意外な人物からの連絡
凛が2年上の先輩と付き合っているという噂を聞いたのは高校に入学して一ヶ月くらい経った頃だった。サッカー部に所属する校内でも評判のイケメン男子だとクラスの同級生が話していた。
驚きはしなかった。凛は小さい頃からモテていたし、今までこう言った話がなかったのがおかしなくらいだ。凛はそんなこと俺には話もしなかったけど、幼馴染だからと言って恋愛話を共有しなければならないなんてことはない。どんなに仲が良くても誰もが何かを隠していることは俺が一番よく知っていた。
ただ凛とは今でも登下校が一緒だ。彼氏がいるのに二人でいるのもどうかと思い、一緒に下校する凛に俺は言った。
「彼氏がいるんなら、俺と一緒にいない方がいいんじゃないのか」
何気ない言葉のつもりだった。ただ凛はムッとしたような表情を浮かべていた。
「信用ないんだね、私」
「はぁ?何言ってんだよ」
「あんな噂、信じるの?私にはリクちゃんがいるのにあんな先輩と付き合うわけないじゃない」
相変わらず怖い女だと思った。俺からすれば付き合うわけないと断定する方がおかしい。今、凛とその先輩がどういう関係かは知らないけど、男女のことだ、これから何があってもおかしくはない。凛の言葉を信じることができない。過去の俺は違った。結衣が話す言葉は全て信じた。信じていたからこそ傷ついた。
気づくと俺は突き放すように言っていた。
「信用するもしないも、俺たちは付き合っているわけじゃないんだから、お前が男を作ろうと勝手なんだよ。お前が男とラブホテルから出てきても俺は何も驚かないからな」
そう口にすると、凛は涙を浮かべた。そして「なんでそんなこと言うの」と言った。
「私があの先輩とラブホテルから出てくるわけないでしょ。それにこんだけ長く一緒にいるんだから少しは信用してよ」
凛は珍しく怒ったのか、そう言って足早に俺から離れていった。
凛が何を言おうが、涙を流そうが俺の心は何も変わらない。他人を信用できるわけないじゃないか。俺は自分ですら信用できないというのに。
家に帰ると、俺はいつものように高槻について調べ始めた。結衣の日記を読んで以来、気づくと俺は政治家高槻徹のことをネットで調べてしまっている。忘れたいのに、ずっと過去に急かされている、そんな気分だった。
表向きの高槻の経歴は輝かしいものだった。大学時代はその長身を生かしてモデルなどをやっていたらしい。そして大学卒業後、衆議院議員である父親の公設秘書を経験した後、県議会議員に当選する。
一方で検索をかけていると高槻の悪い噂も目にした。どうも大学生の頃の高槻は女性との間でトラブルを度々起こしており、そのたびに示談でことを丸く収めていたというのだ。事実かどうかはわからないが、高槻の情報を探っているとポツポツとそんな悪い噂に出くわした。俺にとっては実に高槻らしい話だと思えた。高校の時から高槻の女癖の悪さは有名だったからだ。性欲の問題は大人になっても変わらないらしい。
高槻について調べていると、結衣が自殺したのかどうか調べてた時に作った、記者を騙った偽アカウントにメッセージが届いていた。昔の知人が新たな情報でも送ってきたのかと思い、見てみるとメッセージは意外な人物からだった。結衣の名字、白石という文字が目に入る。
「16年前の真相を探っていると伝え聞いて連絡しました。少しでもお役に立てればと思いまして。私は白石結衣の姉です」