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第8話 最終話 自由研究の発表

「うわー、綺麗な星。……やっと元の世界に帰ってきた」


 白銀のブラックホールをくぐり抜けると、ちゃんとあの鳩山に繋がっていた。

 真っ暗な山奥から見上げる夜空の星。ネオンが眩しい都会では、まずお目にかかれない光景だ。

 月は高く昇っており、夜空も幾万の星で燦々(さんさん)と輝いている。が、しかしそれでも僕たちの足元を照らすには心もとなかった。

 今現在、僕たちが唯一頼りにしているのは、銀髪の少女パールがくれたこの金の卵だけだ。

 この金色のモンスターエッグが、わずかばかりの月明かりに反応し、まるで提灯のような役割を果たしてくれている。


「この卵、ひょっとして純金で出来てるんじゃ……」


 月明かりに反射するその金色の卵の輝きを見て、僕は思わずそう思った。

 お父さんに買ってもらった子供辞典によると、純金は町の質屋という所に行けば、高値で買い取ってくれるらしい。

 下手にこれを自由研究にして、クラスで大賞を取るよりも、そっちの方がよっぽど金になるはずだ。

 

「下手にツチノコを孵化させて、クラスで大賞を取ったとしても、貰えるのはわずかQUOカード500円ぽっち。

 ……となれば僕が取るべき選択は」


 お金のことにしか目がない、ゲスい大人のようなことを考えていたその時だった。

 突然僕の手に持っていた金の卵が、ゆらゆらと揺れ始めたのだ。


「おい、ジロ吉! お前の卵、なんかピキッ、ピキッっていってんぞ!?」


 谷川の指摘通り、僕の手にその感触はしっかり伝わっていた。

 金色の卵の殻にはひびが入り、それらは少しずつ、マンションのひび割れのように広がった。そしてついに……。


「シャーッ! シャーッ!」


 卵の中から、あのずんぐりむっくりしたヘビみたいなやつが、産声をあげながら生まれてきたのである。

 見た目はまさにヘビそのもので、唯一違う点はと言うと、腹周りがふっくらと膨らんでいること。

 縦に細長いヘビをタッパーか何かに押入れ、無理矢理背を縮ませたような短小サイズのツチノコがここに誕生したのだ。


「おおおお! かわいい! これを自由研究にして、標本にすればQUOカード……」


 探し求めていたツチノコをゲットし、早速こいつを自由研究用の標本にしようと考えていたところ……。


「でもこのツチノコ、懐で温めて、やっとのことで生まれた命。それを標本にするなんて、かわいそすぎるよ。

 僕できない! 標本なんてごめんだ!」


 金の卵から生まれたツチノコを、みすみす殺して標本にするなんて真似、僕の良心が許さなかったのである。

 いくら自由研究のためとはいえ、自身の都合のためにツチノコ君の命を奪って標本にするなんて、何と愚かなことか。

 つるピカ先生が今日の道徳の授業で教えてくれた”慈愛の精神”が、激しく脳裏をよぎった。


「……決めた。僕こいつ飼うよ。

 確かに自由研究も大事だけど、それ以前に僕が毎年毎年、夏休みの宿題をギリギリまでやらなかったことが悪いんだ。

 僕はただ自由研究を完成させたいだけ。

 そんな僕の都合で、このツチノコ君の命を勝手に殺めて、標本にするなんて言語道断だよ。

 僕自身が撒いた種は、僕自身でちゃんと処理しないとね」


 僕はこのツチノコ君を標本にしないことを固く誓ったのである。


「じゃあどうすんだ、ジロ吉。自由研究の提出、明日までなのに……。

 そいつを標本にしないと、つるピカ先生から渾身の頭突きをもらっちまうぞ? それでもいいのか?」


「それは死んでも御免だけど、ひとまず明日、このツチノコ君を虫かごに入れて一緒に登校してみるよ。

 生きた標本としてなら、クラスのみんなの前で発表できると思うんだ。

 ……それで自由研究の提出が認められるかどうかはわからないけどね」


「……そっか。まあツチノコの生態調査の結果! と銘打てば、それだけでも十分自由研究のテーマになり得るだろ。

 よし、俺もその話に乗った!

 ジロ吉、お前のツチノコを俺にも利用させてくれ。

 今回のツチノコの自由研究、俺とジロ吉との共同作業という形にさせてくれねえか!?」


 そう言うと、谷川は僕に対して深々と頭を下げてきた。


「へっ? どういうことだよ、谷川。

 別に谷川もツチノコの卵持ってるし、何も共同発表という形を取らなくても……」


「だってよ、俺の卵まだ孵ってねえもん。

 こいつをそのままクラスメイトの奴らに見せても、これがツチノコの卵だなんて、信用してくれねえだろ」


「た、確かに。だってそれ、燻製した卵と見た目全く一緒だもんね。

 ツチノコの卵だって言っても、信用は得られにくいかも」


「だろっ!? だから今年だけは俺とジロ吉との共同の自由研究ということにさせてくれ!

 ……何も俺は難しいことは言ってない。

 ジロ吉はただ今孵ったばかりのツチノコの世話をしてくれたら、それでいい。

 そんで俺は、今日あった出来事を全て日記に記す。

 白銀のブラックホールのこととその先に繋がっていた未知の世界について、学芸会の脚本みたいにストーリー仕立てにして仕上げてくるぜ。

 名付けて、"ジロ吉と谷川のツチノコ探検記"。

 俺とジロ吉との自由研究共同作業の成果報告だ。

 そいつをクラスメイトの奴らの前で、朗読する。これで俺たちの自由研究は完成だ! 

 ジロ吉は孵ったツチノコの世話係。

 俺はあの白銀のブラックホールとその先に繋がっていた未知の世界について、学芸会の脚本みたいなものを書いてくるぜ、一晩でな」


「なにそれ! 夏休み自由研究同盟ってこと!? 面白そう! 僕、その案乗ったよ!」


「よっしゃあ! 同盟成立だな、ジロ吉。

 じゃあ、あとジロ吉にはツチノコの世話と……俺の分の漢字ドリルと百マス計算をやっておいてくれ。

 俺は一晩で自由研究発表の脚本を仕上げてくるから、その代わり、ジロ吉はツチノコの世話と俺のやり残した漢字ドリルと百マス計算を頼んだぞ」


 そう言うと、谷川は僕の気も知らないで勝手に、ゴソッと、漢字ドリルと百マス計算の山のような問題集を手渡してきた。

 谷川はすでにランドセルを背負って、帰り支度を済ませている。

 

「えええ! なんだよそれ、それないよ谷川!

 だって僕、自分の分の漢字ドリルと百マス計算だって、まだやってないのに。

 なんで僕だけ、2人分の宿題をこなさないといけないんだよ!」


「いいや違うぞ、ジロ吉! これはちゃんとした役割分担だ。

 ジロ吉はツチノコの世話とそれぞれやり残した夏休みの宿題をこなす。

 そしてこの俺様は、自由研究発表の台本を書いてくる。至って平等だ! 

 何か文句あるか、ジロ吉。ああん?」


 谷川に不良の上級生のようなメンチを切られ、僕は泣く泣く谷川の分の宿題を受け持つことになったのである。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 その後、谷川と一緒に鳩山を降り、山道沿いに走っているバスに乗って、帰路についた。

 家に帰ってから僕は早速、谷川から手渡された山のような宿題と自分の分の宿題に取り組んだ。

 漢字ドリル2人分に百マス計算2人分。

 何とかそれらを一晩の間で片付けると、あとは虫かごに入れておいた僕のツチノコ君にリンゴにバナナ、昆虫ゼリーをあげ、世話をしてあげた。


「シャーッ! シャーッ!」


 あげたエサをツチノコ君が美味しそうにむしゃむしゃと食べている様を、僕は微笑ましく見届けた。

 それから僕は風呂に入って、歯を磨き、パジャマに着替えてからその日は眠りについたのである。


 そしてその翌日。僕は2人分の宿題を自分のランドセルに入れ、首から肩にツチノコの入った虫かごをぶら下げながら、家を出た。

 自宅近くの停留所からバスに乗って学校最寄りの停留所まで向かい、そこから勾配が急な坂を10分ほど上る。

 照りつけるような激しい日差しの中、それでやっと村立蛙田小学校の正門が見えてきた。

 僕は正門前に立っているつるピカ先生におはようの挨拶を済ますと、玄関の靴箱から上履きを取り出し、それに履き替え、5年A組の教室に入った。

 いつも通り、窓際の1番後ろの席に座ると、その瞬間普段味わったことのないクラスメイトの視線を一気に感じた。

 ……と言うのもそのはず、僕はレアなモンスターとして名高いツチノコを連れ、一緒に登校しているからだ。

 たちまちクラス中大騒ぎになった。

 男女問わず、多くのクラスメイトが僕の席に駆け寄り、僕と僕のツチノコ君の関係性について、まるで雑誌社のインタビューのようにたくさんのことを聞いてきた。

 ……その中には僕がこの山奥の学校に転校して以来、ずっと好きだったクラスのマドンナ凛花りんかちゃんの姿もあった。

 肌が白くて、サラッとした髪に抜群のスタイル。クリクリなお目目。

 今まで一度も、面と向かって話したことのなかった凛花ちゃんと、こうしてたくさんお喋りすることができた。

 ツチノコ君の存在のおかげで、僕は一躍クラスの人気者になったのだ。


 それからクラスの担任つるピカ先生が教室に入ってきたことで、それまで僕の周りに集まっていたギャラリーは各々の席に戻っていった。

 

「よし、ホームルームを始めるぞ……って、おい! 谷川くん!

 あいつまた遅刻か!」


 5年A組きっての遅刻魔である谷川は案の定、この日も遅刻していた。

 朝礼のチャイムが鳴ること、2分後。

 教室後ろの扉から、勢いよく入ってくる谷川の姿があった。

 当の谷川は教壇に立っているつるピカ先生に一言の挨拶もないまま、黙って自身の席に座ると……。


「こら、谷川くん! まずは先生に一言、挨拶だって言ってるだろうがぁぁぁ!」


 ゴツン!


「痛ってえよぉぉ! 先生!」


 1年365日。5年A組にとって、見慣れた光景だ。

 遅刻魔である谷川に対して、つるピカ先生の渾身の頭突き。つるピカ先生、毎朝恒例の鉄拳制裁だ。

 その鉄拳制裁が終わり、つるピカ先生が再び登壇へと戻ると、すぐに朝のホームルームが始まった。

 早寝早起き、蛙田小学校の児童としての心構えなどの簡単な話をして、ホームルームを終えると、それから間髪入れずに、本日一時間目の夏休みの自由研究の発表が始まったのである。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「……以上、出席番号17番。慶田 凛花のママの肩叩き機でした」


 僕の想い人である凛花ちゃんの、華やかな発表が今終わった。

 これでクラスメイトの半数以上の発表が終わったことになる。

 次、僕と谷川の番が回って来る。


「出席番号18番、佐山 次郎。これからツチノコの生態調査の発表をします」

「出席番号23番、谷川 勉。次郎君と同じくツチノコの生態調査の発表を行います!」


 登壇に出て、虫かごからツチノコを取り出すと、僕はそれを手のひらに乗せた。

 ツチノコ君はそわそわしてあまり落ち着きがないように見える。

 ヘビのようなチュルチュルっとした舌を、ツチノコ君は盛んに出し入れし始めていた。

 その度に、クラスメイトはどよめく。


「「おおおお!! これがツチノコってやつか!!」」


 クラスメイト達から拍手喝采を浴びた後、僕と谷川によるツチノコ発表が始まったのである。


 早速谷川は僕の横で、一晩で仕上げてきたというツチノコ探検記を朗読し始めた。

 谷川の発表脚本は、まさに壮大な物語だった。

 まずはツチノコ探検記に出てくる登場人物の紹介。それからツチノコ探検記の世界観の説明。

 そして各種固有スキルの解説。魔法の概念。魔王の存在。種族の存在。各種専門用語の解説など、まさに学芸会ならぬ大学論文のような発表だった。

 

「こら、谷川くん! 君は夏休みの自由研究を、絵本の朗読会か何かと勘違いしてるんじゃないか? 

 今の時間は君の絵本のお披露目会じゃないんだよ! 自由研究なんだぁぁぁ!」


 ゴツン!


「痛てえよ、先生! まだプロローグ終わったばかりなのに! 第一章はこれからだって言うのに!」


 その谷川の一言は火に油を注ぐ結果となり、つるピカ先生からまた渾身の頭突きを喰らわされる羽目となった。

 

 結局この後も谷川は、夏休みの自由研究だと言うのに、クラスメイトの前で平気で絵本の読み聞かせを続けた。

 さらにはクラス全員の自由研究の発表後、漢字ドリルと百マス計算の宿題回収の時に、谷川の分の夏休みの宿題を僕に押し付けた事実までも明るみとなってしまった。

 それらのことで、つるピカ先生にはこっぴどく叱られ、放課後谷川は職員室に呼び出されることになった。

 ちなみになぜ谷川が自身の宿題を僕に押し付けたことがバレたのかと言うと、それは単純に僕が今朝遅刻してきた谷川に対して、漢字ドリルと百マス計算の宿題を渡し損ねてしまったからである。

 ……という形で、結論。

 僕は夏休みの全ての宿題を、提出期限ギリギリのところで出すことができた。

 佐山 次郎。僕はこうして蛙田小学校5年生、2学期を無事迎えることができたのである。

 

 放課後、教室の掃除を終え、帰り支度をしていると、つるピカ先生に首根っこ掴まれ、職員室まで引きずられていく谷川の姿が目に入った。

 谷川は足をジタバタさせ、その様はまるで牢屋に入れられるのを嫌がり、無駄なあがきをしている囚人のようだった。


「……はあ。今日は1人で帰るか」


 と、思ってランドセルを背負い、教室を出ようとしたその矢先のこと。


「ジロ吉く~ん。ちょっと待ってぇ~」


 クラスのマドンナ凛花ちゃんをはじめ、赤いランドセルを背負った女の子が3人ほど、僕に声をかけてきたのだ。


「ジロ吉くん! 放課後、わたしをその”時の扉”に連れてってよ!」


 まず凛花ちゃんにそのように声をかけられると、続けざま凛花ちゃんの友達もその後に続き……。


「あー! 凛花ずるい! わたしもジロ吉くんと行くー! わたしもそのプライミーバルな世界に行きたい!」

「あんたみたいな泥棒猫は引っ込んでなさい、貴子! プライミーバルな世界は、わたしと凛花とジロ吉くんだけで行くの!」

「はああ!? 泥棒猫はそっちの方よ、りえっち! 抜け駆けは許さないんだから! シャアアア!」


 などと、凛香ちゃんをはじめ、僕は女の子3人くらいに腕がちぎれるくらい引っ張られた。

 まさに女の子同士による、僕の取り合い合戦が勃発したのである。

 このツチノコの発表のおかげで、僕は一躍クラスの人気者に。また華の女の子達からも一目置かれる存在になった。

 ……ありがとう、ツチノコ、ありがとう銀髪の”時の扉”を使いし、パールちゃん!

 残りの5年生の2学期、全身全霊で楽しむよ!


 放課後、僕は凛花ちゃんを含む女の子3人を連れ、またあの鳩山に向かった。

 居残り補習を受けさせられている谷川を尻目に、銀髪の少女パールちゃんがくれた青のペンダントを握りしめながら……。

 放課後の秘密基地探索ならぬ、ポケッツアドベンチャーまがいのプライミーバルな世界の探索を目的に、これからお供の女の子3人、僕は楽しい楽しい冒険を始めるのであった。


 完  

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