第2話 いざ、ツチノコ探し
僕の通っている村立蛙田小学校は、都会から遠く離れた辺鄙な村の中にあった。
周辺を山に囲まれている、所謂、盆地という所に僕の学校は建っているらしい。
これもさっきの地理の授業で習ったことだ。
谷川と一緒に学校を出たのは、ちょうどお昼の12時過ぎ。雲ひとつもない快晴の空だった。
帰りのバスは1日3時間ごとしかこの辺を走らないし、それを1本逃してしまえば、家に帰るのが遅くなってしまう。
次のバスは確かお昼の3時と夕方の6時。それ以降のバスは、翌朝の5時からしか走らない。
それまでに僕たちは谷川の言うツチノコを捕まえて、自由研究を仕上げなければならなかった。
「急げ、ジロ吉! タイムリミットは明日までだぞ!
それまでに俺たち自由研究と算数ドリル、漢字ドリルを終わらせるぞ!」
「お……おう。そうだな。
ってか谷川。そのジロ吉って呼び方、やめてくれよ。普通に呼んでくれよ」
「うっせえ! ジロ吉はジロ吉だろ!?
……ってかそんなことはどうでもいい! お前もツチノコを探すのを手伝え!
それ! 網と虫かごだ! あとスコップも!
手当たり次第、ツチノコを探せ、探せ!」
谷川は学校のロッカーから持ってきた虫取り網と虫かご、スコップ一式を僕に渡してきた。
谷川が言うには、ツチノコを捕まえるために必要な3点セットならしい。
「ああ、ありがとう谷川。……っておい。そもそもツチノコってなんだよ? 僕ツチノコなんて昆虫、全然知らないんだけど。
ツチノコって昆虫は、この鳩山のどの辺りに生息してるの?」
僕は学校を出る前から今に至るまで、ツチノコがどういった存在なのか全く知らなかった。
「えっ? お前ツチノコのこと知らずについてきたのかよ。まあいい、ちょっくら説明してやらあ。
まずツチノコってやつはなあ、昆虫なんかじゃねえ。UMAの一種だ」
「UMA?」
「未確認生物のことだよ。言ってみれば超レアな動物のことだ」
「へー、レアな動物かー。……じゃあつまり僕たちは今から、そのツチノコって言うレアな動物を鳩山で見つけ出して、標本にすればいいのか」
「そうそう。そういうこと」
「……でも自由研究なら、別にカブトムシでもクワガタでも適当な奴を獲って、標本作ればいいじゃないの?
去年もそうしてたじゃん。
何で今年は、よりによってツチノコなんだよ」
「バカ野郎! カブトムシとかクワガタの標本とか、そんな生ぬるい物で許されると思ってんのか!?
去年とまんま一緒なモンを提出しちまったら、あの先公、絶対頭突きかましてくるだろ!
……あとそれになあ、ジロ吉。今年の自由研究は例年とひと味違うんだぜ。
何と今年は、クラスの自由研究の発表で大賞取ったら、QUOカード貰えるんだぜ! しかも500円分!」
「500円も!? 大金じゃん! まいう棒、たくさん買えるじゃん!」
「おうよ! だからジロ吉、ツチノコ探せ、探せ! ツチノコを標本にして、大賞取れば、まいう棒食い放題だぜ!」
何て夢のある話なんだろう。そのツチノコってやつを見つけて、捕まえさえすれば、駄菓子屋にあるまいう棒を独り占めできる。
「うん! 僕、俄然やる気出てきたよ! ツチノコ探し、頑張ろう!
……っで、僕はこの後、この虫取り網とスコップで、何をすればいいの?」
「簡単なことだ。そこらへんの土を掘って掘って掘り起こせばいいんだよ!
……スマホでちょっくら調べたら、そう書いてあったぞ」
「そうか、わかった! ひたすらこの辺を掘って行けばいいんだね!
……ええっとあと、谷川。ツチノコってどんな見た目してるの? それ詳しく教えてよ」
「ん? ああ、ツチノコはな、見た目が小っちゃいヘビみたいなやつだ」
「見た目が小っちゃいヘビ? ざっくりしすぎててわからないよ。
……ってかそれ、ただのヘビとどう違うの? もっとはっきり言ってよ」
「う~~ん。口で言っても分からねえんだったら、ちょっと待ってろ。
今、スマホ取り出す。画像で見せてやるから」
谷川はそう言うと、ランドセルを一旦地面に降ろしてから、スマートフォンを取り出した。
そして巧みな指さばきで、あれこれ操作していると、やがてそのツチノコらしき写真を見せてきた。
「ほれ、これだジロ吉。……見た目ヘビなやつだろ?」
確かに谷川の言う通り、見た目ヘビなやつだった。
頭は完全にヘビそのもので、腹の辺りが少しふっくらしている。
短小というか、どちらかといえばずんぐりむっくりしている印象だ。
「まあ確かに。……ってか谷川。もうスマートフォン買ってもらったの?
いいなあ。羨ましいなあ」
「へへ~ん! かっこいいだろ!? お前も親にねだって買ってもらえよ。
俺も早くモンドラのフレンドボーナス欲しいし」
「無理だよ、谷川。
”どうせスマホ買ったら、ゲームばっかりするでしょ!”って、親に口酸っぱく言われてるから、当分の間、買ってもらえそうにないよ……」
「そこを何とかしろよ、ジロ吉。俺なんて母ちゃんの前で、駄々こねて、床を這いつくばってたら簡単に買ってくれたぞ?」
「何それ、みっともない。そんなカッコ悪いこと、僕できないよ。恥ずかしくないの? もう5年生だよ?」
「欲しい物のためだったら、恥も外聞もねえだろ、ジロ吉! スマホ欲しいんだったら、手段を選んでる場合じゃねえぞ!」
「……何だか大人みたいなこと言うね、谷川」
「ああ! 俺はもう小学5年生だからな……って、こんな無駄話してる場合じゃねえぞ、ジロ吉! とっととツチノコ探すぞ!
ツチノコって、こういった山の中に生息してるみたいだから!」
「うん、わかった! 手分けして探そう、谷川!」
「おうよ! ツチノコ、絶対捕まえるぞー! そして自由研究で大賞取るぞー!」
「おー!」
僕は握りこぶしを高く突き上げた。
こうして僕と谷川は二手に分かれて、手当たり次第、スコップで鳩山の土を掘り始めた。
「6時のバスまでに何とか探し出すぞ! 俺はこっちの方を探す。ジロ吉はこの周辺をくまなく探してくれ!」
「ほい、来た! 何だか宝さがししてるみたいだね! ワクワクしてきた!」
「急げ―! ジロ吉! 口を動かす前に、まず手を動かせ―!」
「おっけー!」
自由研究で大賞を取れれば、寒山先生こと通称つるピカ先生から、QUOカード500円分がもらえる。
僕たちにとって、それはまさしく金脈を探し当てるのと同じことだった。
ツチノコを探して捕まえれば、QUOカード500円。
僕たちは宝探しをしている気分で、引き続き鳩山の土を夢中で掘り続けたのだった。




