び、二階にある支部長室まで案内される。支部長の前に到着すると、ローレッタがノックをしようとして。


「バーキンス様。一言だけ、よろしいでしょうか」


 何か言いたげに。ローレッタがそう口を開いた。彼女の行動に目を丸くすると、彼女は。 


「この依頼、引き受けて頂きたいのです。私は、あなた様を信頼しています。あなた様がこの依頼を受けて下されば、私は安心してあの子を送り出せるんです」


 と。何か含みのある事を言い出した。思わず眉をひそめ、言葉の意味を問おうとする。


「ローレッタさん、それはどういう」

「入ります。ダグラス様」


 だけど、答えを聞く前にローレッタがノックを行い、入室したのでチェスターも続いた。

 そして、その先で彼は見た。質素な部屋の中央で佇む男の姿を。かつての上官の姿を。


「――大尉。よく来てくれたな」


 歓迎の意。それを感じとったチェスターは思わず喜びを感じてしまう。

 だから彼は歓喜に近い声を上げ。かつての名称を。よく唱えた呼び方をする。


「大佐。お久しぶりです。お元気そうで何よりです」

「お前さんもな。相変わらず、景気が悪そうな顔をしていやがるな」


ははは、とダグラスが明るく笑った。

 椅子に座るよう促されたのでハット帽とコートを脱いでソファの上に乗せ、腰を据える。


「それで大佐。お話とはいったいどのような内容でしょうか?」


すぐ、本題を訪ねた。するとダグラスは秘書の用意したコーヒーを口に含み、一息した後。


「お前さんに話とは他でもない。郵便配達員の護衛任務を頼みたい」


 と。要件を述べ。その言葉を聞いたローレッタが用意していた書類をチェスターの前に出す。

その書類は護衛対象となっている少女の詳細が書かれていた。名前はアイリ・スターランド。

 このアーリントン支部で働く、郵便配達員の女の子のようだ。


「今回、うちの郵便配達員にクルティアに行ってもらう事になった。この娘にはある役割を果たしてもらう。その役目を果たすまで命を守るのが、お前さんに依頼したい内容だ」


 チェスターは提示してもらった資料を確認した。しばらく思考した後、元上官を見る。


「大佐。質問をしても?」

「ああ」

「護衛対象に怪しい経歴はありません。何故、彼女に護衛が必要なのですか? それにクルティアは田舎町で治安も良いと聞いています。アーリア王国は確かに地域によっては治安が悪く、街を歩くのも厳しい所もあります。しかしクルティアは違う。ましてや、配達員は愛される職です。特に少女達のレターキャリアーは先の戦争での活躍もあります」


 チェスターは疑問点を突いた。そうだ、納得がいかないのだ。この国家は手紙の国と言われ。国民は手紙によるコミュニケーションを習慣としている。その手紙を配達する少女達は国民からすれば愛らしい存在だ。それに何故、護衛が必要なのか。


「相変わらず鋭い所は鋭いな。だが、お前さんの常識は少し古い」


 ダグラスはそう述べ、用意していたであろう一つの書類を差し出してくる。


「アーリントン警察がまとめたリストだ。うちの職員のな」


低い声でそう言われ、チェスターは中身を拝見した。すぐに彼はこの書類の正体を知る。

 書類の中身は、ロイヤルポストで働く職員の死者もしくは重傷者のリストだったのだ。


 しかもただのリストではない。このリストは何者かの襲撃によって倒れた者のリストだ。


「――大佐。どういう事ですかこれは」


「お前さんが今、察した通りだ。この国ではもう、郵便配達員は安全な職とは言えん」

「何故です。アーリア王国の治安はヨーロッパ大陸に比べればかなり良い分類のはずです」


 価値観を大きく揺るがす事実。その事実を知りかけたチェスターは相手の知る常識を問う。

 数が。数がおかしいのだ。この一年あまりで三〇名の郵便配達員が死亡。もしくは重傷を負っている。職務に就けば何かしらの事件や事故に遭遇するのはわかる。だがこれは違う。

 このリストは、明らかに他者の意思によって襲撃を受けた少女達の――リスト。


「お前さんの言う通りだ。このアーリア王国の治安と民度はヨーロッパ大陸の他国家に比べれば高い位置にある。だが、昨今。ある職に就く郵便配達員が民衆から襲撃、もしくは暴行事件を受けるようになった。お前さんに見せたのは、この一年で倒れた娘達だ」


足を組み、ダグラスがそう述べる。そんな彼にチェスターは鋭い目を向けた。


「何をなさっているのですか、大佐」

「人助け、と言ったら信じるか?」


 ダグラスはそう言うと、大きなため息と共に背もたれに身を預け。こう語り出す。


「大陸戦争が終結した日の事だ。死んだはずの人間が姿を見せるようになった」


 その語り草に、チェスターは眉をひそめた。最後まで聞こうと元上官を睨む。


「連中の目的は家族の下に帰る事。ただそれだけだ。だが、ある事が原因でそいつらは家族の下に帰れないという事実が発覚した。そこで連中を手助け出来る存在が現れた」


 それがロイヤルポストの郵便配達員。ある年齢の郵便配達員をしている少女達。


「つまりだ。お前さんに頼みたいのは他でもない。大陸戦争で死んだ人間を手助けしている娘達の護衛だ。この一年で三〇人近い娘達が暴行や襲撃を受けている。小娘達の仕事を果たす為、身の安全を図るのがお前さんに依頼したい仕事というわけだ」


 それがダグラスの明かした仕事の内容と背景だった。だけど、チェスターは冷めた瞳をする。


「……そんな馬鹿な話を信じろと?」

「俺が嘘を言った事があるか? 大尉」


 いや、と元兵士は首を振る。確かにこの男が嘘を言う事はない。この男は常に真実を言う。

 しかし、先の戦争で死んだ人間達がいて、それらを手助けする為に郵便配達員が働いている。


「大尉。お前さんが必要だ。前の戦争の時のように、俺の右腕として活躍してくれないか?」

「お断りします」


 ダグラスの求めに、チェスターは即答に近い形で返答した。彼は首を振って答える。


「私に護衛任務など、不可能です。私が請け負った護衛任務はその殆どが失敗しています」

「それはわかっている。だがお前さんが失敗したのは」

「私はもう、あのような思いだけは二度としたくないのです」


 ハッキリと。チェスターはそう告げた。ダグラスが言葉を失う最中、畳みかけるように。


「申し訳ありません。信頼してくださるのは嬉しい限りですが、お受けできません」


失礼します。――そう告げ、チェスターは席を立ち。部屋を去ろうとする。

 するとローレッタが扉の前に立ち、失意に満ちた瞳を向けてきた。その彼女に向け。


「すまない。君の信用は嬉しいけれど、こればかりは譲れないよ」


 と告げ。退くように促す。彼女が折れて端に寄り、扉に手を掛けた時だ。 


「――大陸戦争は、まだ終わってねえぞ」


 かつての上官が、そのように発した。彼の言葉を耳にしたチェスターは元上官へと振り向く。

振り向いた先には、こちらを凝視する元上官の姿があった。


「終わってないんだよあの戦争は。チェスター、もう一度だけ俺に手を貸してくれ。この戦いに出向いているのは俺達大人じゃねえ。未来を歩くガキ共なんだ。俺はそいつらを守りたい」


 この通りだ。――とダグラスが頭を下げた。だが、それは元兵士を怒らせる要因となる。


「ふざけないでください! あの戦争はニーリの死によって終わった!」


 たった一人の女の子に全てをなすりつけて! そうして終わったんだ! と、元軍人が叫ぶ。

 肩で、息をした。声を荒げた元軍人は帽子を深くかぶり直し、静かに告げた。


「大佐。あの戦争は確かに終わったんです。まだ一四歳にも満たない女の子の命を奪って。その事実を否定するなんて私には出来ません。あなたの関わる事が重大な事なのはわかりました。ですが、私はもう。誰かを守るなんて嫌なんです。私には、誰も守れませんから」


チェスターはそう言うと、最後はせめてと精一杯の笑みを浮かべて見せる。


「お会い出来てよかった。今度は別の機会の時にお願いします、大佐」


 それが、四年ぶりに再会した元上官との会話だった。

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