躾けられる日常
16日まで連続投稿
朝、目元の剥がれかけたガムテープの隙間からうっすらと差し込む光が意識をはっきりさせてくる。
寝ると言うより意識を飛ばしながら寝込んだ体は汗でぐっしょりと濡れており、体力はほとんど残っていなかった。
気持ち悪さを覚える体を流す為立ち上がろうとして手元が動かない事に気づく、お風呂あがりに拘束されてから一度も解いて貰えていない。
トイレに行く許可を得られた時だって恥ずかしい格好でさせられていた。
彼女がどこから見ているのかもわからなかった、ただ扉が閉まる音はしなかった、息遣いが近くなった時もあった。思い出すと恥ずかしくなってくる。
彼女に誓いを立てた後、意識を飛ばし、目が覚めた時にはご飯を直接与えられていた。それからも自分から行動する事は許されずひたすら溶かされていた。
思い返すと汗で冷えた体が火照り耳元や全身が敏感になる、彼女はどこだろうと思い辺りを見渡すとキッチンから換気扇の音が聞こえた。
どうやら料理を作ってくれているらしい。
それならそうと拘束ぐらいは外してもいいんじゃないかと思う、この状態で放置されていたら手作りの料理だって食べられない。もしかしてまたあの食事方法を取るのだろうか、慣れてしまいそうで怖い。
そうこうしていると扉が開かれる、裸にお茶碗二つを手に持ったなかなか見ない絵面だ。
「おはようございます、寝覚はどうですか?一応朝だから軽いものと思って味噌汁とおにぎりと小鉢で済ませてみました、たべます?」
「食べたい……だけどこの状態じゃ食べられないから解いてほしいな、仕事の準備とかしたいし」
「うーん、食べさせてあげたいですけど私も時間がありませんし、そうですね、良いですよ」
少し残念そうな顔をしているがしっかり笑顔だ、やっぱり何を考えているのかわからない。手元や足元の結束バンドを切りながら体を押し付けてくる、元気になるのでやめてほしい、というか服はなぜ来ていないのか。
「ありがとう、気になったんだけど服は着れなかった?」
「服…ですか?彼シャツしてみようと思って探したんですけど背丈の問題でできなくて……それならこのままの方がいいかなってこうしました」
「そっか…似たり寄ったりくらいだから普通の服は着れたよね」
「男性の家に初めて寝泊まりするのにそれじゃ味気ないじゃないですか、それに衣類なら持ってくるので大丈夫ですよ」
住む気なんだ、というかこれ大丈夫ではないな、物事の根幹からしてアウトだった、気にしないでおこう。
お互い隠すべき場所が隠れていない、とにかくお風呂に入って服を着ようと思い立ち上がるとチャイムがなった。
気のせいだろうか、こんな時間に、と言うか今何時だ?時計を見ると針が11時をさしていた。
絶望的だった。
「どうかしましたか?」
「確かアラームセットしてたよね、鳴ったかな? 」
「煩かったので消しました、あと電話ならずっと来てましたよ、上司からですって、メールも沢山……確かあなたの上司って女性じゃありませんでした?」
明らかに非は向こうにあるはずなのにすごい睨まれている、上司の性別なんて関係なく遅刻は重罪な気がするが逆らってはいけない。今は目の前の女の子が上にいる。
「とりあえず出る為に服着ていい?」
彼女は睨みながら間を開けたのち、いやらしい目つきでこう答えた。
「駄目です、そのまま出てください、服を着るのは許しません、扉から顔だけ出してもらえればいいですから」
どうにも人生をめちゃくちゃにしたいのは変わらないらしい。
扉の向こう側
松井君が会社に来ない、電話はメールにも出ない、初めての事だった。彼の教育担当の上司として面倒を見るのは当たり前のことで不満はない、むしろ心配なくらいだった。
真っ青な顔で話しかけても上の空、机の仕事は手付かずでこのまま居させても良くならないだろうと思い帰らせたが次の日がこれだ、何かあったのだろうと思うしもしかしたら仕事が嫌で失踪したのかもしれない。
何にしても相談は必要だと思い家まで来た。
初めての道だったが何とか迷わずに来れた事にホッとし、気持ちを入れ替えてインターホンを押した。
少し待ってから反応がないことを確認してどうしようかと悩んでいる。一応社宅扱いの為予備の鍵が会社にはあり今それを使うのもやぶさかではない。
しかしそれでもしプライベートなどを損なってしまったら相談どころではないのだろうと思いブレーキをかけていると扉が開いた。
むわっとした熱気と味噌汁の匂いがした。
「おはようございます……鈴木先輩、すいません」
扉から顔だけをひょこっと出しながら恐る恐るといった感じで謝ってくる。生きていた事にとりあえず安心し叱るのはまた今度としておく。
「松井君、もしかして寝てた?」
「連絡もせずすいません、寝てました……」
「それなら良かった、心配したんだよ、昨日だってあんな真っ青な顔で帰ったんだから、体調とか大丈夫?無理してない?」
「はい、なんっ…とか…」
(〜〜♡)
「ほんとに大丈夫?体調良くなさそうだけど」
「大丈夫っ…です、すぐ着替えてくるのでっ!!」
「ほんとに?さっきから変だけど、やっぱり熱がない?」
顔が赤くなり呼吸も乱れている、心配になり確かめる為に彼のおでこにおでこを合わせる。
「やっぱり少し熱がない?汗もかいてるし…」
「〜〜!!近づいたら駄目です!!」
「あっ、ごめんね、嫌だった?」
「そうじゃないんですけど…痛っ!……」
「大丈夫!?さっきから変だし、会社には休むって伝えておこうか?」
様子がおかしい、このまま病院にでも連れて行った方がいいのかもしれない。そう思い扉を掴んでる彼の手を触ると急に彼が急にビクッとした。
「やめっ…背中吸わないで……さわさわしないで……」
消え入りそうな声で何かを呟いている、やはり病院でみてもらった方がいいと思い扉を開けようとする。
「開けないでくださいっ!!」
「えっ」
思わず手を離す。
「……すいません、少し部屋が汚くて、先輩に見せられるような状態じゃないんです」
「そ、そうなんだ…それじゃあ私は外で待ってるから、準備ができたら教えてね」
「ありがとうございます……すぐ準備しますね」
そう言って扉を閉める。
閉める際に出てきた料理とは違う濃い臭気、彼の赤く染まった耳、目を合わせずに俯いたまま頭を扉から出さずにいた理由、扉を開けようとした際に彼の首元から後ろに肌色が見えた事を思い出す。
壁越しにナニをしていたのか、考えるとのぼせてしまう、まさかそんな、今までも彼が私をそう言う目で見てた時期があることも知っていた。
だが最近は完全に先輩としてしか見ておらず、そんな大胆なことをするような子でも無かったはずだった。
しかし……。
「あのまま扉開けてたら……どうなっちゃってたんだろう」
タラレバの可能性に羞恥心と興味を抱きながら待っていた。
扉の内側
扉を閉め、力が抜け、背中から彼女が抱き止める。
「すごかったですね、あんな状況の中上司に見られながら腰浮かしちゃってだらしない顔晒して、見られないよう顔を伏せてたのに顔を一気に近づけられて…… 」
「興奮してましたよね、見てましたよ、どう見ても惚れた女の子の顔をしてました。好きな人と顔の距離が近くなって、見られちゃいけないものを見られそうになって……恥ずかしさと嬉しさがないまぜになったような顔……私にはそんなデレデレしなかったのに……この口がいけないのかな」
「あぐっ!」
そう言いながら彼女は二本指を口の中に無理やり突っ込んできた、彼女の指に傷をつけるわけにもいかずなすがままにされる。
「ひがっ、そうひゃなっ…んっ、げほっ」
「黙れ」
弁解をしようとすると舌を押さえつけられ指を喉奥まで入れられる、生理的反射で嗚咽が漏れ気分が悪くなる。
「まっへ、はなひ……んぐ…ゲホッオエッ」
「そうしていれば可愛いのに、あぁ、ごめんなさいいじめすぎましたね、それじゃあこれで許してあげます …んっ、れろっ…ちゅぷっ…」
「あっまっ…えっふ…ゲフッ……オゴッ」
彼女が耳の中に舌を挿れ責め立ててくる。喉奥に突っ込まれた指はそのまま撫でるようにぬるっと奥まで差し込んでいき未知の感覚へ襲われる。
耳を嬲られる気持ち良さと喉を圧迫する気持ち悪さが全身を貫き少なからず漏らしてしまう。
嗚咽と共に涙が流れ視界が朧げになる。
頭の中が明滅し目の前がチカチカとしてくると指を離される。チョロロロと残る虚しい音がしていた。
「ウグッ…ゲフッ…オェェ…コヒュー…コヒュー……」
「んちゅ……あぁ、漏らしちゃって…いい歳してみっともない…赤ちゃんですか?目元も赤くなっちゃって、本当に駄目な人ですね、掃除に着替えにお風呂に…上司、待たせちゃいますよ?ふふっ」
人間として侵されてはいけない領域を侵され気持ち悪くなりながら気持ち良くされる、人間としてこれほど尊厳を破壊される事は嫌なはずなのに、安心している自分がいた。
「ゴホッ…まひる様……ごめんなさい……人として恥ずかしい姿を晒してごめんなさい……他の女性にみっともない姿を晒してしまいました、あろうことかその昂りををまひる様に気持ちよくしてもらいました……ほんとにごめんなさい」
「良いんですよ、正直なあなたは好きです、だから他の人に尻尾を振るような真似は絶対にしたら駄目ですよ、次はその醜いぶら下がってるもの、潰しますよ」
寒気が走りながらも心が落ち着いていくのがわかる。今この身は全て彼女の手に委ねられている、その安心感は何者にも変え難く体が汚い事も忘れて彼女に抱擁を求めてしまう。心地がよく甘くて苛烈な言葉は心を駄目にするには十分だった。
「本当に可愛いですね…このまま食べたいですけど、私も学校に顔を出さないわけにはいきませんし、人を待たせてますからね、ほら、立ってください」
「ここは掃除しとくのでお風呂に入ってください、昨日のも含めて色々と匂いますよ、私は好きですけど」
気力を振り絞りながら立ち上がり急いでお風呂で体を洗う、髪もべっとりとしていて洗う箇所だらけで、ゆっくりしているわけにもいかないのに体が昨日のお風呂を思い出す、快楽に身を委ねてばかりではいけない、心を強く持とう、そう思いお風呂を上がる。
「あぁ、上がったんですね、スーツ、用意しておきましたよ」
「ありがとう、それじゃあ着替えたら行くね」
「ご飯は仕方ないですから私が片付けておきます」
「ほんとは食べたかったんだけどごめん」
「お仕事、頑張ってきてくださいね」
スーツに着替え髪を整え玄関まで来ると彼女がこちらへ向かってくる。勢いよくキスをして抱きしめてくる、いってらっしゃいのキスというやつなのだろうか、軽いキスでも無ければ重量感のあるキスでも無かったが、心は暖かった。
「それじゃあいってらっしゃい、あなた」
「あと、さっきしたお仕置き…もっとされたかったら良い子にして帰ってくるんですよ」
そう言って彼女はネクタイを強く締めてくる、首絞めと言う単語に今まで良い思いは無かったが、これは癖になる。生存本能か何かが刺激されたようなこの感覚は頭の中に確かなスイッチが作られている。
この感覚に溺れてひとたび身を落としてしまえば戻るのは難しいだろう。
「ありがとう、楽しみにしてるけど、次は優しくお願いしたいな」
「わがままですね、そう言われたら尚更いじわるしちゃいますよ」
「それじゃあ、行ってらっしゃい」
見送りのある出勤で心が軽くなった。