第4話 時空の裂け目
「えええ!? 何ですってぇぇぇ! ここナズナクルじゃないの!? 日本ってところなの!?
……えっ、日本? 全然聞いたこと無いんですけど!」
谷川とこの銀髪の少女との喧嘩を仲裁し、僕はその娘に詳しい事情を聞いていた。
銀色の少女はどういうわけか日本という国を知らないらしい。
こんなに流ちょうな日本語を喋れているのに、全く日本のことを知らないとは、どうかしてるなと僕は率直に思っていた。
あとこの子は自称魔法使いらしく、何やら固有スキル「時の扉」を発動させ、別の国へ移動している最中とのことだった。
その娘が言うには、普段「時の扉」というスキルを使って、交易活動なるものを行っているらしい。
「あっ、自己紹介遅れたけど、わたしパールっていうの。
普段ナズナクルでモンスターテイマーをやってるの」
「はっ? ナズナクルにモンスターテイマー? なんじゃそりゃ。
しかも名前がパールって、お前宝石かよ」
谷川は相変わらず口が悪い。
銀髪の少女パールは谷川の口ぶりに、少々イラつきながらも引き続き以下の話を続けた。
「モンスターテイマーは、モンスターを専門に取り扱っている業者なの。
例えば、冒険者から預かったモンスターを施設で育てたり、あとモンスターの卵を冒険者の人たちに売ったりしてるの」
っと自称モンスターテイマーこと、パールはこう解説している。
……きっと、この娘はおままごとが大好きなのだろう。
虚構の世界と現実の世界がごっちゃになっているタイプの。
よく年頃の女の子は、家の庭とかピクニックなんかでお医者さんごっことか、家族ごっことかをやっているが、この娘の場合はどうやらそれが異世界ファンタジーのようだ。
モンスターテイマーとか、冒険者などの用語を何の恥ずかし気もなく言っているのが何よりの証拠である。
……それはポケッツアドベンチャーの中だけの話じゃないか。
この娘が言うポケッツアドベンチャー設定内でのモンスターテイマーは、主にモンスターやモンスターエッグ等の商品を冒険者間で売買しており、またモンスター預かり所の運営、一般運送業、物流運搬業、軽作業も担っている。
これらはあくまでゲーム内でのお話なのに、それを現実に持ってきちゃっているあたり、相当痛い子なのは疑いようもない。
……かなり変な娘と出会っちゃったなぁと、僕は率直に思った。
「もういい。モンスターテイマーにナズナクル……聞き飽きたぜ。
それより白髪。俺にあのブラックホールのタネを教えてくれないか?」
「タネ? タネって何のことよ? あれはただの魔法だってば。何回もそう言ってるじゃない。
あとわたし白髪じゃないし。ちゃんとしたシルバーだし。訂正しなさい! 今すぐに!」
「うっせえ! 白髪は白髪だろうが、ボケナス!
……あと魔法、魔法言って誤魔化そうとすんじゃねえよ、白髪野郎!
何かマジックの種明かしみたいな物があるんだろ?
俺はただその種明かしをしろって、言ってんだ。
……お前はどうやって、あんな物を作ったんだ? どんなトリックが隠されてる?」
谷川はやれやれと肩をすくめながら、そのように言った。
銀髪の少女の魔法発言など気にも留めず、谷川はただ白銀のブラックホールの種明かしをしてくれといった主張を続けている。
「だから転移魔法”時の扉”を使ったんだってば! ただの魔法だってば! 何でわからないのよ!」
「はあ? 何が転移魔法だ。俺はゲームの話をしてんじゃねえよ。マジックのタネの話をしてんだ。
……内容によっちゃあ、それを俺の自由研究の内容にしたいと思っている。
いいからとっととあのブラックホールの秘密を俺に教えろ!」
まさか谷川は本気で、あのブラックホールを自由研究の題材にするつもりなのだろうか。
……さすがにマジックはないだろう。学芸会じゃあるまいし。
自由研究の発表で、あんなマジックをこの娘に教えてもらったところで、どうやって披露するつもりなんだろう。
僕は率直にそう思った。
「だから、魔法だってば! ま・ほ・う!
わたし、転移魔法”時の扉”の加護があるから、それを使っただけだってば!」
「うっせえわ、魔法魔法って。いい加減聞き飽きたわ!」
谷川は銀髪少女パールの発言に対し、明らかに苛立っていた。
谷川を含め、僕もたぶんものすごく険しい顔をしていたと思う。
ナズナクルにモンスターテイマー?
ナズナクルって、この銀髪の娘が言うにはおそらく国の名前なのだろう。
だが最近父さんに買ってもらった子供辞典には、そんな国名、どこにも乗ってなかった。
あと子供辞典に載っていた将来なりたい仕事ランキングにも、モンスターテイマーなんて職業は無かったと思う。
お医者さん、YOUTUBER サッカー選手、アイドル、歌手、大工さんは、小学生が成りたい人気ランキングTOP10に載っているけど、そこにモンスターテイマーの名前はなかった。
……ちょっと色んな意味で、この娘はこじらせすぎている。
もはや痛い娘っていうレベルで収まり切らないくらいだ。
「ちょっとさっきから何なの、あなた! 初対面なのに口悪いわね!
わたしこう見えても18なんだから、ちょっとは年上を敬いなさい」
「あん!? 何だと、この白髪! どう見ても、お前俺らと同学年だろ!」
またまた両者の間で、喧嘩が勃発しそうになったので、僕は慌てて2人の間に割って入る。
「まあまあ、落ち着いてよ2人とも。
でもナズナクルなんて国、少なくても僕は聞いたこと無いな。
しかもモンスターテイマーなんて職業も」
「……まああなたたちみたいな子供が、モンスターテイマーのことを知らないのさておき、なんでナズナクルを知らないのよ!?
この世界で一番大きい国じゃないのよ!?」
「バカかお前は。世界で一番でかい国って、アメリカに決まってるだろ。これ常識だぞ」
そっくりそのままのことを谷川に返してあげたい気分だった。
世界で一番の国土面積を誇る国は、ロシアに決まってるだろう。これ常識。
まあそんなことはさておき、この娘の瞳の色と髪色からして、明らかに北欧のノルウェーだか、スウェーデンの人のような気もしてきた。
ざっくりした知識でしかないけど、北欧神話の妖精にこんな見た目の女の子が存在していたと思う。
……そもそも何でそんな寒い北の国の人が、こんな蒸し暑い田舎の山の中に居るのだろうか。
アイスクリームが夏の暑さに溶けちゃうみたいに、この北欧の少女もあまりの暑さで溶けたりしちゃわないだろうか。
少し心配だった。
「もう何が何だか分からない! わたし、確かにナズナクルに「時の扉」で転移魔法かけて、来たはずなんだけど! もうわけがわからない!
もしかしたら、あなたたちがどうかしちゃってるんじゃなくて、このわたしがどうかしちゃってるわけなの!?」
そう言うと、銀髪の少女パールは1人で取り乱し始めた。
「もうわけがわからない! のはこっちの方だ、バカ白髪。
俺もお前の言う、時の扉だか転移魔法だとか、何言ってんだかさっぱりわかんねえよ。
お前、ままごとのやり過ぎで、頭おかしくなってんじゃねえの?」
谷川の口が、ここぞとばかりにどんどん悪くなる。
ここまでくれば、それはもう毒舌のレベルだ。
「魔法、魔法って言葉でごまかして、あのマジックの種を教えるつもりがないんだったら、こっちにも考えがある。
……いいかよく聞け、白髪野郎。
俺は今からお前の光り輝く髪を、少しだけむしり取る」
「はっ? あんたいきなり何言ってんの? わたしのこの麗しい髪をむしり取るですって?
……全然話が見えてこないんだけど。っていうか、逆に見えてくる方が怖いんですけど!
いったいあなたは何を企んでいるの!?」
「なに簡単なことだ。お前の髪を俺にちょっと分けてくれってだけの話だ。
お前のその光り輝く髪をかき集めて、それで光るチリトリをつくる。手のひらサイズのな。
それで俺の自由研究は完成だ。
どこの100均にも売っていない、白銀に輝くミニチュアサイズのチリトリ!
きっとプレミアがつくぞ……ってな、はははは!」
谷川は明らかに、悪の組織のボスのような笑いを浮かべていた。
「え? え? え? ちょっと待ってよ! 何よ、自由研究って。
わたしの髪をむしり取って、いったいなにを企てようって言うの!?
……まさかわたしの髪を使って、何か変な研究に利用するつもりじゃないでしょうね!? 冗談じゃないわ!」
「……お前はさっきから、何わけのわからないこと言ってんだ。いいからよこせ、お前の光り輝く髪の毛を!
俺は今、自由研究に取り掛かっている真っ最中なんだ!
ほんのこんくらいでいいから、頼む! 俺にお前の髪を分けてほしい!」
谷川はそう言うと、ランドセルから今日の図工で使ったハサミを取り出した。
そしてそのハサミを片手に持ったまま、もう片方の手の人差し指と親指を使って、その大きさらしき物を指し示しながら、どんどんその銀髪の少女に迫っていく。
「おい谷川! お前ハサミを人に向けたらダメだって、今日の授業で習っただろうが!」
しかし僕の忠告を無視し、谷川はどんどん銀色の髪の少女との距離を詰めていく。
ハサミをチョキチョキ言わせながら、可憐な少女に近づいていくその様は、まるでホラー映画の殺人鬼のようだ。
「きゃああああ! 自由研究って、やっぱりあなた言動にあきたらず、思考回路も変な人なのね!
自由研究っていったいわたしに何する気なのよ。
見た目によらず、ひょっとしてあなた、結構危ない系の世界の人なのね!
わたしの髪になんて、何の希少価値もないわよ!
きゃーー! たすけてー! この人にむしり取られるー!」
パールはそう言うと、谷川から逃げるように背後の白銀のブラックホールの方へと走って行った。
「あっ! 待て! 俺の自由研究!」
光るチリトリのためなのか、谷川は逃げるその少女を追いかけ始めた。
彼女はその白銀のブラックホールの中まで逃げ込むと、そのままそのブラックホールの中に掃除機の吸引機か何かで、ゴミを吸い込まれたかのようにして、姿を消してしまった。
当の谷川も銀髪の少女の後を追う形で、白銀のブラックホールの中にそのまま呑み込まれていった。
「えええええ! 人が消えた! しかも2人同時に!
……怪奇現象だ! こんなのテレビとかでしか、見たことなかった!」
さっきまで僕の周りにいた2人が、あの白銀のブラックホールの中に消えた。
僕は不思議と、そんな衝撃的な光景を目の当たりにしても、怖さを覚えなかった。
……いやむしろ、興味が湧いていたのだ。
あのブラックホールの中身って、いったいどうなってるんだろう。
そんな単純な知的探究心が、沸々と心の中で湧いてきたのである。
「おい、谷川! 待ってくれよー」
恐怖よりも興味が勝った僕は、後先考えず、そのブラックホールの中を、2人の後を追うような形でくぐっていったのだった。
この”時の扉”をくぐった先に、今まで見たこともなかった驚きの世界が広がっていたことも知らずに……。




